第16話 ニハラス・ゲンベスタ
バーナットの手に杯が現れる。
「我が目的は知識の探求だ。世界を巡り世界を識る事こそ我が望み。同道において、お前の指示に従うと誓おう」
それがこの『聖杯を模した魔道具』を渡す交換条件だ、と目の前に掲げる。
「……いいよ。私の旅にあなたを迎える事を、土の聖霊ヌニトに誓う」
「では契約成立だな」
宙に浮いた杯は、ナオの方へと移動し、彼女の身体の中へと入って行った。
「これは……」
「お前を所有者として登録した。虚弱な貴様の身体も、これで魔王へと続く道を歩むことができよう」
「私、あなたに勝ったよ……」
「それは我の前の身体であろう。大人しい顔に反して、随分と負けず嫌いだな」
ナオの目の前に歩み寄ったバーナットが右手を差し出す。
「これからよろしく頼む」
「うん」
その手をナオが握る。
「私の名前はナオ。苗字の無い、ただのナオだよ」
「了解した。ではナオよ。旅の仲間として、一つ願いがある」
「何かな?」
「我に名を付けて貰いたい。【白炎獣のバーナット】には聖印教会や魔法教会などの柵が多く、ここに葬っていく。故に我はバーナットではなく、ただの名も無き子供という話になる。その我の名を、初めての仲間であるナオに付けて欲しいのだ」
「……そっか。君はひとりぼっちだったんだね……」
涙を浮かべるナオ。
「うむ。そういう訳で頼む」
「分かったよ。じゃあ、君の名前は……」
少し悩んでから、ナオは元【白炎獣のバーナット】たる少年に、名前を与えた。
「【ニハラス】。君の名前はニハラスだよ」
それはナオが旅の途中で見た劇の登場人物の名前だった。
優しい魔法使いだった彼は、劇の中で、その力を使って多くの人々を助けていった。
「了解した。我が名はニハラス。魔法使いニハラスだ」