第8話 昔の話 二
ナオがラルフと出会ってから三か月が過ぎた。
夕方になると、ラルフはナオの住む村を訪れ、大木の木陰で休むようになった。
その隣にはいつもナオがいて、二人で一緒に空を眺めていた。
ナオが笛を奏でる。
澄んだ風のような調べは小鳥の様に舞い踊り、大木の木陰から村へ森へと流れて行った。
誰もがその音色に耳を傾けて、束の間の勇者と少女の休息を見守った。
「今日は氷の魔王の僕を殺した」
「うん」
「俺と一緒に戦った兵士達は、皆死んだ」
「うん」
「戦った場所の町は、壊れてしまった」
「うん」
空ではない何処かを見ながら、ラルフはナオに自分の戦いの話をした。
感情の無い、空虚なその声は、まるで生きるのに疲れた老人のようだった。
「氷の魔王を倒す為に、俺は勇者に選ばれた。だが、その僕である氷魔にさえ、俺は苦戦した」
俺は本当に勇者なのかと思った。
「いつも俺だけが生き残って、一緒に戦ってくれた人が死んでいく」
いや、『お前は勇者ではない』と、誰かに言って欲しかった。
「俺は……」
空と同じ紅の瞳に涙は無かった。
けれども、ナオにはラルフが泣いているように見えた。
ナオはラルフの頭を抱き締めた。
包み込んだその中から、小さな嗚咽が聞こえて来た。
「ラルフ……」
「もう少し……このままで……」
「うん」
ラルフはいつも戦っていた。
そして、最後にはいつも独りになっていた。
だから彼には仲間が必要だと、ナオは思った。
(私が、ラルフの仲間になろう)