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お姉さんの気持ちはまっすぐなわけで

 虎雄くんに海に行こうと言って数日。明日の出発のため、荷物の点検に勤しむ私。


 日焼け止めやタオルなんかは入れてある。泳がないけど着替えとかも入れた。

 砂浜をサンダルで歩くとしてその替え、尖った漂流物なんかでもしかしたら怪我するかも。となると絆創膏……消毒薬もいるかな。


 そうそう熱中症! その可能性も考慮しなきゃ。暑いもんね! 水いや補給水? 頭に貼るヒンヤリするシートみたいなのもいるかも。


 あっ! そういえば、海にはクラゲがいて刺されると大変だって聞いたことある。

 浜辺にも来るのかな? 刺されたらどうすればいいんだっけ? 調べて薬とかあるならドラッグストアに行ってみようかな。


 そうだ! なんか遊べるもの持っていった方がいいのかな? 虎雄くんなにして遊ぶんだろ? 


 あ~聞いとけば良かった。今から連絡してみる? ん~でもなんて聞けばいいんだろ? 虎雄くんってボールで遊ぶかな? 子供っぽいかな。

 いやでも意外にトランプとかってことは……ないこともない。やっぱり聞こうかな……


「お~い、楓凛さんやい!」


「うはぁぃ!?」


 突然後ろから声をかけられ、驚いて転げそうな私をケタケタ笑いながら指差すのは、氷芽華(ひめか)お姉ちゃんである。こうやって人を驚かせるのが大好きな困った人なのだ。


「う、酒くさっ! お姉ちゃん仕事は?」


「やめた」


「えっ!?」


「うそ」


 驚く私を見てまたケタケタ笑う酔っぱらい。


「何回引っ掛かってんのよ。今日は休みよ、休み」


 お姉ちゃんはふて腐れる私に寄りかかってすり寄ってくる。文字通り、体全体を使ってスリスリしてくるのだ。


「も~怒っちゃいやあ~よ、楓凛~」


「ああもう、朝からお酒飲まないでよ! 飲むなら一人で飲んでてよ」


 酔っぱらいに絡まれていると、ひっこり現れるのは悠莉(ゆうり)お兄ちゃん。


「ん? どうしたぁって、ひめ姉、また楓凛に絡んでんのか?」


「助かったぁ、お兄ちゃんこの酔っぱらいどうにかしてよ」


 お兄ちゃんに、私の背中に頬擦りするお姉ちゃんを剥がしてもらう。

「やだ、やだ」いいながら暴れるお姉ちゃんを、軽く引き剥がし、扱いなれた手つきで、お兄ちゃんは拘束する。


「それにしても大荷物だな。どこいくんだ?」


「海の砂浜で遊ぼうかなと思って、用意してるんだけど、他になにかいるかな?」


「まじかっ!? これでまだ追加する気なのか? 荷物多くね?」


 お兄ちゃんに言われ荷物を確認する。ボストンバッグ3個パンパン、冷静に見て見ると確かに多い。


「いや~あなんかさ、あれもこれもいるかな?  と思ったら、どんどん増えていくんだよね」


「ああ、いるなそんなヤツ。あれもこれもいるかもって持っていって、結局ほとんど使わないんだよな」


 お兄ちゃんは私をじっと見る。()()()()()を見る目で。


「じゃあさ、何が必要で、何がそうでないのか教えてよ」


「そんなの分かんね、なければないで、いいんじゃね? そこも楽しむってことで」


「え~、ないとテンション下がったり、慌てたりしないかな?」


 うだうだ言う私と、お兄ちゃんとの間に割り込んでくるのは、酔っぱらいお姉ちゃん。非常に酒臭い。

 

「んなことよりさぁ~、わたしゃあ、その男の子が気になるわけよぉ。ね、ね、楓凛その子のどこが好きなのよ、恋愛とか興味ありませぇ~ん。みたいなぁ? 顔してたあんたが、そんな少女みたいな顔するなんて、お姉ちゃん気になるわぁ~」


 私が慌てて自分の顔をペタペタ触るのを見て、ケタケタ笑うお姉ちゃん。


「うん、うん、いいね、いいね。恋する少女の顔してる」


「むぅ~」


「なははは、やっぱいいわぁ。あの恋愛とか興味ありませんって感じの楓凛が、そんな顔するなんて、恋はいいわぁ~。お姉ちゃんもしたいわぁ~」


「あ~、ほら、ひめ姉、なんていうかウザイ。ハッキリ言ってウザイ。だからあっち行くぞ」


 お兄ちゃんがお姉ちゃんを、羽交い締めして引きずって行く。


「楓凛、楽しんでこいよ。荷物はもうちょい、減らすことをオススメするがな。ほれ行くぞひめ姉、おいコラ暴れんな!」


 「やー、やーだーっ」と騒がしい声が遠くなっていく。


 近くにあった鏡を覗いてみる。私はそんな分かりやすい顔をしているのだろうか?


 そこにはいつもと変わらない自分がいる、と思う。


 胸に手を当て考える。


 私は虎雄くんをどう思っているか? それは至極簡単な問いで、簡単に答えを出せる。

 それを口にしないのは自信がない……いや、その先の結果を恐れる気持ちが強いから。


 この胸の鼓動を抱えている、この間もドキドキして楽しい時間だと思う。決して悪い時間じゃない。


 でも、怖いけど、一歩踏み出してみよっかな。


「まずは荷物の選定から始めようかな」


 ちょっぴりテンションが高くなった私は、目の前の荷物を鞄から出し、もう一度選び直す。



 * * *



 って話を、かいつまんで話すここは車の中で、私は運転中である。

 勿論、私が恋する少女だとかの話は抜きで、助手席の虎雄くんと会話する。


「ねっ、酷くない? お姉ちゃんすぐ酔って絡んでくるんだよ」


「でも、楽しそうです」


「え~、本当にそう思う? 虎雄くんには、しっかり者の心春ちゃんがいるから、そう言えるんだよ。実際、心春ちゃん頼りになるでしょ」


「はい、すごく」


 屈託にない笑顔で返してくる姿を見るに、本当に心春ちゃんのことを信頼しているのが、伝わってくる。


「心春ちゃんが、アンドロイドって知ったときは、驚いたけど。なんか喋り方といい、あの動き、お母さんの嘉香(よしか)さんそっくり!

 虎雄くんが設計したから似たのかな? 家族だから似るのかな?」


 私のなんてことない言葉に、目を丸くした虎雄くんはなんだか嬉しそうに答えてくれる。


「はい、家族ですから。心春は今頃、ひなみさんと楽しんでますかね?」


「あははっ……どうだろ? ひなみは楽しんでるだろうけど」


 何気ない会話だけど、声のトーンも上がったし、笑いながら言うその姿を見て、ちょっぴり元気になってくれた、そんな気がした私は、海へ向かって車を走らせるのだった。


 因みに荷物は、ボストンバッグ2個まで減らすことに成功。


 頑張った私!

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