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俺は最新でお前はかつての俺なわけで ~心春な日々~  作者: 功野 涼し
8月 ~夏休み~

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夏休みが始まるわけで

 今日の俺はビシッとフォーマルに決めている。上から丸襟のカッターシャツ(白)の上に襟が白いフリルでポケットの代わりに左右にリボンがつくジャケット(ネイビー)首元には大きなリボン(白)白い縁のスカート(ネイビー)のレースの靴下(白)、フォーマルなシューズ(黒)ボレロスーツスタイルだ。

 髪は後ろでまとめ、そこに猫さんが滞在し後ろで存在感を放っている。

 ビシッときめる俺は出来る幼女的でカッコいいのである。

 

 なぜこんな格好かといえば今日は就業式が終わり保護者とトラに先生で面談するからだ。

 そして俺はトラの保護者なわけである。

 トラの保護者、つまり母さんが承認し先生も承諾すればこうして保護者の代わりに三者面談にも出席することが可能である。


 そして今俺はトラと横に並んで担任であるテラ先と向かい合っている。


「しぇんしぇー、最近のトリャのせいしぇき(成績)なのでしゅがどうでしゅかね」


「一時期落ちていた学力も大分戻ってきて平均以上にはなってます。ただ以前に比べ理系より文系が得意になった感じがします」


 いつもはもっとラフにテラ先と話す俺だが一応三者面談なのでお互い敬語である。

 今回この役目は俺が志願してやったのだ。トラの他人から見た現状を把握したいのと、この間の母さん言葉「……あなたはトラなの?」が引っ掛かっている。

 なんとなくおかしいとは気付いていたんだてことに驚きながらも少し嬉しい俺がいる。


 正直に打ち明けようかとも思ったがその場合母さんがどんな態度をとるかが分からない。

 俺の扱いはまあいいとしてトラに対する扱いが冷たくなった場合トラは耐えられないかもしれない。そうなると自分の存在理由を考え始める危険性がある。だからどうしていいかなんて分からない。


 必死に考えた結果がこれなわけだ。


「今の虎雄くんの成績で希望する大学への進学は難しいと言わざる得ないですね。厳しい言い方ですが」


 テラ先の言葉にしょんぼりするトラ。そんな姿を見て責めることは出来ない。

 算数の簡単な計算しか出来なかったやつがこの数ヶ月でここまで学力を伸ばしたわけだ。俺に戻る方法を探せと言われがむしゃらにやったのに文句を言えるはずがない。


「しぇんしぇー、トリャの今の学力で狙える大学、努力すれば行けりゅ大学はどこでしゅか?」


 俺の言葉に目を丸くして驚くトラ。なにか言おうとするがこの三者面談余計なことは喋るなと釘を刺しておいたので口を接ぐんで黙る。

 その後俺とテラ先の2人で話を進めトラは時々相槌を打つそんな感じで三者面談を終える。

 廊下に出るなり少し不服そうなトラが俺に訪ねてくる。


「さっきの進路はどういうことなんですか?」


「どうって聞いたままでしゅ。トリャの学力が足りないから別の道を模索しようとしただけでしゅ」


「まだ頑張れます! 今はまだ、でも頑張れば」


 必死に食いかかってくるトラに正直イラッとした。こんなに必死に話す奴だったか? ひなみに言われて意識すればするほどトラの変化に気が付く。

 俺は大きく吐く感じで心を落ち着かせる。


「トリャ、お前の目的はなんだったでしゅ?」


「マスターとボクを元に戻す方法を見つけることです」


「そうでしゅ。じゃあそれは希望する大学に行けば分かるのでしゅか?」


 俺の問いに黙るトラは俺の言葉を待っているのか俺を見つめる。


「どこの大学に行ってもやれることはあるでしゅ。何をやるかは自分しだいでしゅ」


「マスターはなんかお母さんみたいなこといいますね」


「ふん、こはりゅが本来はマシュターなので保護者なのでしゅから、当たり前でしゅ」


 俺がそう言うとクスリと笑うトラ。ここは学校なのだから本来は注意すべきだが「マスター」と呼んでくれたことに少しホッとする俺。


 そんな俺たちの前に1人の少女が廊下に立ってこっちをチラチラ見ている。

 威勢がいいのか悪いのかよく分からない態度を取るその金髪の少女はズカズカとこっちに向かって来るが、いざ来たら来たで少し罰の悪そうな表情で視線を反らしている。なにがしたいんだこいつは?


「どうしたんでしゅ、くりゅみ?」


「あ、いやそのな。この間は悪かった」


「何がでしゅ?」


 謝られてしまうというよそうしていなかった展開。俺が首を傾げると來実は相変わらず視線は下を向けたまま話す。


「テストのときイチゴジャムを選ばせたことだ。顔や服汚れたしあの後心春泣いて寝てしまっただろ。その、嫌な思いさせて……ごめん」


 あぁ、あれを気にしていたのか寝たのはその前のテストで頭を使いすぎていたのが大きくて別に泣きつかれたとかじゃない。

 そういえば來実とかは俺が容量オーバー起こすのを知らないわけだから泣き疲れた様に見えるわけか。


「気にしなくていいでしゅ、くりゅみ……」


 俺は目の前で目をそらしたままの來実。俺の後ろにはぼんやり他人事のように俺を見ているトラ。

 ふと頭をよぎる母さんに向かって俺がいった言葉。


『トリャのことはこはりゅに任せてくだしゃい』


 來実を見る。もういいと言ったのにまだ申し訳なさそうな表情をしている。

 トラを見る目が合うとニコッと微笑んでくる。……コイツは話にならない。


 もう一度來実を見る。


 ふむぅ、前はなんとも思っていなかったから気付けなかったがこの子は物凄くいい子なのではなかろうか。

 見た目がギャルだし口も態度も悪いから誤解されているだけで本質は純粋なのかもしれない。


「くりゅみ、ひとちゅお願いしてもいいでしゅか?」


「あ? ああいいけど」


 ちょっと緊張した面持ちで俺を見てくる來実。ちょっと可愛いなとか思ってしまう。


「明日暇でしゅか?」


「なにも予定ないけど」


「じゃあ明日くりゅみが今持っている服で可愛いと思う格好で10時にこはりゅの家に来てくれましゅか?」


 全く理解していないキョトンした顔の來実に俺はため息混じりに告げる。


「明日デートをするでしゅ。トリャとくりゅみが」


「!?」


 ニヤリと笑う俺に声にならず絶句する來実。……と首を傾げるトラ。

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