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心春はお買い物へ行くわけで

 俺は前髪の位置を直し開いた自動ドアをくぐり電気屋へと入っていく。


 ふふふふふ、電気屋はやっぱりテンション上がるな。オーブントースターの蓋をパカパカしながらニヤニヤする幼女。


 その姿はカットソー(白)デニムのサロペットワンピース(ネイビー)スニーカー(白)といった涼しげな格好。でもこのワンピース前にボタンがあるんだよな。ファスナーと違ってボタンには不安を感じてしまう。

 そして髪はハーフアップではあるが後ろを大きめのシュシュでトメて短いポニテをつくっている。

 こんな感じであり、やはり可愛いのである。


 そしてここはいつも来る商店街『散財商店街』にある個人経営の電気屋『中野電気』である。

 俺は歩いて行ける範囲なら1人での外出が許可されている。門限は5時に家にいること。なかなかに厳しいが文句は言ってられない。限られた時間を楽しまなければ。


「おや? 心春ちゃん今日も来たのかい?」


 そう言って出てくるは店主の中野さんだ。寂しい後頭部と対照的に暖かい営業スマイルである。


「はいでしゅ! ところでこのオーブントースターは自動で入れたものを感知するんでしゅか?」


「そうそう、例えばお餅一つにしても個体によって微妙に厚さが違うだろう。そんなのもスキャンして立体的に捉え焼き方を決めるんだよ。ムラなく焼くために熱線の照射角度が変わってね──」


 中野さんから一通り説明を受けた俺は家電のパンフレットを貰ってホクホクで店に出る。我ながらお金のかからない良い趣味だと思う。

 とそこでバッタリ会うのは我がクラスメイトの中町秀生(なかまちしゅうせい)である。


「あ、心春ちゃん……」


「こんにちはでしゅ、電気屋しゃんに用事でしゅか?」


「う、うん」


 この男は基本喋らないというかおどおどした感じで会話が続かない。昔の俺は話しかけたりしないが、今は心春なんで繕っておこうかなって感じで無難な挨拶をする。

 それにあの事件以来俺は男子を警戒している。世の中変態が多いことを知ってしまったからな。


 挨拶をして「じゃあ」って感じで通りすぎる予定だったのに中町が俺をおどおどしながらも見つめ道を譲らないせいで帰るタイミングを見失う。


 目を泳がせながらこっちを見る中町を俺は警戒する。何度も言うが『男は皆、(けだもの)』だからな。俺はポケットに入っているスマホの防犯ブザーのピンを握る。


「あの、虎雄くんは? 今日一緒じゃないのかな?」


 なんだこいつ。トラの存在を確認してなにする気だ? ますます怪しいぞ。俺は後ずさりしながらピンを持つ手に力を入れる。

 そんな俺の行動に気付いたのか中町が手をパタパタと振り必死で否定してくる。


「ち、ちがう。あの虎雄くんと話したかったんだ。その心春ちゃんを作った凄い人だからその……」


 モジモジする中町は顔を赤くして恥ずかしそうだ。うん、気持ち悪い!


「いやでしゅ! 今でも手一杯なんでしゅ! 男枠なんてないでしゅ! いらないでしゅ! お断りでしゅよ!!」


「え? え?」


 こっちはな來実、珠理亜、彩葉でも困ってるのにお前の入る余地はないんだよ! 俺の心の叫びに戸惑う中町。


「あの心春ちゃんを作るのって大変なのかなって聞きたかっただけで、でね、その……どうやったら作れるのかなぁって」


 てっきりトラに惚れたかと思ってしまった。勘違い……あぁ! なんとなく分かったぞこいつ、自分にも心春2号作ってくれないかなぁ? って言いたいんだろ。今俺が作れるわけないし、そもそも作れるとしても他人に作る気なんてサラサラない。


「いいでしゅか、トリャはもうアンドリョイドをちゅくる(作る)気はないでしゅ。こはりゅで燃えちゅきた(尽きた)のでしゅよ」


 俺の答えにあからさまに項垂れる中町。しょんぼりして悲壮感を漂わせているがなんで特に仲良くもないこいつの為にアンドロイドを作らねばならんのだ。

 よくよく考えるとかなり厚かましいぞ!


「うん、ごめんね。分かってはいるんだけど僕もアンドロイド欲しいなあって」


「少ち高いでしゅけど買えば良いじゃないでしゅか。そー言えば今度アメリカの『Jitb(じぇーあいてぃーびー)』が安くて性能の良いアンドリョイドを発表するんじゃなかったでしゅ?」


「うん『ジャック206』だよね。詳しいね心春ちゃん!」


 なんだこいつ、いきなり元気になったぞ。自分の得意分野だと元気になるタイプか? 気持ち悪いな。


 因みに『Jitb』とか『ジャック』とか言っているのは『Jack(ジャック)in(イン)the()box(ボックス)』の略で日本語で『ビックリ箱』を意味する言葉を持つ会社だ。

 驚きを提供するって会社で車からアンドロイドまで幅広い事業を手掛ける。


「そうなんだけどこれ見て」


 中町が持っていた雑誌を広げ俺に見せてくる。そこには社長の『ジョン・オールコック』愛称『ジャック』がどこかのニュータイプが乗りそうなカッコいいアンドロイド、ジャック206と並んで立っていてスペックなんかを説明しているであろう写真があった。


「カッコいいでしゅけど、それがどうしたでしゅ?」


「うん僕もカッコいいって思うよ。それに性能も文句ないし、価格も安いからヒットすると思うでも……」


 中町が下を向いて震えている? 


「でも! かわいくないんだ! 僕は心春ちゃんみたいなアンドロイドが欲しいんだ!! 一緒にイチャイチャ、ラブラブしたいんだよおおぉぉ!!」


「うっさい! この変態が!! ちね(死ね)でしゅ!!」


 中町の叫びにキレた俺は怒鳴りながら蹴りを入れる。ポカっ♪ て音を聞き付けて通行人に押さえられる中町。

 たく、この世の男は変態しかいないのか……俺は蔑んだ目で中町を見る。

 そんな俺の視線に気付いた中町が取り押さえられたままポッと頬を染める。


 ゾワッ!! 


 アンドロイドなのに背筋に悪寒が走る。き、気持ち悪い。俺は体を震わせながらまだちょっと早いけど家に帰ることにする。


 「うぅ~気持ち悪かったなあいつ。トラに気を付けるように言っておこうっと」


 もう一度体を震わせる俺はふとトラのことを思い出す。そういえばトラは遅くなるって言ってたな。楓凛さんと修行だったっけ? 好きだねあの2人も。


 そんなことを思いながらパンフレット抱えトコトコ歩く。

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