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お嬢様のお誘いなわけで

 不満顔の彩葉と澄ました感じで相手にしていない珠理亜は廊下を歩きリビングへと入る。


「彩葉ちゃん、お客様は……ってあら?」


 リビングに入ってくる珠理亜を見て母さんが少し驚いた顔をする。この間の俺の能力テストのときに母さんと珠理亜は初めて顔を合わせているのでこうして面と向かって対面するのは初めてになる。

 深々とお辞儀をする珠理亜ときな子さん。


「初めてご挨拶いたしますわ、わたくし雨宮珠理亜(あめみやじゅりあ)と申します。今日はお母様にご挨拶できて大変光栄です。以後お見知りいただけると嬉しいですわ」


 丁寧な挨拶と高級そうなお菓子の袋を渡す珠理亜の表情は目を輝かせやりきったって感じだ。どや顔とでもいえばいいかな。後ろできな子さんがそんな珠理亜を見てうんうんと頷いている。


 その表情から挨拶の練習を結構したんだろうなってのが伝わってくる。

 珠理亜のこと最初は口うるさい学級委員長だと思っていたがこうしてよく見るとなかなか爪が甘くて面白い。行動の端々に素が出ていてお嬢様なんだけど、どこか抜けてる。


「まあまあ、ご丁寧にありがとう。高かそうなお菓子だけどもらっていいのかしら?」


「はい、お母様のお口に合えばと思いその……奮発しましたの」


「あらあら、そんなに気を使わなくていいのよ。もっと気軽に話してね。立ち話もなんだから座って」


「はい!」


 母さんに案内され嬉しそうに椅子に座る珠理亜。ここまでの一連の流れに俺は感心されっぱなしである。あからさまに俺ら庶民が買うことのないお菓子の紙袋を前に「高いでしょう?」と聞かれ「安物ですわ」というのは嫌みっぽい。かと言って「高いですわ」というのも恩着せがましさを感じてしまう。

 あくまでも母さんのことを思い奮発したという表現、元々持っていた感性なのか考えた末なのかは分からないが素晴らしいのでしゅよ! と小姑俺の意見。


 リビングのテーブルに座るのは母さんとその横にトラ。正面に珠理亜ときな子さんが座る。

 俺は横にあるソファーに座る彩葉の隣に寄り添って座る。腰に手を回されぎゅっと寄せられる。ちょっと痛いのは彩葉の気持ちがこもっているからだろう。


 珠理亜が持ってきた鞄からパンフレットを取り出すとテーブルの上に置いてトラと母さんの方へスッと押し出す。


「ミャオチャオランドへ虎雄さんと行きたいのでお母様に許可を頂きたいのですわ」


 手を組んで母さんの答えを待つ珠理亜だが母さんはちょっと驚いている。まあ普通デートの誘いに親の許可をもらいにくる人ってあまりいないと思うから母さんが 驚くのも理解できる。

 だが珠理亜は大真面目で期待する瞳で母さんを見つめる。


「ええいいわよ。珠理亜ちゃんなら私は文句ないわ。だから今度から直接本人に言って許可をとっていいわよ。それよりもトラ!」


 母さんに名前を呼ばれビクンと背筋を伸ばすトラは目を丸くして驚いている。


「トラはどうするの? 珠理亜ちゃんがこうして誘ってくれた。でも彩葉ちゃんもあなたのために来てくれているわけなの。ハッキリあなたも誠意ある態度をみせなさい!」


 静かな口調だが目は笑っておらずトラに決断を迫る。ここは俺も口を出せない気がして沈黙する。トラも頭の中で答えを考えているんだろう、真剣な表情をしている。前までなら「みんなで行きます」とか答えていたであろうことを考えると成長したのだろう。


「お母様、私なら気にしなくていいです。雨宮先輩は遊園地へ行ってください」


 この沈黙を破ったのは彩葉。でもその内容に母さんは納得はしていない感じだ。


「でも彩葉ちゃん、これはあなたも珠理亜ちゃんにもいいことではないのよ」


「分かってます。でも4人とも一度はデートした上でトラ先輩に結論を出してもらおうかなって思うんです。

 それはお母様から見たら子供の考えた拙い方法かもしれませんけどこの方法で結論を出してみようかなって」


 彩葉の発言に母さんは黙る。


「それに雨宮先輩が遊園地へ行ったくらいで私は負けませんけど」


「それはわたくしも同じですわ。彩葉さんには負けませんわ」


 睨み合う2人を見て母さんはため息をつく。


「まあ本人たちがいいならいいんだけど。それよりもトラ!」


 母さんは隣にいるトラの背中を叩く。


「あなたはこんなにいい子達に恵まれているからってそこに甘えたらダメよ! しっかりしなさい!」


「う、うん」


 バシバシ叩かれ痛そうに返事をするトラだが目は真剣だ。そのトラの手を珠理亜が取る。その顔は嬉しそうでありながらも頬が赤いのは自ら手を握ったことに対する恥ずかしさなのかもしれない。


「虎雄さん、わたくしと一緒に遊園地へ行っていただけませんか?」


「うん、ボクの方こそ誘ってくれてありがとう」


 珠理亜に応えるトラに成長を感じながらも隣の彩葉を見ると面白くなさそうな顔をしている。

 まあ当たり前か。口ではああ言っても面白くはないだろうな。その顔を見てずっとこんな関係を続ける訳にはいかないのだと実感する。

 パンフレットを見て珠理亜の説明を嬉しそうに聞くトラ。


 今までなら普通にトラに対して腹が立っていたが、この間俺の代わりに父さんたちに言葉を伝えてくれたことを思うとこのめんどくさくなった関係をどうにかしてやらないとなと思ってしまう自分がいるのだ。

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