第5話 死者の遺跡 二
ナオ達は遺跡の奥へと進んだ。
多くの強力なアンデット達が襲って来て、苦戦はしたものの、誰も欠ける事無く最後のフロアへと辿り着いた。
「ここがそうなの?」
「ええ、間違いないです」
弓戦士の問いに魔法使いの少年が答えた。
「百年前、禁忌を犯して魔法協会から追放された大魔法使い【白炎獣のバーナット】。当時、協会が研究施設として使っていた遺跡に彼は立て籠もり、死闘の果てに封印されたそうです」
そのバーナットを封じた最奥の部屋には、彼が協会から持ち出した多くの秘宝もまた眠っているという。
「半年前に戦場で深手を負い、両目を失った皇太子殿下。その傷を治す力を持った魔道具がここにあると、資料には記されていました」
「クク、褒賞金の額がすげえからな。これで俺は人生を五回やり直しても、その都度豪遊できるって話よ」
「バカね~。死んだらお金は持って行けないのよ」
「ものの例えだよ。お前、分かって言ってるだろ?」
最奥の部屋へ進むのを妨げる鉄扉は大きく、宝玉を組み込んだ装飾が施され、幾重にも太い鎖がその取っ手に巻かれていた。
「『いつかこの封印を解く者よ。災禍を未来に残したことを、心より謝罪する』」
ナオは扉に刻まれた、汚れ霞んだ文字を読よんだ。
その最後には『レオン・クロニクル』という名前が記されていた。
「今の魔法協会会長の先祖に当たる人物だ。平民から成り上がり、最後には爵位を貰った、魔法史に残る英雄だ」
「へえ」
横に立ち、そう教えてくれたロバートを見上げる。
「私達で勝てると思う?」
「……」
ロバートはナオの問いに答えなかった。
「大丈夫ですよ。この封印には弱体化の効果があります。彼の【白炎獣のバーナット】と雖も、往時の力は無いはずです」
「ま、そいういうこった」
「冒険者ギルトで聞いた話だと、封印もあと一か月で解けてしまうんだってさ」
そうすれば復活した【白炎獣のバーナット】が、近隣の脅威になってしまう。
そして今ここに居る『嵐の誓い』は、この地方では唯一のA級の評価を受ける私部隊だった。
「行くぞ」
ロバートが出したその声には、重い覚悟の響きがあった。
彼自身も理解していた。
いくら封印で弱体化したと雖も、この扉の奥からは強大な存在の気配が伝わって来る。
生死を懸けた戦いになるかもしれない。
それでもこれは彼ら『嵐の誓い』にしかできない事であり、A級と評される者の使命であると。
「はい」
ナオは頷く。
あの時、『正式なメンバーにならないか?』という誘いをナオは保留した。
ラルフ達を振り切ったと思った。
しかし、ロバート達から改めて誘いを受けて、それに騒めく心の動きを感じてしまった。
「では封印を解除します。備えてください」
魔法使いが、その手に持つ杖で扉の宝玉に触れる。
「おう」
「分かったわ」
そしてコクリと、ロバートが頷いた。
皆が武器を構え、そしてナオも、その手に持つ杖を強く握る。
(私は中途半端だ……)
ロバート達は良い人達だった。
そして、一流の冒険者達だった。
氷の魔王に立ち向かう勇者の私部隊、その一人だった自分が、一番情けなかった。
(私は……)
それでも、このクエストが終わるまでは、精一杯努めようと思った。
勇者の仲間だった情けない少女ではない、『嵐の誓い』の仲間に迎えられた一人の冒険者として。
「開きます!」
封印の扉から魔力洸が弾けた。
誰もがその眩さに目を細めた。
そして光の収まった直後に、鋼鉄で作られた扉は、砂の様に崩れていった。
膨大な瘴気が、その奥から噴き出してきた。
ヒカリゴケに照らされる広大な部屋には、数多の本と数々の実験器具が置いてあり。
部屋の中央には白い安楽椅子が揺れていて、そこにはローブを身に纏い、フードを目深に被った一人の人物が座っていた。
『やれやれ。やっとお迎えが来たか』
彼は背もたれから身を起こし、ゆっくりと宙に浮き上がる。
『さて弱き者達よ、我が少しだけ相手をしてやろう。それを冥土の土産とするがよい』
彼の被っていたフードが取れる。
そこから現れたのは、両目に青白い炎を宿す、白い頭蓋骨。
『お前らを喰らったら、さて、この国の人間を皆殺しにするとしようか』