帰るまでがデート?行くときもデートなわけで
朝早くからトラと一緒に歩きながら目的の駅まで歩いていく。
「トリャ遊園地で何をするか予定は決めたのでしゅか?」
「う~ん、何に乗りたいかとかそんな感じでは決めたけど珠理亜さんが何を好むのかが分からないんだ。あまり激しいのはダメなのかな?」
「どうなんでしゅかね? 意外にジェットコーシュターとか好きかもしれないでしゅし。お化け屋ちき大しゅきだったりするかもしれないでしゅよ」
「お、お化け屋敷か……ボク、ホラーもの苦手なんだけどあれ怖いんでしょ?」
「しゃあ~どうでしゅかね? 経験してみればいいでしゅ」
「え~なんか悪意感じるんだけど」
今日は珠理亜とのデート当日である。駅に隣接するミャオチャオランドへ向かう為待ち合わせの駅まで歩く道すがら2人でたわいのない話をする。
珠理亜の家から車を出すなんて方法もあったのだろうけどあくまでも一般的高校生のデートということで駅で待ち合わせをして電車に乗って行くのだ。來実同様前半だけ、この場合行きと帰りだけ一緒に同伴して後は2人で遊園地を回ってもらう。その間俺はきな子さんと過ごすことになる。
小姑宣言してお前らを選別してやる! みたいなこと言ったけど今や完全に主導権を女の子側が握っている。世の中うまくいかないものである。そんなことをしみじみ思う幼女俺の格好は、
後ろを結んだ髪の上に大きめのメッシュキャップ(黒)を被り肩に切れ込みがあり肩を見せるようになっているTシャツ(アイボリー)にデニムのショートパンツ(黒)にサンダル(黒)である。
足をこんなに出して大丈夫なのかと不安になってしまう俺だが今日はちょっとボーイッシュでありこれはこれで可愛いのである。
ちなみにこの格好相手が珠理亜であることを考慮してのコーディネートらしい。そこまで考えるんだと関心して駅に到着すると既に珠理亜ときな子さんが待っていた。
きな子さんはいつものメイド服。
珠理亜はサマーニット(白)これは丸袖で袖と首のところに上品な花のレースがあしらわれている。ガウチョパンツ(カーキー)はふくらはぎがギリギリ見えるかぐらいの長さでウエスト部分に大きなリボンが可愛さと上品さを演出させている。足はスニカー(ネイビー)を履いている。全体的に動きやすさを意識しつつ上品さを持ったコーデ。
今から行くところが遊園地であることを意識したものであろう。
チラリときな子さんを見ると小さく会釈される。きな子さんの手には寒くなったときに羽織ると思われるドロップショルダーのカーディガン(クリーム色)が完備されている。
なるほど優秀な相方をお持ちのようで。
(さすがでしゅね)
(いえ、私はアドバイスをしただけです)
と目で会話する俺ときな子さん。多分この会話で合ってると思う。
ここで時計を見ると8時45分。待ち合わせ時間は9時だったからかなり早く来たのだろう。
「珠理亜さん、待たせてしまってごめん」
「いいえ、先ほど来たところですわ」
と言いながら右手をグッと握る珠理亜を見るにこのやり取りがしたかっただけかもしれない。きな子さんも満足そうに見ているから計画通りっていったところか。
そんなやり取りを終えた後早速駅構内に入ったわけなのだが……
駅の販売機の前で佇む2人。
「え~っと到着駅がこの駅だからここからだと430円?」
「お金はここに入れるかしら? あ、入りましたわ!」
「おおっ凄い! いっぱい光ったよ」
「ですわね、ですわね!」
トラは人生初電車だけど珠理亜も初なのか? ICカードにチャージするとかスマホでとか日頃乗らない人間には無縁だから2人とも持っていないわけか。まあ俺も持っていないけど。
券売機の前で話ながらボタンを押す2人は遊園地に行く前から楽しそうだ。
「心春様、これはどれを押せばいいのでしょうか?」
「え? きな子さんも初電車でしゅか?」
「お恥ずかしながら」
少し恥ずかしそうにするきな子さんに声をかけられ、押すボタンを教えて切符を買うと深々とお辞儀をされる。最初のやり取りを計画するより切符の買い方を調べてきた方が良かったのではなかろうかと思う俺は夢のない人間なのかもしれない。
駅員さんに切符を切ってもらい喜ぶ2人の後ろから歩く俺は駅員さんに切符を差し出す。
「あれ? お嬢ちゃんは子供料金でいいんだよ。これ大人用だね」
「ほえ?」
駅員のおじさんに止められた俺はきな子さんと別の駅員さんに連れていかれお金を払い戻されると子供料金で再び購入しホーム入る。
待ってくれていた2人に謝る俺にトラがニコニコしながら言ってくる。
「切符買うの難しいよね? ボクも悩みましたもん」
「う、うるさいでしゅ!」
俺が切符を買えない人みたいになっているこの空気が耐えれんから早く行こうとするが3人が動かない。
「どうしたでしゅ? 早く しゃん番ホームへ行くでしゅ」
「ここに来る電車じゃダメなの?」
「あほでしゅか! こっちのろしぇんに乗ってどこへ行く気でしゅ。真反対でしゅ!」
怒る俺に着いてくる3人。後ろで
「ね? やっぱり心春は詳しいでしょ」
「ですわね。さすがですわ」
そんな声を背に受けながら世間知らずな3人を先導する幼女俺が階段を必死に上り通路を歩き始めると後ろに気配を感じない。後ろを振り返ると2人が丁度入ってきた電車に感激している。
「立ち止まったら迷惑でしゅ! こっちの階段を下りて早く行くでしゅ。乗り遅れましゅよ!」
怒る俺を見て通行人が「見て、あの子案内してるよ、かわいいっ」「ぴょんぴょん飛んで必死にアピールしてるわ」なんて声が聞こえてくる。
恥ずかしすぎる……体の底から熱くなるのを感じながら階段を下りていく。
階段をピョコピョコと下りて上を見上げるときな子さんの手を持って下りるトラの姿が目に入る。
それを見て本当にコイツ凄いなって思う。計算とかアピールとかじゃなくて本当に人の為に助けようって思って行動しているんだってのを感じる。
それは珠理亜も同じようで階段を下りる2人を見るその表情はとても優しいものだ。
ホームに着いて電車が到着すると開くホームドアに感激し電車とプラットホームの隙間を恐る恐る渡る3人がとても楽しそうである。
本当に楽しそうな姿を見て俺も楽しくなってしまう。
「ふぎゅ」
颯爽と電車に乗ったつもりの俺は歩幅を間違え何もないところで転けてしまう。
珠理亜に手を貸してもらい起きる俺は泣かないことを周りに誉められながら席につくのだった。