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親友は助言するわけで

 地下街にある紅茶専門店に併設されたお店で、ティーコゼー(布製のカバー)に覆われた紅茶が蒸れるのを、わくわくしながら見つめるのは楓凛。

 そんな彼女の横にやって来た女性が話しかける。


「ほんと好きよね、それ」


「わっ! ごめん、遅れるって聞いたから先にお茶頼んじゃった。ひなみもいる?」


「ああ、うん。あんまりお茶って分かんないんだけど、何がおすすめ?」


 ひなみは、楓凛の前にどかっと座ると、店員さんを呼んで楓凛に聞いたお茶を頼む。

 蒸らしたり、その過程に関心しながらひなみは紅茶を口にして、一緒に頼んだスコーンを頬張る。


「ほうんでさぁ、もぐ、がりんわあ、どらうぉぐうんとどじたわけ?」


「ごめん、なに言ってるか分かんない」


 ひなみは紅茶でスコーンを流し込むと、ポットから次の一杯をカップに注ぐ。


「いやさ、虎雄くんとこの間海に行って、どうなったかって私まだ聞いてないんだけど?」


「うぐっ、それって、ひなみに報告しなきゃいけないなの?」


「いやぁ、いけなくはないけど、私が興味あるからねえ」


 躊躇する楓凛に、然も当たり前と答えるひなみは、2つ目のスコーンを頬張るとモグモグと口を動かしながら楓凛を見つめる。


「……」(モグモグ)


「……」


 モグモグの音が2人の間を支配する。


「……告白した」


 ボソッと答える楓凛。ひなみは紅茶に口をつけ、ソーサーにカップをトンっと置くと目を楓凛に向ける。無言だが目は「それで、それで?」と訴えかけている。


「返事はまだ……正直、無理かなと……いったところです、はい」


 ひなみは3つ目のスコーンを口に頬張る。


「……」(モグモグ)


「……あの」


 沈黙に耐えかねた楓凛が声を掛けると、首を傾げるひなみ。


「いや、なにかコメントないのかなあって」


 2杯目の紅茶をゆっくりと飲むと、カップをソーサーへカチャリと置く。


「うーん、ないね」


「ひ、ひどい……」


 項垂れる楓凛。


「恋愛絡みは専門外なわけでさ、将来的にアンドロイドも恋をするってなれば勉強しなきゃだけど。

 まあ、恋愛なんてのが一番予想もつかない行動や事象を起こすから、面白いものではあるんだけど」


 空のカップに3杯目を注ぐと少しだけ口をつける。


「へえ、後半ほど味が濃くなるわけだ。コーヒーとはまた違った嗜好が面白いもんだね」


 ひなみは感心しながらカップの中身を見ると楓凛の頭を突っつく。


「楓凛は、虎雄くんのどこが好きなわけ?」


「な、なんで突然……どこが? ってほら、素直で優しいところとか、こう……私をちゃんと見てくれるっていうか、ね?」


 しどろもどろながらも、答える楓凛。


「恋愛はよく分かんないでけどさ、今の虎雄くんって4人の子からアプローチされているわけでしょ。そんな漫画か、ライトノベルみたいな状況にいる彼が何を基準に選ぶと思う?」


 楓凛は分からないという代わりに首を横に振る。


「普通に考えてさ、4人から選べて言われて明確な差なんてないと思うんだよね。そりゃあ性格や、外見の好みってのはあるかもしれないし。


 お金や、家庭環境なんて要素も関係しないこともないけど、虎雄くんそこは気にしなさそうだものね。


 じゃあさ、何が決め手になるかって言えば、どれだけ彼の気持ちに積極的にアピールして入れるかじゃない?

 楓凛、待ってる余裕って意外とないかもよ。


 後の2人は知らないけど、この間会った彩葉ちゃんは要注意だって感じたけどな。

 出し抜けとは言わないけど、もう一押ししたらどうかな? ってのが私の意見」


「う、確かに……告白してやりきった感があった。後は結果待ちみたいな。うん、ありがとう」


「いえいえ、美味しい紅茶教えてもらったお礼ってことで」


 ひなみは紅茶の入ったティーカップの飲み口を爪でコンコンっと叩いて、波紋を眺めるがすぐにスマホを取り出し、時間を確認すると立ち上がる。


「おっと、先生のとこ行く時間だ。悪いけど行くね」


「先生って、三ノ宮(さんのみや)先生のとこ?」


「そそっ、ちょっとご教授願いたいことあってさ。お金置いとくね、アッサム美味しかった、じゃっ」


「あ、お金いいのにって、あぁ行っちゃうか」


 バタバタと帰って行くひなみの背中を見送る楓凛。


「そういえば三ノ宮先生って、神経と電子回路のインターフェイスが専門じゃなかったっけ? 心理学と伝達の関係とか?」


 昔から知識を得ることが好きな親友の、果てなき知識欲に感心しながら紅茶を飲む。


(アッサムはミルク入れた方が好みだけど、ストレートもなかなか良いかも)


 いつもより濃い、アッサムの薫りの中、今後を考える楓凛。

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