表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/165

繋ぐ手は思ったより近かかったわけで

 しょんぼりするトラの手に恐る恐る手を伸ばす。自分から見たらとてつもなく遠いその手なのに虎雄からは来るときはビックリするくらい近くにある手。


 まだまだ遠いと思っていた手にあっさりと触れこんなに近くにあったんだと自ら手を伸ばしておきながらビックリして少し手を引いてしまう。

 それに驚く虎雄は私を見てくる。このまま引き下がっては無理だと思い思いっきり手を伸ばし両手で虎雄の右手を掴む。やっぱり驚くほどその手は近い。

 自分の手が汗ばんでることに気づき一瞬手を離しそうになるがここで離したらもう握れないと思い再び手に力を入れる。


「ど、どうしたの?」


 手を握ったまま目をつぶる私に少し慌てた様子で声をかけてくる虎雄を片目で見るとほんのり頬が紅い。

 その顔が赤いことは勘違いでもいい、虎雄も恥ずかしいんだと自分に言い聞かせ握る手にもう少しぎゅっと力を入れる。


「あ、あのさ。虎雄ってその……す、好きな人とかいるのか? な、なんてな」


 上擦る声、最後の「なんてな」ってなんなんだ? 自分でも分からない。

 虎雄は目をまん丸にして私をじっと見る。その目をついつい反らしてしまう。私の悪い癖。


 でも手は離さない。


 そして先手を打つ。そんなことが出来る私に自分でビックリする。


「好きな人って心春とかみんなとかじゃないから……な」


 虎雄は少し困った顔をする。そして真剣に悩む、言葉を選ぶそんな感じがする。その意味するところは私に対する気遣いかも……

 そう思ったときさっきまで微妙にあった期待が崩れ私は逆の方に積極的になる。


「あ、いや、何でもない。変なこと聞いたな。うん、ごめん」


「え、えっと?」


 なにか言おうとする虎雄の言葉に重ねる。


「さっきの話だけど料理教えてもいい……よ」


「本当!?」


 喜ぶ虎雄を見てこれでいい、そう言い聞かせる。珠理亜たちの前で「好き」だと言えたくせに本人の前だと言える気が全くしない。

 そこからは若干上の空ながら楽しい時間を過ごし家に帰った訳なのだが……


「あんたなにやってんの? そこは押しきるべきでしょ!」


 今日のデートの様子を姉ちゃんに話したら最初はニコニコしながら聞いていたが最後までいくと身を乗りだし怒り始め私は今、正座をして説教を受けている。


「虎雄くんがあんたに気があるかどうか、ダメとかそこじゃ分からないでしょ!」


「いやでもさあ、言葉に詰まるってさ……そういうことじゃん」


「あんたに興味ないならそんなファンシーなお店に行ったり、ピンポイントで雑貨のお弁当コーナーに行ったりしないって。少なくともあんたのことに興味があってよく見てるってことでしょ!!」


「うっ!?」


「はあぁぁこれはあんたをどうにかしないと他の3人に差をつけられるんじゃないの」


 大きなため息をつく姉ちゃんを前に頭を抱える私は涙目なわけである。



 * * *



「むきぃぃぃ!! お前は何をしてるんでしゅ! それはもう、くりゅみが自分のことしゅきか? って聞いてるもどうじぇんなんでしゅ!! なんで黙っていたのでしゅ? トラなりの言葉を言えば良かったでしゅそれで怒ったりはしない約束だったでしゅ」


 俺が怒ってしょんぼりするトラは必死で言葉を紡いでいるのかゆっくりした口調で話してくる。


「來実さんに手を握られたときすごくドキドキしたんですけど、でもこれが恋なのかと言われたら分からないんです。

 最近恋愛のこと意識するようになったらすごくその、意識するというか……來実さんと珠理亜さん、彩葉さんと楓凛さんはボクにとって他の女の子となんか違うなって感じるんです。だけど……」


「恋と言われたら分からないでしゅか……」


 申し訳なさそうに頷くトラ。偉そうに説教をしているが正直俺もこの状況どうしていいものやら分からないわけなのだが。


 今のトラの立場として俺ならどうするだろうって考えると意外に答えは出ないものである。そもそもなにを基準に選ぶかって言われたら結局のところトラ自身の気持ちなわけだ。


 ってなんで俺はトラを誰かとくっ付けようと考えているんだ。付き合う必要はない。ただ今の状態を認識しこれ以上の被害者を出さず、なんなら今の状態を整理するのが目的だったはず。

 今回のデートで付き合う結果になってもそれはそれである意味関係の精算が出来たと考えれるかと思ったが……凄く身勝手な考えではあるけど。


 どうにも最近この心春に馴染み過ぎて自分が虎雄である認識が薄れてきているような感じがする。

 自分が自分じゃなくなっていく感じ……そこまで考えてブルッと震える。


「どうかしました?」


「なんでもないでしゅ。とにかく今後のことはもう少し考えるとするでしゅ。トリャは変な行動を取らないようにするでしゅ」


「うん」


 頷くトラを見て部屋から出た俺は階段を降りるが最後の一段を踏み外して体操選手みたく着地する。

 この体になって苦労は多い。本当に戻れる日がくるのだろうか? 不安を抱えリビングに向かう俺なのだった。


 リビングから母さんの声が聞こえてくる。俺とトラがリビングにいない今、電話で誰かと話しているんだろう。


 このときなんとも思っていなかったがまた別の問題、去年までの俺なら何てことないことだったんだが今の俺には頭を抱えることがやってくるわけである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