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準備運動は入念になわけで

 筆記テストが終わった俺は校庭に向かう。


 ……なんだこれは。放課後というのにグラウンドには人で溢れ返っている。いや部活の人たちがじゃないよ。格好はなんの部活しているか分かるけどみんなグラウンドから出てギャラリーの様に並んでいるんだ。

 なんか門みたいなものがあり『心春ちゃん頑張れ!!』って達筆な字で書いてあるし。

 母さんと楓凛さんに手を引かれ歩いてその門に近づくといつのまにか建てられた簡易テントの下にいる方々、おそらく放送部と思われる人たちの一人の女子生徒が澄んだ声を校庭に響かせる。


〈梅咲 心春ちゃんの登場です。大きな拍手をお願いします〉


 校庭に響く拍手と歓声に俺はビビる。


〈心春ちゃん入場ですので保護者の方々は門まで誘導していただけますでしょうか〉


 言葉に従い母さんと楓凛さんが俺を門までつれて行く。


〈この門は急遽決まったこの心春ちゃんのテストの為に美術部と書道部が用意したものです。それを運動部の皆さんが設置いたしました〉


 健闘を称える拍手が起きる。


〈それでは心春ちゃん入場です〉


 そのアナウンスを合図にギャラリーの一部が立ち上がり楽器を構える。吹奏楽部だと……


「頑張って心春ちゃん」


 といって俺の背中を押す母さんに、にこやかに微笑む楓凛さん。俺は涙目である。

 ここまできたらやるしかない、ぎこちなく手足を出して行進を始めると同時に吹奏楽部が行進曲を演奏し始める。

 この世に一人だけで行進して入場したことある人がどれだけ存在するだろうか。


〈心春ちゃん恥ずかしいのでしょうか。下を向くその姿も可愛らしいですね〉


「かわいい!!」

「こっちむいてぇーー!!」

「がんばれーー」

「すきだぁああ」


 なんか色々な応援や拍手が飛び交う中ギクシャクと行進する俺。何回か手足が一緒に出た気がする。恥ずかしいってもんじゃない。

 校庭の4分の1しかないのに永遠に感じるこの行進。なんで距離が分かるかって? それは目の前に白い旗持って誘導してくれる先生が見えるもん。


 学校公認のイベントかよこれ。


 先生の誘導でグラウンドに1人、朝礼台を正面にして並ばされる俺。


〈開会の辞、校長先生お願いします〉


 なんで校長が俺の体力テストの為に開会の辞なんてやりやがる。なんか「お日柄もよくー」とか言ってるけど、どうでもいいので聞き流す。


〈続きまして選手宣誓、代表梅咲 心春ちゃん〉


「はっ?」


 思わず声に出てしまう。なんで俺が選手宣誓をやらねばならんのだ。

 だがその気持ちを無視するように周りから拍手と歓声が上がる。

 ぐぬぬぬぬぅ嫌だがやるしかない。この茶番を終わらせるんだ。

 俺はズイッと前に出ると放送部の方々が走ってきてマイクスタンドやらを俺の背丈に合わせてくれる。目の前には優しい微笑みを送る校長がいるが正直ウザイ。


 そもそも宣誓なんてやったことないからよく分からないのだが右手上げれば良かったんだっけ?


「しぇ、しぇんしぇー」


 ここでわぁーー!! っと歓声が上がる。

 なんか「かわいい」とか「生舌足らず初めて聞いた」とか聞こえてくる。チラッと周りを見るとギャラリーが増えている。


「わたち、うめしゃき こはりゅは体力テシュト《てすと》をしぇいしぇい(正々)堂々とジェン()力でやることを誓いましゅ!」


 吹奏楽部がファンファーレを響かせ歓声が上がる。恥ずかしいよぉ……


〈とても可愛らしい宣誓でした。皆さんもう一度大きな拍手をお願いします〉


 パチパチと大きな拍手が鳴り響く。


〈では続きまして準備体操。選手代表梅咲心春ちゃん前にお願いします〉


 なんだよこれ、俺しかいないだから代表も何もあったもんじゃない。

 先生に誘導され半ば強引に朝礼台の前に立たされると流れ出すラジオ体操の音楽。

 なんでラジオ体操?……はっ!? いやまて、確か日本におけるアンドロイドの運動テストの項目の一つがラジオ体操だったはず。


 よく見ると白衣やらスーツを着た男女がボードをもって俺を見てやがる。こんなテストやりたくないがやるからには俺の実力を見せてやる! よく分からないやる気を出した俺は心春の限界を目指す。


 俺の本気のラジオ体操を見て歓声が上がっている。


「ピョコピョコ動く姿が可愛いぃぃぃ!」

「必死に足を伸ばすの可愛すぎ!」

「好きだぁぁぁ!」


 などの声が飛び交う。俺の姿はみんなにどう映っているんだろうか……気にしたら敗けだと言い聞かせながら必死でラジオ体操をこなしていく。


〈ラジオ体操第二!〉


 な、第二!? 覚えてない、しかもなんで準備運動がこんな長いんだ? チラリと放送部、恐らく本部があると思われるテントを見るとみんなが俺の姿を見てほわわっと頬を染めながら「心春ちゃんの可愛い姿見たいからラジオ体操第五までないの?」とか訳の分からんことを真剣に話し合っている。


 ピョンピョン飛ぶ俺が睨むが効果はゼロだ!


 校庭で一人だけで準備運動をさせられるという屈辱に満ちたラジオ体操が終わり疲れた俺に次なる指令が下される。


〈とても可愛いラジオ体操でした。続きまして50メートル──〉


 50メートル走か……自信は全く無いがとっとと走って終わらせよう。


〈パン食い走のちそのまま200メートル障害物走を行います〉


 な、なんだその競技!? 50メートルパン食い走?? そのまま障害物走?? 


 訳の分からないまま俺はスタート位置に連れていかれるわけである。

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