少し昔の話
ナオがラルフと出会ってから半年が経っていた。
ラルフは時々やって来て、ナラの古木の根元で少し休んで、また旅立って行った。
ナオは風にラルフの気配を感じると、籠と笛を持って、森の入口へと向かった。
安らかに目を閉じるラルフの横で、ナオは笛を奏で続けた。
「今日は魔族を二人殺した」
「うん」
「俺と一緒に戦った兵士は、皆死んだ」
「うん」
「戦場になった町が消えた。俺の剣が、魔族と一緒に、薙ぎ払った」
「うん」
ラルフはナオに自分の戦いを語り続ける。
感情の色の無い、空虚なラルフの声音はまるで懺悔のようであり、生きるのに疲れた老人の独白のようでもあった。
「いつも俺だけが生き残る。俺を仲間だと、友と言ってくれた奴らは全員、死んでしまう」
勇者の為に、勇者を庇って。
大切な者達の願いと希望を、勇者に託して。
「俺は……」
紅の、乾いた瞳が空を見上げる。
ただ静かなラルフの姿が、ナオには慟哭し、泣き叫んでいるように見えた。
ぎゅっと、ナオはラルフを抱き締めた。
ナオの胸の中からやがて、小さな嗚咽が聞こえて来た。
「ラルフ……」
「もう少し……このままで、いさせてくれ……」
「うん」
勇者はいつも戦っていた。
友や仲間、或いは協力者がいた事もあった。
だけど最後には、勇者はいつも独りぼっちだった。