第7話 死者の遺跡 四
炎の巨人と竜との戦いは熾烈なものだった。
しかし、バーネットの様にロバート達の攻撃が全く通用しないということはなかった。
ナオの魔法によって動きが鈍った巨人と竜へと、ロバート達の攻撃が集中する。
それにバーナットは手を出さなかった。
ただ実験を観察する者の目で、彼らの戦いを眺めていた。
ついに、魔法使いの氷の嵐が炎の巨人を吹き消して、ロバートの魔剣が炎の巨人を両断した。
『では次を出すとしよう』
現れる炎の魔法陣。
そこから飛んで来たのは、無数の炎の矢。
「私が!」
ナオが仲間達の前へと飛び出る。
その手に持つ杖が魔力洸を放ち、防御結界を作り出した。
「くっ!」
次々と着弾し、劫火と共に爆発する炎の矢。
その余波は荒れ狂う炎の奔流となって、周囲を焼き尽くす。
結界超えて伝わる熱が、ナオ達の体力を奪っていく。
「俺が出る」
「無理です!」
魔剣を握り結界の外へ出ようとするロバートを、魔法使いが止める。
「このクラスの結界でもこれ程の負荷が掛かっているんです。個人に掛ける防御魔法なんかじゃ、すぐに消し炭になってしまいますよ!」
「それでも、このままだとナオが持たない」
「ですが……」
ナオは一瞬だけ杖から右手を放し、その手に込めた魔力を以て魔法を使った。
「眠りの力よ 我に襲い来るものを 闇の足にて踏み潰せ」
炎の奔流が消え、炎の魔法陣も消えた。
全身から汗を流して肩で息を切らせ、倒れそうなほどの疲労を覚えながらも、ナオはバーナットに向けて杖を構えた。
『熱の動きを止める、か。魔力も、その制御も申し分ない。しかし惜しいのは、それが我流によるものという事だな』
バーナットは、ナオの魔法の技量を完全に見切っていた。
彼女の魔法が、属人的に固有のものであり、特殊系統に分類されるという事。
その使い方は、誰かに師事を受けたというものではなく、実戦で磨かれたものだという事。
それ故に、幾つもの無駄を含んでいるという事。
『黒髪の小娘よ、一つ問おう。お前は何故、その手に杖を持ち戦ってきた?』