幼馴染みは葛藤するわけで
突然現れた彩葉と珠理亜は心春を連れ去っていってしまったことにより2人きりになるトラと來実。
(マスターいなくなっちゃいました。えぇっとどうしましょうか。彩葉さんも言ってましたが『恋愛』、ボクは梅咲虎雄で男。だからボクは來実さんたちの恋愛の対象だと。今回のデートはボクにある程度発言も任せると言っていましたから自分の言葉を言えば問題ないはず)
トラはじっと來実を見る。頬をピンクに染めどこか落ち着かない様子。ファンシーショップではじめて会ったときも顔を赤くしてして恥ずかしそうにしていた。
でもあのときと今の恥ずかしさは何かが違うそんな感じがする。
「あのさ……な、なんかおかしいか……な?」
真っ直ぐに視線をぶつけるトラに耐えれなくなった來実がおずおずと聞いてくる。
「おかしくなんかないよ。來実さん可愛いなって見てたんだ」
頭から煙を出し銃で撃たれたかのようにのけ反る來実。
「そ、そそそ、そんなことねえ、ねえから。なっ? お、お前そんなことその……気軽に言い過ぎ……だぞ!」
(本当のことを言ったのに怒られるのはなんなのかな?)
そっぽを向かれ頬を膨らませる來実が怒っていると判断したトラは考える。
ここ最近皆が口に出す「恋愛」という言葉を。
ネットでも本でも調べた。なんならモテる方法なんてものまで読み漁ってみた。優しくしろ、あえて冷たく、強気にでろ! 下手に、リードしろetc……色んなことが書いてあった。
結局のところ恋愛には形なんてないんじゃないのかな? それが今のトラの答え。そして今目の前にいる來実、始め会ったときと態度はあからさまに違う。それは分かる。
その姿がとっても可愛い。だが言葉に出したら何故か怒られる。本音と建前ってのが必要なのだろうか?
でも本当に可愛いこの瞬間に伝えなくてどうするのだろう?
考え込むトラに來実が恐る恐る尋ねる。
「あのさ、虎雄って今の状態っていえばいいのかな、そのさどう思ってる?」
「今の状態ってこのデートのこと?」
「あ、いや、えっとな。ほらお前さ……う~その私のことを……ええっとそのな一緒にいて楽しいかなって」
「楽しいよ」
「いやだってよ、パンケーキの絵が可愛いとかしか話してないしさ。さっきから虎雄もなんか考えてるみたいだし、そのつまんないかなって……」
うつ向いてちょっといじけたような表情を見せる來実にトラは慌てる。
(しまった! あんまり考え過ぎて無言になると相手を心配させてしまう。人間関係の難しいところだ。ここは正直に話して許してもらわなきゃ)
「ごめん、そんなつもりはなかったんだけど。來実さんが可愛いってことをどう表現したら怒らずに聞いてもらえるかなって考えていたんだ」
「なっ!!??」
絶句して真っ赤になった來実は卒倒しそうになるのを踏ん張ると周囲を確認する。他のお客さん、店員さんがなんとなく自分達に聞き耳をたてているそんな感じがする。
慌ててテーブルに身を乗りだし小声で怒鳴る。
「と、虎雄そういうことはだなっ!」
「うぅ、やっぱり怒るぅ」
「ち、ちがう! お、怒ってはない!」
「そうかな? 怒ってると思うんだけど」
「違うんだ、そのな……」
「その?」
真っ直ぐな目で見つめ答えを求めてくるトラにたじたじになる來実。
「は、恥ずかしいんだぁって。そんなこと言われたことないから恥ずかしいんだよ!
慣れてないんだってっ! 言わせるなそんなことを~あぁ~もーーっ!!」
本当に恥ずかしいのだろう涙目でトラの腕を掴み必死で訴えてくる來実。
「そうなんだ。來実さん怒ってないなら良かったあ。それなら可愛いって言っても問題ないよね。
あ、ずっと可愛いって言えば慣れるかも! これからちゃんと言うね!」
「かふっ……」
口から魂の抜けるような音がして來実が真っ白になる。
そのまま味のよく分からないパンケーキを食べることとなる。
* * *
なんだか記憶も曖昧な昼食を終え虎雄と一緒に来たのは『東緩ハンド』いわゆる総合雑貨屋。
虎雄の希望で見るのはお弁当コーナーの一角。キャラ弁を作るためのツールが売ってある場所にいる。
何でもキャラ弁に挑戦したいらしく私に色々聞いてくる。
「これで顔のパーツが作れるんだ。わぁこれっおにぎりの型に入れるだけで動物の顔になるんだね! すごいなぁ~」
目を輝かせ本当に楽しそうにしている虎雄を見て高鳴る胸をそっと押さえる。
「來実さんこれ使ったことある?」
「これ? ああウインナーの型抜きか。この格子状のとこにウインナーを入れるとなタコさんとかカニさんとか簡単に出来るんだ」
「へえ~やっぱり來実さんは詳しいなぁ。今度キャラ弁だけじゃなく料理を教えて欲しいから一緒に作るのダメかな? 教えてほしいな」
「なっ!?」
今日何回目の「なっ!?」だろうか。虎雄ってこんなやつだったっけ? 幼少期の記憶を思い出してみても違う気がする。
いや全然興味なかった自分が見ていなかっただけで元々こういう人間だったのかもしれない。
純粋な目で「一緒に料理をしよう」と言ってくる。私には分かる。
虎雄は多分、珠理亜にでも同じことを言う。でもそれは本当にそうしたいからであって下心とかは全くない。心から一緒に料理をして私から教わりたいそれだけ。
心の揺らぎがない分私の気持ちだけすり抜ける感覚。自分が純ではない感覚。
私の答えを待つ虎雄と目が合う。大きく高鳴る鼓動、頭に血が一気に上る感覚にどうしていいか分からなくなる。おそらく顔は真っ赤であろう、そのことを意識するとさらに血が上ってくる。
必死に鼓動を押さえようとすれば反発するように心臓は跳ねる。
「ごめん突然言ったら困るよね。ボク、自分の思ったことすぐ言っちゃうからダメだって心春にもよく怒られるんだ」
「ち、ちがっ」
本当に申し訳なさそうにする虎雄を見て「違う」と言おうとして声が上擦る。本当に情けない。こんな自分が嫌になる。
虎雄を見るとしょんぼりしている。断られたこと、申し訳ないことをしたその両方にか? そう考えるのは自意識過剰なのかも……。
少しだけ落ち着いた鼓動に問いかける。虎雄の心は多分だけど誰にも完全に向いていないと思う。
じゃあ……
私は爪が食い込むほど拳を強く握りしめる。




