第6話 死者の遺跡 三
【白炎獣のバーナット】は余りにも強大な存在だった。
「火の力よ 我が敵を貫く槍となれ!」
魔法使いが虚空に現した、十五本の炎の槍がバーナットへ向かう。
その一本は岩をも貫く力を持ち、鉄をも溶かす熱を持つ。
「取って置きよ。喰らいな!」
弓戦士が放った、風の刃を纏う矢が、音速を超えて飛翔する。
それらはしかし、バーナットを包む魔法結界によって、虚空へと散らされる。
「ハアアッ」
正面から振り下ろされた、ロバートの魔剣。
『フム』
それは魔法結界を斬り裂いたが、バーナットの右手の指で摘まみ止められた。
『我の結界を破るとは、中々に強力な魔剣だな。ま、我も起き抜けで、手を抜き過ぎただけの話だが』
ゴミを払い捨てるように右手を振るう。
水平に飛ばされたロバートを、盗賊の魔道具の網が受け止める。
「すまん」
「いいって。しかし、まあ、めちゃくちゃ強くね? 封印による弱体化って話は何処にいった?」
「封印の効果は正常に動いていましたよ」
盗賊に答えた魔法使いの顔からは、冷汗が止まることなく流れ落ちていた。
「オーガでも一か月閉じ込めれば、人間の赤子より弱くなります。それは力だけではなく、魔力も例外ではありません」
「はは、じゃあ何? そんな所に百年も閉じ込められて、弱体化した結果でコレってこと?」
「そうです」
バーナットは嵐の誓いの話を遮ることなく聞いていた。
『ふむ。我が封じられてから長き年月が経ったようだが、嘆かわしい事に、外の者達は研鑽を怠っていたか』
それは、心の底から嘆くような声だった。
『我は禁呪に手を出してここに封じられ、そして人としての生を終えた。幸いにも、その先の時間を手に入れる事ができた。封印が解かれた暁には、外の世界へと舞い戻り、我の生きた時代よりも進んだ魔法の力と思う存分戦いたいとおもっていたのだが……』
骨と化した右手の人差し指が魔法使いを指す。
『貴様、その胸の紋章は『一級魔法使い』の証だな? 魔法協会が定める、最高位の魔法使いにのみ与えられる』
「……そうですが」
『我の生きていた時代なら、貴様には見習いとして杖さえ与えられなかっただろう』
それは侮蔑の言葉だった。
魔法使いは強い怒りを覚え、しかし踏み出すことなく、バーナットの様子を窺う。
『……いいだろう。生者がその歩みを止めるというならば、死者である我が、この時代に歩みを与えてやろう』
バーナットの前に二つの炎の魔法陣が現れた。
燃え盛るそれらから、巨大な存在達が、この世界へと這い出て来る。
炎の巨人と、炎の竜。
『我が魔王を名乗り、全ての生者の敵となってやろう。そうすれば、この時代の愚者共も、必死になろうというものだ』