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新たな可能性を考えるわけで

「うーん、どうしたら──いやーでもなぁ……」


 俺を置いて腕を組み目を瞑り悩み続けるひなみが右目だけ開いて俺を見る。


「ねえ心春ちゃん。虎雄くんだけどさ私が見た感じ凄く素直で良い子だなってのが今の私の印象。女の子にモテるのもそれ故かな? でね楓凛からちょっと聞いたんだけど心春ちゃんを起動するとき雷に打たれたんでしょ?」


 俺は静かに頷くと同時に思い出す。心春を起動しようとしてボタンを押したとき目映い光に包まれたときのことを。


「よく最新型のアンドロイドが発表されたときに人間と変わらない思考パターン搭載! とかまるで人間みたいな! なんて(うた)い文句聞いたことあるかな?」


 ひなみは心春な俺に分かりやすく説明しようとしてくれているのかゆっくり話し始める。

 その問いに俺は無言で頷くとひなみは話を続ける。


「あれね、6割本当で4割嘘なんだよね。アンドロイドの思考……えーとね『心』って言えば分かりやすいかな? これを100%人間に近付けることは絶対にないの。なんでか心春ちゃん分かるかな?」


 なんでか? その答えは知っている。俺だってアンドロイドを作った人間なわけだ。

 ただここで俺が解説を始めるのもおかしな話しだし、今の状況だと俺はひなみから話が聞きたい。だから噛み砕いて答える。


「ストレスでしゅか?」


「そう! よく知ってるね心春ちゃん。感情には『喜怒哀楽』があってもしそれを100%再現してしまった場合アンドロイドはストレスをも再現し心を病むと言われてるの。あー難しいかな? 分かる?」


 俺が頷くとひなみは安心したように話を続ける。


「現実問題無理な話しだけどこの世に何でも治療出来る万能薬が開発されたとしたらお医者さんたちはどんどんお仕事が失くなってしまうでしょ? でも最後まで残るのが精神科だって話しなんだけど……つまりね心の病は最後まで人類を蝕む、そしてそれはアンドロイドにも及ぶって話……あっ!?」


 分かる、分かるんだ。元々理解してる話しだから分かるんだけど一気に頭で組み立て言葉にしようとするとフラフラし始める。

 そんな俺を見て心配そうな表情をひなみがする。


「だ、大丈夫でしゅ。ちょっと容量オーバーしただけでしゅ。それよりお話しが聞きたいでしゅ」


「う、うん本当に大丈夫? 無理しないでね」


「ひなみもそんな優しい顔出来るんでしゅね」


 俺の皮肉に物凄く驚いた顔をするひなみ。


「いや、ほんと……心春ちゃんってアンドロイドであってるよね? 皮肉を言うなんてやっぱりリミット外れてるか元々ないのか、うーん」


 腕を組んで考え込み始めるひなみはすぐにハッとした顔をして話を再開する。


「そうだまず私は楓凛と同じ大学で、アンドロイド心理学科っていって去年設立された新しい学問を専攻しているの。

 さっき言ったアンドロイドの心って人間との比率で言えば30%ぐらいしか感情表現出来ないってされてるんだけど。実際現段階では50%までいけるとされていて、それ以上の再現は心の病を患う可能性が示唆されてるってあ~ご、ごめん。ついつい話してしまうと長くなるんだよねぇ~」


「だ、ダイジョウブでしゅぅ~」


 頭ぐらぐらで頭から煙が出そうな俺の隣にひなみが座りそっと抱き寄せてくる。

 いつもの激しいスキンシップでなく本当に優しく。


「簡単に言うとね。心春ちゃんはほぼ人間と変わらない。私はそう感じるんだ。そしてそれを作った虎雄くんには悪いけどその才能があるように見えないんだよね。だから雷がプログラムに何らかの影響を与えたのかな? って話」


「全然簡単じゃないでしゅ……」


「ごめんねぇ~私さ話すの得意なんだけどまとめるの苦手なんだ。ほらゲームでも魔法使いでレベル上げて物理で殴るみたいなスタイルだし」


 訳の分からない例えで弁明してくるひなみに寄りかかる。


「ちょっと本当に大丈夫? なんか辛そうだけど」


「いつものことでしゅ。ひなみぃ、もし、もしもの話でしゅ。3割程度に調整しゃれる予定のAIが人として……リミットのない体に生まれた場合どうなると思いましゅか?」


 俺の質問にひなみが再び目を丸くする。


「そんな質問ってアンドロイドが考える領域じゃないけど……」


 寄り添う俺を優しく引き寄せて考え始めるが直ぐに口を開く。


「推測でしかないけど、調整される予定のAIが解放されたら自分に戸惑うんじゃないかな? その……アンドロイドが思考するにあたって一番厳重にロックされているのが生まれてきた意味を考えることなの。

 だからそれを考え始めたとき戸惑い混乱するかも」


 アンドロイドの『生の思考』はご法度。まあ常識か……生まれてきた意味を考え始めたら人間の為に作られてきたことに対し自暴自棄に陥るか、人間からの解放を望む可能性があるからな……あーノイズが走る……


「じゃあ逆でしゅ。人がアンドロイドになってちまった……もしそういうことがあったらひなみならどうしましゅ?」


「……」


 ひなみが黙る。あー今回の目眩は少し長い。ひなみがバカみたいに一方的に話すから処理が追い付かないじゃないか。俺の記憶ではアンドロイドの記憶領域の話は何となく覚えてるだけどその知識を取り出そうとするとノイズが走る。

 これも俺が変に拘った結果なんだが、この眠い感じ……あんまり気持ちの良いものじゃないなぁ……


 ひなみの答えを聞く前に意識を手放し眠りに落ちていく。やさしく支えられたのを感じながら眠る。



 * * *



 誰かが頭を優しく撫でてくれる。気持ちいいからその手に頭を擦り寄せる。ゆっくり目を開けると心配そうな顔で覗くひなみと目が合う。

 頭の感触と体制からひなみに膝枕をされているようだ。

 頭を起こそうとするとおでこを押さえられひなみの膝枕に戻される。


「無理したらダメ」


 まだぼんやりすることもありひなみの言葉に甘える。優しく撫でてくれるので身を委ね目を細める。


「心春ちゃんの質問考えてみたんだけどね。私がもしアンドロイドになってしまったら……最初は元に戻ろうとするかな。でももし戻れないなら新しい生き方を模索するかも。新しい幸せを見つけようとするかも」


「……そうでしゅか。ひなみは強いんでしゅね」


 頬を優しく触れてひなみは呟く。


「そうしないとやってられないから。心がもたないよ」


 俺はその言葉を聞きながら目を瞑りもう一度静かに眠りに入ってしまう。

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