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走れ心春ちゃんなわけで

 先生の誘導でスタートラインに立つ俺。目の前を見ると女子生徒が2人棒を持って糸にぶら下がるパンが見える。

 俺あんまりパン食い競争に詳しくないんだけどぶら下がってるのって普通は食パンなの? 糸にぶら下がる四角いパンを見つめる。

 っていうか俺アンドロイドだしパン食べれないんだけど。


〈50メートルパン食い走そのまま障害物走を開始いたしますので心春ちゃんはスタートの準備をして下さい〉


 鬼畜な競技のアナウンスが流れ俺はスタートラインで構える。因みにクラウチングスタートではなく立ったままやるスタンディングスタートね。この体でクラウチングスタートは違う気がしたから。

 もうこの時点で凄まじい歓声が上がる。なんかリズミカルに


「心春! 心春! 心春!──」

「好きだぁぁぁあああ!!」


 誰ださっきから「好きだぁ」って叫ぶ奴は。イラッとする俺の耳に「よーい」と聞こえるのでグッと足に力を入れる。パーーーーンと音が響き俺は走る。


 とてとてとてとてとてと足音立てながら。


 お、おせぇー分かってたけど初の全力疾走は50メートルが永遠にあるかのような感覚に陥る。

 ちょっぴり悲しくなる俺。


「いけええええこはりゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 ギャラリーから叫ぶ声を見るとニヤリと笑いVサインする彩葉が見える。ちょっぴりやる気になった俺が走る。とてとてと。


〈頑張れ心春ちゃん! 皆さんも声援をお願いします〉


 そのアナウンスで頑張れ! と声援があがり俺はパンがぶら下がる場所にたどり着く。


〈パン食いエリアに到着です。ここではパンを咥えそのまま障害物競争へと突入します。ちなみにパンはトーストしてあり左からバター、イチゴジャム、小倉あん、ハチミツとなっていますので心春ちゃんはお好きなのを選んでくださいね〉


 はっ? パン食い競争でトーストしてジャムとか塗るって頭おかしいだろ。どれにかぶりつくか躊躇する俺に声が届く。


「心春! イチゴジャムだ!」


 ギャラリーの中、どや顔でグって親指を立てる來実。

 えっなんで? って首を傾げると察したのか來実が叫ぶ。


「一番美味しいし一番可愛い、心春に似合っている!」


 なんじゃそれ? 確かに美味しいのだろうけどこの場合一番ベトベトしそうだしミスチョイスじゃねえかそれ。それに俺に似合っているってなんだそれ? でもまあって感じでイチゴジャムの食パンの下にきた俺はジャンプしてパンを! 咥えれない!!


「この!」


「ふん!」


「はわ!」


「くしょーー!!」


「むわあ!!」


「むきぃー!!」


「なんでしゅ! この!」


 俺がピョコピョコ飛ぶのをみんながほんわかして見ているのが分かる。分かるが俺は必死なのだ。

 皆の暖かい声援を受け跳ぶ俺を見て両サイドで棒を持つ女子生徒が徐々に棒を持つ位置をずらしてパンの位置を下げてくれる。


 本人らはこっそりのつもりかも知れないがバレバレである。だって立ったままで咥えれる位置にパンがあるんだもの。

 ただその事を責めるものは誰もおらず俺は遠慮なくパクリとイチゴジャムの食パンを咥える。


 で? これどうするんだ?


 パンを咥えたまま残り数メートルをポテポテ走る俺にアナウンスが次の流れを教えてくれる。


〈心春ちゃんはそのまま走って障害物競争を行ってください。

 まずは平均台からです。上手に出来るでしょうか? みなさん応援よろしくお願いします〉


 アナウンス通り目の前に現れた何のへんてつもない平均台。本当にただの平均台なんだが俺は先端で飛んだり跳ねたりしてみるが全然上れない。

 途方にくれ俯く俺に優しく声がかけられる。


「心春ちゃん、平均台に乗せるから後ろ向いて」


「え、楓凛しゃん? なんでここに」


 楓凛さんに脇をもたれ持ち上げられ平均台の上に立たせてくれる。


〈おっとこれは!? レ、レフリーこれはオッケーでしょうか?〉


 進行役のアナウンスにレフリーの人が両手で丸を作りオッケーだとアピールをする。

 ってレフリーなんかいたんだ。そこにビックリ。


 だがこの楓凛さんが作ってくれたチャンスものにしなければ!

 パンを咥え平均台の上に立つ俺は平均台のゴールを見て一歩踏み出す。


「ふがっ!?」


 一歩目でバランスを崩しパンを咥えたまま俺は落ちてしまう。


「とぉ、大丈夫?」


 落ちる俺は楓凛さんに受け止められ事なきを得る。ちょっと怖かったので涙目の俺の頭を撫でてくれる。


〈あぁ残念、これは流石に失格です。平均台記録はつきませんのでこのまま次へ進んでください〉


 楓凛さんが手を振ってくれるので手を振り返して先に進む。


〈次に待ち受けるのはネットの下を潜ってゴー! です。名前の通りネットの下を潜って通り抜けるまでの時間を計測します。頑張れ心春ちゃん!〉


 いや頑張れと言われてもこのデカイネットはなんなんだ。さっきの平均台もそうだったけどここ高校だから物がデカイんだよ。今の俺のサイズに合ってないんだよ。

 早く終わらしたい俺は目の前のネットの下に潜る為にネットの端を持ち上げる。


 お、重い……パンを咥えたままの俺は頭を入れる。


「ふぎゅ」


 頭を入れて片手を地面に付けたとたんネットの重みで潰れる。う、動けん……


 パンのイチゴジャムとネットに押し潰される俺。顔はベトベトだ。これいつまでやってれば良いんだ。


 だがすぐに上のネットが取り除かれ抱き抱えれる。


「心春さん大丈夫ですか? ああ、お顔が汚れてますわ」


 珠理亜がハンカチで拭いてくれるがジャムと砂だらけの顔は小さなハンカチで拭えない。

 そんな顔に濡れたタオルが当てられ拭いてくれる。


「わりぃ。私がイチゴジャムとか言ったから」


 ションボリする來実。


「じゅりあぁ、くりゅみぃ……うっ、ううっ」


「どうしましたの? どこか調子悪いですの?」

「大丈夫か!?」


 うつ向く俺を心配そうにする2人に俺は涙をボロボロ流しながら言う。


「ありがとうでしゅぅぅぅ、わた、わたち、こんなにやさちくしゃれたことないでしゅうぅぅ。くりゅみぃ(來実)も~じゅりあ(珠理亜)もぉ~いりょは(彩葉)も、かりん(楓凛)しゃんもありがとうでしゅ。みんなも応援してくりぇてぇありがとうでしゅううぅぅぅ」


 わんわん泣く俺は珠理亜に抱かれままゴールへ連れていかれる。ゴールで待つ母さんと彩葉、楓凛さんにトラに迎えられる。

 ギャラリーは泣きながら立って拍手してくれているしアナウンスしていた放送部の子もスイッチ切らずにすすり泣く音が運動場に響いてる。


 吹奏楽部のシットリした曲の中慰められる俺の能力テストは……あ、あれ? これで良いのか?

 チラッと建造さんとジャックさんを見ると泣きながら拍手している。


 うん、これで良いらしい。そうこれで俺の能力テストは無事終わったのだ。

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