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打ち上げは盛り上がらないわけがないわけで

 文化祭は二日間行われる。今日は一日目なので切り上げも必然的に早くなる。模擬店の後片付けを簡単に終えると、俺は夕華、珠理亜と來実と共にバンドメンバーたちと待ち合わせしていた校門前へと急ぐ。


 先に待っていた母さんと楓凛さんにひなみ、舞夏とうっさ~♪ と合流する。それから少しして、笠置ときな子さんが一緒にやってくる。

 なんだか珍しい組み合わせだが、バンド活動しているうちに二人は波長があったのか仲良くなったのだ。


 そして、ちょっと離れたところにいる、トラと彩葉。二人ともバンドと関係ないし参加したくないと断ったけど、珠理亜と來実の強い押しもあって渋々参加することになったのだ。

 参加し辛いと思うが、珠理亜たちの方から良いと言っているから問題ないのだろう。


 打ち上げの会場は近くのファミレス。四人掛けのテーブルをくっつけて大人数に対応してもらい俺たちは座る。アンドロイド組が多いので、食にこだわっても仕方ないし明日も学校なのでサクッとやれる方が大切なのだ。

 珠里亜が実はファミレス二回目なのだときな子さんに自慢し、得意げに呼び出しのベルの使い方をレクチャーしているのが微笑ましい。


「えーと、今日はお疲れしゃまでちた! 最初は不安でちたが今はもう一回やりたいって思ってましゅ! みんながあちゅまって、くりぇてうれちいでしゅ!」


 まだライブの余韻のある俺はクサイセリフも恥ずかしがらずに言える。俺の音頭でドリンクバーのジュースが入ったグラスがぶつかり、澄んだ音色を鳴らす。


 俺はまず、笠置のところへ行くと隣にぴょこんと座る。


「おちゅかれしゃまでしゅ。しょう言えばかしゃぎ、両親来てなかったでしゅか?」

 

「うん、来てた。ライブ終わった後ちょっと話した……凄かったって……褒められたの」


 ほんのり笑みを浮かべ嬉しそうに話す笠置を見て、改めてバンドやって良かったと思った。


「またやりたいでしゅ」


 これは本音。本当に楽しかったから、またやりたいから。


「うん、私も……来年三年生だから……ライブ参加すればやれるの。今度は時間もあるから……曲もみんなで考えても楽しいかもしれないの」


「それは楽しそうでしゅ。ちゅぎは、もっとだんち(男子)どもを罵ってやるでしゅ!」


 拳をグッと上げる俺を見て笠置は笑う。


「世界に羽ばたかなきゃ……いけないの」


「もちろんでしゅ。かしゃぎも一緒に行くでしゅ」


「うん」


 嬉しそうに頷く笠置を見て胸の奥がチクりと痛む。言ったことは本音だけど、来年俺はいるだろうか? 胸の奥に不安が渦巻く。


「心春ちゃん!」


 俺の背中をバンっと叩くのはひなみ。


「りりちゃんだっけ? いい歌聞かせてもらったよ~! あ、私ひなみ! 舞夏のお姉ちゃんです。よろしくね! ちょっと心春ちゃん借りるねぇ~」


 笠置が挨拶を返す間もなくひなみに俺は抱っこされ、母さんとトラの元へ連れていかれ三人に囲まれ座らされる。

 みんな笑ってるけどなんか怒ってる……?


