第9話 死者の遺跡 五
「私の力は勇者を、いえ、ラルフを助ける為に!」
軽鎧の下にエプロンを身に着け、杖を構える黒髪黒目の少女。
勇ましいその言葉は、しかし、根柢の部分で揺れていた。
ナオの仲間達も、バーナットに向けてそれぞれの得物を構える。
隔絶した力の差を見せ付けられながらも、彼らの闘志は些かも衰えてはいなかった。
『健気な事だ。しかし、その勇者ラルフとやらは、お前らの中にいないようだがな? 大方、何処ぞの雌に奪われでもしたか?』
ククク、とバーナットは笑う。
『捨てられたか? 自分勝手な思い込み、妄想を抱いているだけか?』
なお嘲笑うバーナットへ、ロバートが駆け、その手に握る魔剣を振り下ろした。
「魂を亡くしたアンデットが!」
ロバートの魔剣は、今度はバーナットの結界を斬り裂くことはできず、阻まれ、虚空で刃を震わせていた。
「彼女の想いを嘲笑うなど、俺が絶対に許さない!」
『ふむ……』
このフロアの全てを揺るがす程のロバートの咆哮。
それを一顧だにせず、バーナットの視線はナオへと向かう。
空虚な眼窩に灯る青白い炎が、少女の黒い瞳の奥を見据える。
『そうか。ならば』
次の瞬間。
嵐の誓いの全員が、赤い炎に包まれた。
「みんな!」
悲鳴を上げたナオの目の前で炎は弾け、消え去った後には、何も残っていなかった。
『どうにもお前は戦い辛そうにしていたのでな。邪魔な者は我が手ずから退場させてやった』
バーナットは、虚空から呼び寄せた杖をその左手に握る。
『さて、矮小なる小娘よ。貴様の本気を見せてみよ』
カランッと音が鳴った。
ナオの手から、彼女が握っていた杖が落ち、それが地面を転がって行った。
『戦意を喪失したか? ならばお前も仲間の後を追う事になるぞ?』
「あなたは……」
何処からか笛の音が流れて来た。
それは冷たくも美しい、幽世の音を奏でる夢幻の調べ。
そして、ナオから溢れ出す、膨大な黒い魔力。
『おお! それがお前の真の力か!』
愉快そうに哄笑を上げるバーナットに向けて、ナオは右手を突き出した。
「私が倒す!」