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俺は最新でお前はかつての俺なわけで ~心春な日々~  作者: 功野 涼し
9月 ~文化祭~

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新学期が始まるとクラスメイトは別人になってたわで

 長かった夏休みも終わり、新学期が始まるその前夜の話。


 人間とアンドロイドが一緒に学校へ行く『アンドロイド・サーポーター制度』なるものがあって、俺はそれを利用してトラと学校へ行っているわけなのだが。


 今俺の目の前に頬を膨らませ、私は納得しませんと体全体で表現している幼女がいる。


「しょうは言っても夕華はAMEMIYAのとうりょく(登録)で、トリャに一緒に行くにはとうりょく変更が必要でしゅ」


「むぅぅ、でも私も行きたいんです」


 わがまま幼女に困る幼女俺。


 頬を膨らませていた夕華だが、突然何かを閃いたような顔をして、自分のポシェットからスマホを取り出すと電話をかけ始める。


 電話の相手は建造さんであろう。そして会話の内容から察するに……


「こはりゅお姉ちゃん、私も明日から学校へ行って良いそうです」


 ニコニコで俺に報告してくる夕華。可愛いけどなんか怖い。


「所有者からの許可を得たわけでしゅか……それにしても申請から許可までが早すぎじゃないでしゅか」


「建造さまがすぐに学校へ掛け合い、許可をもらってくれました」


 嬉しそうに報告する夕華だが、今は夜の9時だ。こんな時間に無理を通すとは恐るべしAMEMIYAグループ。

 何か大きな力に屈服したような、そんな敗北感を味わった気がする。



 * * *



 と言うのが昨日の夜の話。俺は今、夕華の手を引きながらトラの背中を追いかけながら登校中である。

 登校が初めての夕華のためにいつもより早めに家を出た。まだ汗ばむ陽気ではあるが、僅かに冷気を含む風が、夏が終わりに向かっていることを教えてくれている。


 夏休み明け初の登校は、始まる前と比べずいぶんと静かになった。


 朝玄関の前をウロウロする來実も、角で雑に待ち伏せする珠理亜もいない。たまに俺を起こしに来る彩葉は今日は来ていないから本当に静かだ。

 少し寂しい気もするが、隣にいて話しかけてくる夕華と、ちょっとだけ頼もしさを感じさせるトラがしっかりした足取りで歩くのを見ると、寂しさも和らぐ。


 幼女2人を連れて歩く男子高校生の登校は、まばらに歩く同じ学校の生徒たちの視線を集めながらも無事に終えることができる。


 久々に見る教室のドアを開いたトラの後ろをついて教室へ入ると、まあ、当たり前だが注目を集めることになる。


 まずはうちの変態、もとい男子どもが俺と夕華を見て立ち上げる。なぜ立ち上がるかは分からないが、身の危険を感じた俺は夕華を庇う為背中へ隠す。


 背中にいる夕華は俺の服をきゅっと握ってくる。頼られている! そう感じた俺は男子どもから夕華を守るべく両手を広げる。


「あれがこはりゅお姉ちゃんが言っていた、変態さんたちですね」


 背中から小さな声で囁く夕華の楽しそうな声が聞こえてくる。


 そのときだった。ドアががらがらと開き入ってきた人物に皆が注目し息を飲む。


「おはようございます」


 そう言って頭を上品に下げるのは、長い黒髪をバッサリ切ってショートボブになった珠理亜と後ろにきな子さんが控えている。


 そして入ってすぐに立って進路を塞ぐ俺たちをチラッと見て、大体を察したのか立っている男子どもをキッとした目付きで見る。


「女の子2人が困ってますわ、座ってくださる? それと梅咲さん、あなたがしっかりリードしてあげなくてどうするのかしら? いつまでも心春さん任せもどうかと思いますわ」


 それだけ言うと自分の席に座る珠理亜。勘の良い女子たちは短く切った髪と、トラに対する態度で察したようで、特に噂大好き右田(みぎた)さんは目を輝かせ浮き足立っている。


「こはりゅお姉ちゃん、あの方が珠理亜お嬢様ですね。私のデータと微妙に姿が違うのは、男女の関係の変化によるものでしょうか?」


「う、そうでしゅね……」


 背中から聞こえてくる囁きに、歯切れの悪い返事をする俺。


 そんな微妙な空気の流れる教室へ次なる人物が入ってきて教室は騒然とする。

 かつて金髪だった髪を黒く染め、長い髪をこちらもバッサリ切ってセミロングとなった來実の姿に、トラとの間に最早何も無かったなどと考えない奴などいるわけがないだろう。


 あ、いや男子の一部、(やぶ)島崎(しまざき)中町(なかまち)なんかは俺と夕華に夢中のようで珠理亜と來実の変化については割りとどうでもいいみたいだ。

 俺たちの方をガン見してる。


 キモいな。


「心春元気にしてたか? お、夕華も学校へ来るのか」


 俺の頭を撫でてくれる來実に、俺の背中に隠れていた夕華がピョンと飛び出してペコリと挨拶をし、ネコの髪留めを嬉しそうに指差す。


「おはようございます、くりゅみさま。この間はネコしゃんを選んでいただきありがとうございます」


「ああ、気に入ってもらえたみたいで良かった」


 少し照れながら言う來実が夕華の頭を撫でると、夕華は笑顔で返し応える。


 夕華の丁寧な喋りと上品な所作に加え可愛らしさを見せる、その姿に一部の男子は釘付けである。

 そんな視線も華麗にかわしながら、夕華は珠理亜の方を向くと丁寧なお辞儀をして挨拶をする。


「珠理亜お嬢さま、きな子さま、お初目に掛かります、夕華と申します」


 きな子さんはいつも通り静かにお辞儀をして挨拶を返し、珠理亜は微笑む。


「ええ、初めまして。お父様から聞いてはいましたが本物は一段と可愛らしいですわね。

 夕華、心春さんのことをよろしくお願いいたしますわ」


「はい、珠理亜お嬢さま」


 家とは違う立ち振舞いと、表情を見せる夕華に新たな一面を見た気がして感動していると、くるっと回って俺の方を振り返った夕華はいつもの笑顔で、


「こはりゅお姉ちゃん、席につきましょう」


 俺の手を取るその姿に、「ヤバい……可愛いっ」と島崎の呟きが聞こえてくるが無視しておく。


 そう言えば夕華の席がない。俺はトラを睨むとビシッと指差す。


「トリャ、夕華の席がないでしゅから、しぇんしぇ(先生)に許可もらっていしゅ(椅子)を取ってくるでしゅ!」


 トラに指示する俺を見て、「心春ちゃんの鋭さに磨きがかかってる!」「あぁ叩かれたい」と変態どもの囁きが聞こえてくる。


 き、気持ち悪いぜ男ども……。


 新学期初日から不安なスタートとなるわけである。


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