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心春のお願いなわけで

 <8月24日 AM11:00>

 

 ククスの店内で案内された席は2人用のテーブルを繋げ、ソファーの席と椅子が二脚用意されている。適当に座ろうとするが、4人とも座らない。


「どうしたんでしゅ? 座らないんでしゅ?」


 4人が見つめ合う。よく分からないので、俺がもう一度、座ろうすると4人が同時に一歩踏み出す。


「な、なんでしゅ? 何が起きてるでしゅ?」


 困惑する俺をよそに、4人が鋭く視線を交わし合う。

 なんとなく察した俺はテーブルの上にある、呼び出し用のベルを押す。すぐにやって来てくれた店員さんにビシッと手を上げる俺。


「お子しゃま用の椅子を持って来てくだしゃい!」


 すぐに店員さんが持ってきてくれた椅子を、テーブルの真横に設置してもらうと、俺は席順を決める。


「くりゅみ、珠理亜の順でショファー、楓凛しゃん、いりょはの順でいしゅ(椅子)にしゅわるでしゅ!」


「えー! 何で私が一番奥なのっ!」


「うるしゃいでしゅ! あいうえお順でいったらこうなっただけでしゅ。茶畑はこの4人の中では致命的に遅いんでしゅ!」


 困ったときの五十音順。あしかり、あめみや、いせみ、ちゃばたけの順で並べただけだ。ショックを受ける彩葉だが渋々席に着く。


 彩葉よ、相手が悪かった。


 取りあえずはドリンクバーを注文し、各々飲み物を用意したところで話を始める。

 とっとと終わらせたい俺は、この女子会の発端である來実に問う。


「くりゅみ、わたちに聞きたいことってなんでしゅ?」


 ジュースが気管に入ったのか、むせる來実。胸をどんどん叩き涙目で俺を見てくる。

 何か言おうとして、躊躇する來実。いつもの勢いがないのが気になるが、話が進まないので促してみる。


「言いにくいことでしゅ? べちゅに答えれないことには、答える気はないでしゅから、期待せじゅに聞いてみるでしゅ」


 下を向いて何か呟いて、気合いを入れているようだ。やがて決心がついたのか、俺をキッと睨む。

 別に睨まなくてもいいのに……ちょっと怖いんだけど。


「あのさ、この間の夏祭りで、心春、舞夏とそのお姉さんと一緒にいただろ?」


 夏祭り? 舞夏とそのお姉さん……あっ、なんか凄く嫌な予感がする。

 舞夏のお姉さん、ひなみさんって変態ですよね? とかなら自信を持ってイエスと答えられるのだが、違うよな……。


「話の内容聞いてしまったんだ、その心春が、えっと……あれでさ……」


 他の3人の手前、気を使ってくれて内容をハッキリ言わないようにしているんだろう、上手く言葉に出来なくて「あれ」とか「あの」が多いが。

 なんとも不器用なヤツだが、その気持ちは嬉しい。


「ちょっと、体の調子が悪いんでしゅ」


 俺の言葉に残りの3人も驚いた表情で一斉に俺を見る。


「右手、右あち()の痺れがあるでしゅ。ひなみにはしぇいみちゅ(精密)けんしゃを受ける場所を、しゃがしてもらってるんでしゅ」


「それでしたら、わたくしのところに! 設備も必要なものも揃うはずですわ!」


 椅子から立ち上がり、そう宣言するのは珠理亜。


「おしょらく、脳から神経伝達系の不具合でしゅから頭の部品を変えれば簡単に治るでしゅ。しょれに最近のAMEMIYA製はブラックボックシュ部が多いでしゅから、わたちの部品と合わないかも知れないでしゅ。


 わたちの部品は一世代前のパーツなら使用ちてましゅから、しょのときはお願いするかも知れないでしゅ。けんしゃ(検査)結果ちだいでしゅけど」


 まだ何か言いたそうな珠理亜をおさえ、発言するのは楓凛さん。


「なんでそんな大事なこと言ってくれないの? それはひなみに比べれば頼りないだろうけど、私にも出来ることあるかもしれないよね」


「しょれは謝りましゅ。まだ、けんしゃ(検査)段階でしゅから、みんなに言って不安を煽りたくなかったんでしゅ」


 むっとした顔で納得のいかない顔の楓凛さんの横から、ぴょこと覗く彩葉。


「トラ先輩は知ってるの? なんにも言ってなかったけど」


「知らないでしゅ。おちえてましぇんから」


 なんで? と同じ表情の4人の目は、真剣に俺の答えを待っているのを感じる。


「けんしゃ結果を聞いてから、おちえようと思っていたでしゅ」


「うそでしょ」


 彩葉に即否定され、俺を睨む彩葉を見る。


「こはりゅは、ずっと黙っておくつもりだったでしょ」


「そんなことはないでしゅ。ちゃんと──」


「それはないね、だって私なら黙ってるし、こはりゅも同じことするでしょ」


 無茶苦茶な理論で攻めてくる彩葉、だがこれが当たってるから困ったものだ。


「ねえなんで、マスターの虎雄くんが知らないの?」


「そうですわ、それはおかしいですわ。心春さんのマスターは虎雄さんですから、知らないということはあり得ないはずですわ」


 黙っている俺に、楓凛さんと珠理亜がごもっともな意見を述べてくる。少しアンドロイド事情に詳しければ誰しもが疑問に思う、マスターを無視してアンドロイドどが自己判断しているこの状況、普通におかしいからなぁ。


「トラは、実はマシュターじゃないんでしゅー」 とか 「真のマシュターはひなみなんでしゅ!」 や、いっそここで 「わたちはトリャなわけでー」とか話してみるべきなのか。


 なんと言うべきか悩んでいる俺は、眉間にシワをよせ唸る。


「権限とかどうでもいいんですよ。こはりゅ、トラ先輩には教えれないの?」


 彩葉の一言に楓凛と、珠理亜が黙る。権限問題については一先ず回避できたが、さてなんと言おうか。正直言って、今はトラに話すつもりがないのが本心なのだが……。


「もう少ち待ってもらえないでしゅか……時期が来たらちゃんと言うでしゅ。しょの、トリャの気持ちが決まったら、で落ち着いて、わたちが話せると判断して、むぐぅぅ!?」


 いつのまにか隣にいた彩葉に両頬を引っ張られもがく俺。


「全然言う気ないじゃん!」


 俺のお願い届かず。

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