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俺は最新でお前はかつての俺なわけで ~心春な日々~  作者: 功野 涼し
8月 ~夏休み~

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ツンデレのデートはツンもデレでしかないわけで

 人形や雑貨が並ぶ可愛いらしい感じが漂う店内。俺にはあまり理解のできない空間。

 これまた可愛らしいフリル多めな格好をした店員さんに案内され3人で席につく。俺とトラが隣に座り、向かいに來実の並びだ。


 店員さんが持ってきてくれた水を飲もうと手を伸ばすが震える手を押さえているのか中二病の人みたいに己を静める來実に日頃の面影は感じられない。

 トラはメニュー表をさらっと見ると來実にメニュ表を見せる。このときちゃんと写真の向きが來実の方を向けるという細かい気配りをみせる。


「來実さんこれ可愛くない?」


 トラの指先にはパンケーキセットの写真がある。焦げ目でパンケーキの上に描く絵を選べるのと飲み物をカフェラテにした場合は希望の絵のカフェラテアートを頼めると書いてある。プラス400円で3Dアートも出来るらしい。

 その写真を食い入るように見る來実だがチラッとトラを見ると写真から目を背けてしまう。


「私は普通のランチセットでいい……」


「そうなんだぁ。來実さん好きだと思ったんだけどな」


 残念そうにするトラを片目で見る來実。


「あのさ、さっきから私に可愛いのが似合うとかどうとか言ってるけど……そのさ、本当にか?」


「うん似合ってるよ。だって來実さんから可愛いのが好きだって溢れてるもの。ボクに作ってくれるお弁当も可愛いよね。あんなに可愛いの作れる人が似合わないわけないよ」


 その言葉を聞いて少し間を置いて何度か躊躇したように口をもごもご動かした後恥ずかしそうに話し始める。


「わ、私さ昔からその荒っぽいというか普通に男の子と喧嘩して殴ったりとかさ……あんまり女の子ぽくなかったというか……」


 そういや昔から喧嘩ぱやいというか、幼稚園のころセミの脱け殻を男子が女子の髪に引っ付け泣かせていた現場を見てそのセミの脱け殻を掴むとその手に乗せたそれごと男子の顔面を平手打ちし、サンドイッチにして「自分が泣くクセにやるな!」とか泣く男子に言ってたのを思い出した。

 

 それ見てこええって思ったな幼少期の俺。


「そのな、小学生のとき店でぬいぐるみを選んでたんだ。そしたらクラスの女の子に会ってな……『來実ちゃんもぬいぐるみとか買うんだ? 可愛いの似合わないよ。みんな言ってるよ』って言われてさ。ああ、どんなに好きでも私似合わないのかなって」


 ファンシーショップで出会ったときこそこそしてたのはそのせいか……ただギャップが恥ずかしいだけかと思っていたけど結構真剣に悩んでいたわけか。珠理亜の喧嘩止めるのに利用して悪いことしたな。


「その子がどう思って言ったかは分からないけどボクは來実さんに似合っているって断言出来るよ。そうだ! ボクは來実さんが可愛いものが好きなの知っているからボクと一緒にいるときは解禁ってことでどうかな?」


「ぬわっ!?……と、虎雄の前だけ……ま、まあそうだな、ま、いいけど。でもさ虎雄はそんな話し聞いても面白くもなんともないだろ。その迷惑じゃないか?」


「ううん、ボクも可愛いの好きだし來実さんの話し聞きたい」


「うぅ、まあ好きなら良いか……虎雄が聞きたいってなら仕方ないよな、そう仕方ないよな」


 なんか必死にツンデレしようとする來実。全然ツンのトゲが尖ってないソフトなツンを必死に突き立てようとする姿がなんとも可愛らしいなぁ。


「って違ーーーーうでしゅ!!」


 突然立ち上がる俺に店内のみんなが注目する。店員さんがビックリして慌てて駆け寄ってくる。


「どうかなされました?」


「あ、えっとでしゅね……こはりゅ、お子しゃまプレートじゃなくてこのパンケーキシェットでネコしゃん描いて欲しいのでしゅ。しょの……大きい声だしてごめんなさいでしゅ」


 ペコリと頭を下げると店員さんは謝る俺を見て微笑むと「ご注文が決まったら呼んでください」と下がっていく。お店の中も元の空気に戻る。


 恥ずかしい俺はドカッと座るとトラが不思議そう顔をする。


「注文はしないんじゃなかった?」


「ふんっ、なんとなく頼みたくなっただけでしゅ。トリャが2つとも食べればいいでしゅ」


 本来はトラに來実がお前のこと好きなんだよってのを分からせようとしてるのにトラが來実を完全攻略に向かって進んでいる現状に意義を唱えようとしただけなのだがなんかもう疲れた。


「心春あのさ、なんでネコの髪留めいつもつけているんだ? その、服とかいつも変わるのにそこだけいつも一緒だから気になるんだけどさ」


 ふて腐れる俺に來実がそんなことを聞いてくるので頭にいるネコの髪留めに触れる。

 そういえばこの体になって初めて來実に会った場所がファンシーショップで付け方の分からなかった俺に付けてくれたんだっけ。

 そういえばなんでこれだけずっと一緒なんだろ? なんかトレードマークみたいになって身に付けてないと落ち着かないというか。


「くりゅみが付けてくれたんでしゅよね。こはりゅにとって初めてのあくしぇしゃりー(アクセサリー)だからでしゅ。気に入っているでしゅ」


「そっか。良かった」


 短めの返事だがすごく嬉しそうに俺を見て笑顔をみせる。


 その笑顔はトラに向ける笑顔と違って嬉しい笑顔、好きな人に向けるものとこんなにも違うんだと思いながら俺はその笑顔に


「ありがとうでしゅ」


 と生まれて初めて心からありがとうを言えた気がする。

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