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真の女子会開催なわけで ~呼び出し~

 <8月24日 AM9:15>


 ランニングから帰ってきたトラはシャワーを浴びて、さっぱりとした後、リビングにやってきてお茶を飲んでいる。


 改めて見ると俺ってあんなだったっけ? 鏡で見ていた頃の俺とはかなり違う気がするのだが。


 自分の可愛らしい手を見る。たかだか数ヶ月だけども見慣れた手。随分と馴染んでしまったものだと染々と思う。


「こはりゅお姉ちゃん、どうかしました?」


 俺が見つめる手を隣に来た夕華が覗き込んでくる。

 この子が来て一週間も立っていないが、かなり我が家に馴染んでいて、最近は俺と夕華にお揃いの服を着て、母さんに写真を撮られる日々が続いている。


 そのときの夕華は服を着て、不思議そうにしながらも、母さんの撮影会に付き合っている。撮影会が終わった後に洋服の感想を言う夕華は、どこか楽しそうに見える。

 俺の勝手な思い込みかもしれないが。


 その撮影会が先程終わって、俺と夕華は洋服について話していたわけだ。

 洋服の話と言っても、これが可愛いだとか、お互いに似合ってると言うだけなのだが、これをなぜだか楽しいと思っている俺がいる。ちょっと怖い。


 そんな俺の服装はカットソー(白)にジャンパースカート(ブラウン)である。

 夕華は色違いでカットソー(黒)にジャンパースカート(白) になっている。


 2人いるとより可愛いのである。そんなことを思いながら夕華の質問に答える。


「小さな手だって思ったんでしゅよ」


「こはりゅお姉ちゃんは、不思議なことを言うんですね。私たちのサイズは生まれる前から決まっていて、空間認識と体のサイズによる齟齬が生まれぬようデータが与えられているはずです。


 その言い方は自分の手を客観的に見ていて、まるでサイズが変わるかのようなにも聞こえます。

 自分を客観的に捉えることが出来ないと変化に気付けないとデータがありますから、とても面白い考え方だと思います」


「そうでしゅ? 夕華はさっき、この服を着ているわたちを可愛いと言ってくれまちたが、同じ服を着ている夕華も自分を可愛いかもと思わないでしゅ?」


 夕華は首を横に振る。


「洋服と、こはりゅお姉ちゃんが可愛いのであって私、個としてどうなのかは分かりません。


 自身の体については破損、汚れ等による外観の低下による周囲への不快感がないかをチェックするぐらいです。

 こはりゅお姉ちゃんは違うのですか?」


 ちょっとだけ考えて、俺は首を振る。


「そうでしゅね。あえて言うのでちたら、可愛いかどうか気になるでしゅ」


 その答えに不思議そうな顔をする夕華。


「夕華は可愛いでしゅよ。わたちが保証するでしゅ」


 アンドロイドは基本的に左右対称の美形が多い。よってそのことを、他の人から誉められる機会は多い。そのときに人間関係を円滑に進める為、無難にお礼を言うようになっているんだが、


「ありがとうございます……嬉しいです。こはりゅお姉ちゃん」


 これも俺の勝手な思い込みかもしれないが、お礼を言って微笑む夕華は嬉しそうに見える。


「そうでしゅ、今朝言っていた髪留めでしゅが、お昼からでも買いに、ん?」


 髪留めを一緒に買いに行こうかと言う俺に、手を組んで祈るように見つめる夕華だったが、俺は自分のスマホが音を鳴らし存在をアピールしてくるのに気付き、テーブルの上に置いてあるスマホを取る。


「いりょは? なんでしゅかね」


 俺は電話に出ると、いつもの元気な声が耳に響く。


 〈こはりゅ! 女子会! 女子会やるから参加して欲しいんだけど、今日大丈夫?〉


「じょち会? なんでしゅ、急に。しょれにその響き嫌な予感しかしないでしゅ」


 〈まあねっ、でもこはりゅ、未来の小姑として4人を見ておかないといけないでしょ。それにさ、なんか芦刈先輩がこはりゅに聞きたいことあるって〉


「くりゅみが? なんでしゅかね?」


 〈私も分かんないっ。でも芦刈先輩と楓凛さんがなんかもめてたし、こはりゅの答えれる範囲で答えてやってよ〉


 來実と楓凛さんがもめる? あの2人が絡む姿があまり想像できないが、そう言われたら行かないわけにもいかない気がする。


「んー、分かったでしゅ。行きましゅけど、くりゅみと楓凛しゃんは大丈夫なんでしゅ?」


 〈ん? ああ、もめるって喧嘩とかじゃないよ。詳しくは分からないけど、多分こはりゅが来れば一発解決する感じ。じゃあ11時に平和卓のククスに集合ってことでよろしくっ!〉


 通話が終わってもまだ耳に残る彩葉の声を復唱しながら、夕華に目線を移す。


「うっ」


 思わず声が出てしまう。じーと見つめる夕華の視線は何かを訴えているようで、今から俺が言おうとしている言葉を、言う前から否定している感じがする。


「え、えっとでしゅね。わたち今日用事が出来たでしゅ。髪留めは明日一緒に行くってことで……ダ、ダメでしゅ?」


 尚もじーと見てくる夕華を前に、視線に耐えれなくなった俺は項垂れる。

 休日に子供と遊ぶ約束をしていたけど、急な仕事で中止になって謝るときってこんな気持ちなのか?


「ごめんなさいでしゅ。あちた(明日)は絶対に行くでしゅ。いりょんな所に行くでしゅから。いーぱい楽しむでしゅから」


「はい、楽しみにしてます」


 笑顔で返事をしてくれる夕華。これは許されたのか? なんなんだ今の間は……無言の圧力を感じた気がする。

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