女子会はすれ違いなわけで
中庭に到着するとバサバサと高級そうなレジャーシートを広げる珠理亜。いつの間にそんなのを持ってきたんだと思いながら俺を含む女子4人はシートの上に座ると各々のお弁当を広げる。
3人とも少し量が多い気がするのはトラと食べる為なのか……
広げたお弁当について互いにコメントをしないが視線が吟味しているというか探っているような何かを感じる。
【來実お弁当】
『簡単に説明するならばキャラ弁だ。ご飯の上に可愛らしい黒ネコさんが笑顔を振りまいている。素材は海苔かな。その横に桜でんぶで作られた小さなハートが飛んでいるのがまたポイント高いのではなかろうか。來実の日頃の姿からのギャップもこの弁当の大きなポイントである」
(珠理亜:可愛いですわ。でもわたくしの方が豪華ですの)
(彩葉:米ばっかじゃん。おかず少なっ)
【珠理亜お弁当】
『これは前にも見たけど家で雇っている料理人の方々が作っているので豪華できらびやかである。味に文句の付け所はないだろうが高校生にしては豪華だ。
ただ最近このお弁当には変化がある。お弁当は小さく区切られ数個のマスの中に一品ずつおかずが並べられているのだが、持ってくる度にあからさまに料理人が作ったとは思えないおかずがあり少しずつ場所を広げている。
これは本人から説明があったのだが珠理亜が自分で作っているものであり慣れないながらも必死に作ったのがよく分かる。この辺はポイント高いな』
(來実:美味しそうだけど胃にもたれそうだな)
(彩葉:ぷっ、伊勢海老って……お昼に高校生が食べるもんじゃないっしょ)
【彩葉お弁当】
『今回初参戦のお弁当は非常に和風チック。お肉は唐揚げ。サヤエンドウや花型に切った人参、さつま芋の素揚げ。小さくて丸いおにぎりは黒ゴマや豆、梅干しの果肉を練って混ぜたものなどが彩りを添えている。かなり料理が上手いのが分かるお弁当である。安定感抜群のお弁当。彩葉の新たな一面を知ることが出来た一品』
(來実:上手だけど可愛くないな。そんなんじゃあ虎雄は喜ばないぜ。いつも私の見て可愛いって誉めてくれるからな)
(珠理亜:地味ですわ。器も小さいですし虎雄さんはもっと食べますのを知らないのですわね)
ふむふむ、なかなかレベルの高いお弁当たちではないだろうか。俺は感心する。
(私のが1番だな)
(わたくしの勝ちですわ)
(先輩たちって敵じゃないね)
俺はお弁当を食べながら言葉を一言も発せず目だけで牽制しあう3人をぼんやり眺める。こういう場合は時間がたつのを待つに限る。
ぽーーーーとする俺は空を眺める、快晴だ!
突然その空が揺れる……彩葉が俺の肩を揺らしているのだ。ああ首をおろしたくないよぉぉ
「こはりゅ、この女子会どうすんの?」
「どうしゅるって一緒にご飯食べれば良いじゃないでしゅか?」
「ダメだろ。心春がお互いを知ればどうか? って言ったわけだろ」
「ですわ。ここは心春さんに仕切ってもらわないといけませんわ」
彩葉に揺さぶられしぶしぶ視線を戻した俺は3人と目が合い無難に答えたら全否定されてしまう。
なんで俺主催の女子会になってんだよ。
「う~ん、でしゅたら改めて自己紹介でもしたらどうでしゅ?」
「なるほどな。相手を知るのは悪いことじゃないな。戦いの基本だしな」
そう言いながら來未実が立ち上がる。戦いってなんだよって思いながらも女子会の進行役としては会が動き出したことにホッとする。
「私は芦刈來実。虎雄とは幼馴染みで家が隣だ。ん~」
ここで來実が少し悩むというか頬を赤らめて照れながら頭を掻きはじめる。
恥ずかしいのを隠そうとしてる感じがかなりいいね!
他の女子はどうかな……冷たっ!? 凍てつくような視線で來実を見ている。温度差が半端ないけど來実は気にしていない。頬をポリポリと掻きながら視線を下に照れ臭そうに話し始める。
「まあ、あんまりこう、人に言うことじゃないけどよ。私虎雄にピンチを救ってもらってな、で~家で二人っきりになってー、そのな……」
來実がモジモジと恥ずかしそうに肩をすくめる。
「私が怪我しそうになったのを身を呈して守ってくれて『怪我はないか? 可愛い來実さんが怪我したら大変だ』って言って抱き締めてもらったんだ!」
顔真っ赤で恥ずかしいけど必死に胸を張ってトラとの出来事をどや顔で語る。これは想像以上の破壊力があるぞ。とても可愛いぞ!