「おちゅかれしゃまでちた」


「えーお疲れ様、心春ちゃん」


 母さんはそれだけ言うと抱きしめられる。


「心春ちゃん大丈夫なの?」


 ああ、怒っていたわけではないんだ。心配してくれてたんだ。


 涙が溢れてくる。母さんの胸から顔を上げると、トラとひなみを見ると二人とも心配そうな表情をしている。


「お母しゃん、後で話ちがあるでしゅ。しょの前にトリャとひなみに話ちたいことがあるでしゅ」


 母さんは俺をじっと見つめると、小さく頷き俺をそっと離してくれる。


 降りた俺がトラとひなみを見て頷くと、二人も頷いて応えてくれる。


「さ、今は打ち上げだし楽しむとしましょっか。ほらっ、心春ちゃんあそこ面白そうじゃない? 何話してるんだろうね?」


 ひなみが手をパンと叩き楽しそうに指さす。その方を見ると……。

 來実、珠理亜が並んで座って、テーブルを挟んで彩葉、楓凛の四人が一つのテーブルに集まっている。


 なにあそこ。めちゃくちゃ近づき難い雰囲気を放ってるんですけど……。



 * * *



 珠理亜がそっとメロンソーダーの入ったコップを置くと、キラキラした瞳で緑の液体を見つめる。


「体に悪そうな色と味! クセになりますわ」


「おい、然り気無く庶民をディスってんじゃねえよお嬢様」


 ふてくされた顔で言う來実を見て楓凛はクスクス笑ったあと、さっきから黙っている彩葉の肩をちょんちょんと突っつく。


「彩葉ちゃん、虎雄君とお付き合い順調?」


 楓凛が普通のトーンで聞いてくるのに対し目を丸くする彩葉だが、すぐに元の顔に戻る。


「結構普通に聞いてくるんですね。そこにびっくりです」


「え~、う~んそう? どうなのかなぁ? って気になるし」


「楓凛さんって天然というか……まあいいですけど。順調ですっ、お母さんにも紹介しましたし」


「天然じゃないと思うけどなぁ」という楓凛の発言は流されて、メロンソーダーの立ち上る泡を見つめたまま、珠理亜はポツリと発言する。


「順調だと聞くとそれはそれで複雑なものですわね。素直に喜べないといいますか」


「んーそれは同感かな。ま、だからって邪魔する気はないけどな」


 二人の発言に彩葉がムッとした表情をむけ不満を露にする。


「そうねぇ~今日の心春ちゃん助けに行く虎雄君姿見たら、踏ん切りついたと思ってた自分の気持ちに疑問持ったもの」


 楓凛の言葉に思うところがあるのか、珠理亜と來実が目を反らす。そんな二人を鋭い目つきで見る彩葉。


 沈黙が続き重い空気が流れる。


「それを言いたくて今日誘ったんですか?」


 沈黙を破った彩葉の言葉は新たに緊張感を生む。


「そうではなかったのですけど、それもあるかもしれませんわね……素直に羨ましいって思いますもの」


 珠理亜は短く切った髪をかき上げると、真剣な眼差しを睨む彩葉に向ける。


「話が逸れましたわね。今日来てもらったのは別のことですわ。彩葉さん、心春さんのことで何か聞いてませんか?」


「こはりゅのこと?」


 彩葉が、離れた場所で夕華と舞夏やうっさ~♪ と楽しそうに話をしている心春を見る。


「今日のライブ、心春さん演奏が止まったとき泣いてましたの。本人は度忘れしたと言い張っていますけど、そうとは思えませんの……アンドロイドにこう言うのはおかしいのですが、体の不調について何か隠してるとしか思えませんの」


 彩葉は、珠理亜を瞳に捕らえたまま答える。


「期待に応えれなくて悪いですけど、私は何も聞いてませんよ」


「そう、彩葉さんならなにか聞いているかと思いましたのに。梅咲さんからも何にも聞いてませんの?」


 彩葉は首を横に振ると珠理亜が小さくため息をつく。


「むっ、今のため息はなんかかんさわるっ」


「まあまあ、落ち着け。珠理亜も今のタイミングはよくないだろ」


 ため息に噛みつく彩葉を、來実が押え珠里亜に苦言を指すと、珠理亜も頭を下げ謝る。


「そうそう、思うところはあっても。こうして知り合えた四人なんだし仲良くしていなあ~って私は思うんだぁ。

 ほら、彩葉ちゃんと虎雄君の仲を応援とまでいかなくても、優しく見守っていこうよ。二人とも仲良さそうだし、結婚までいっちゃいそうだし!


 あ、そうだ! 二人の結婚式に私と珠理亜ちゃんと、來実ちゃんの三人で参加するとか考えたら楽しくないかな?」


「楽しくないですわ」

「楽しくない」

「全然っ」


「ひぃ~ん,みんな酷い~」


 楓凛の発言を皆が全否定し、一頻り責めた後、四人は同時にため息をつく。


「元々私らは、友達として集まったわけじゃないからな。元恋敵としては妥当な関係じゃないか?」


「ですわね。ですが……」


「心春ちゃんのことは別だね」


「もちろんですっ」


 四人は同時に頷く。



 * * *



 最悪の空気から、清々しい一体感を感じる空気まで何とも高低差の激しい雰囲気を周囲に放つ四人娘。

 あそこには誰も近づけねえよ。現に皆近付いてないし……。


 そういえば四人が揃うのは、女子会以来じゃなかったっけ? ちょっと前のことなのに懐かしく感じる。


 こうして打ち上げはごちゃごちゃしながらも盛り上がるわけだ。


 帰る時間が近付いたころ、俺はもう動かない右の人差し指と中指を見つめ、ため息をつく。


「ちょっと早すぎでしゅね……」

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