「はーい、質問! 抱き締められたってどんな状況だったんですか?」
彩葉の質問が飛ぶ。
「私がこけそうになったのを庇ってだな……」
「あ、それ違うと思います。トラ先輩なら普通にやると思います」
「えぇ違いますわね。勘違いですわ」
「なにぃお~!!」
珠理亜と彩葉の否定に怒る來実だがそれを無視するように珠理亜が立ち上がる。
「わたくしは雨宮珠理亜わたくしはですね、虎雄さんをお家にお招きしたときに『お前を一人にしない! ずっと一緒にいるよ』って言われましたの。これはもう……その……け、けっこ……ん」
いつもはズバズバ言うのにこう言うときは語尾が小さくなって最後の方なんかほとんど聞き取れない。が、しかしそこがいい!
頬を赤く染めて恥じらう感じで言うのもいいね!
「それどんなシチュエーションで言われたんだ?」
今度は來実の質問が飛ぶ。
「わたくしがお父様と言い合いの喧嘩をしたとき、勘当されそうな私の夢を一緒に応援し支えてくれると言われましたの」
「あん? それってお前をアンドロイドの技士として支えるってだけじゃねえか?」
「そういえば実家はAMEMIYAでしたね。だったら応援するってだけでしょ」
「ち、違いますわ!」
來実と彩葉の言葉を必死で否定する珠理亜。そんな珠理亜を遮りふふんっといいながら彩葉が立ち上がる。
「私は茶畑彩葉。1年なんでトラ先輩の後輩でこはりゅの親友! 私はですね『俺の家族にならないか?』って言われました!」
きゃって言いながら両頬を押さえ恥ずかしそうに首を横にブンブン振る。見た目の可愛らしさを全面に出しながらシンプルにアピールしてくる。
日頃の気の強さとは違う愛らしさにドキッとしてしまうぞ!
「家族? それはどういう経緯で言われましたの?」
珠理亜の質問が飛ぶ。
「それはですね。こはりゅを私が欲しいって言ったら、俺の家族にならないかって」
「あらあら、残念ですわ。それは妹としてですわね」
「だな恋愛対象ではないってことだ」
「違いますー! トラ先輩と私と一緒にならないかってことですもん!」
珠理亜と來実が否定すると彩葉は手をバタバタさせて怒る。
さて無事に自己紹介も終わったしそろそろお開きにしたいのだが……。
俺は1人だけ座っているのでただでさえ小さいのに立っていがみ合う3人を見上げてため息をつく。
……なぜ、なぜに現トラはこんなにモテるのだ!? 訳が分からないよ……なぜ君たちは虎雄くんが好きでそして好かれたいのだ?
くそっ! 考えれば考えるほど心がドス黒く染まっていくぜ……
俺が負のオーラを放っていると彩葉がいち早くそれに気付く。
「こはりゅどうした?」
「う、うぅ」
俺はこの想いを叫びたい! 叫びたいのだ!
唸る俺を來実と珠理亜が心配そうに俺を覗き込んでくる。
「心春大丈夫か?」
「心春さん大丈夫ですの?」
心配そうに見る3人の視線を受けながら俺の口から出てきた言葉は
「ト、トリャはお兄たんで、こはりゅはお兄たんがしゅきで、みんなトリャがしゅきで……だかりゃあぁ」
俺の気持ちはもういっぱい! 頭の中ぐるぐるだ! なに言ってるかよく分かんないや。でも叫んでやる俺は、俺は……
「わたちも、みんなにしゅかれたいでしゅうぅぅぅうう!!!!」
涙ぼろぼろで俺は叫ぶ。俺を愛して欲しいと。
「ごめん心春」
「ごめんなさい心春さん」
「ごめんねこはりゅ」
涙する3人が手を握ったり、頭を撫でてくれたり、涙をハンカチで拭ってくれたりする。これか? これなのか? 俺が求めていたものは……なんか違う気がする。
女の子3人に謝られながら慰められる俺は悲しいのか悔しいのか分からないけどぽろぽろ涙が止まらない。
「心春?」
そんな俺に優しく声を掛けてくるトラ。何だかんだでいいタイミングで迎えに来てくれるじゃないか。
俺は涙目で振り替えり、3人娘は笑顔で一緒に振り替える。
「!?」
そこにはきな子さんの手を取り横に並んでやって来たトラがいる。
「あ、危ないよここ滑りやすいから」
「虎雄様申し訳ありません。こんな私に気を使って頂いてありがとうございます」
「自分のことこんなとか言わないで。きな子さんが怪我したら大変だし俺は悲しいから」
「あ、ありがとうございますっ、その、はいうれしいです……」
ぎこちない笑顔を見せながらトラにお礼を言うきな子さん。なんか少し恥ずかしがってないか? そんなきな子さんに微笑み返しながらをリードしているトラは俺を心配そうに見てくる。
「トリャ、お前。きな子しゃんとなにを……」
「なにを? ってきな子さんと一緒にご飯食べてお喋りしてたけど?」
そう答えるトラの横で少し恥じらうきな子さんを見て俺と3人娘は思う
──私たちはなにをやってたんだろう……──