第15話 罪の理由
少年、【白炎獣のバーナット】は言葉を続ける。
「我もこの世の叡知を集める魔法使いの端くれ。なれど些か長い間この穴倉に閉じ込められたが故、我の常識と今の世情には乖離があるであろう」
バーナットの顎に触れた指が、髭を撫でる仕草をするが、当然そこには髭が無い。
見た目は白皙の美しい少年だが、仕草のひとつひとつに、年を経た魔法使いの貫禄が滲み出ている。
その外見と内面の齟齬が醸す違和感に、ナオは頭の疲れと、軽い眩暈を覚えた。
「確か、百年も閉じ込められていたって話だよね」
途中で魔法使いの少年から聞いた、バーナットが此処に封じられたあらましを思い出す。
「あなたは禁忌を犯したとも聞いた。それは何?」
「ああ、それか」
ナオの問いに、バーナットはパチンと指を鳴らした。
魔力が部屋の中を走り、そして、ナオの横の床が上へと迫り上がる。
「これは……」
円柱となったその中央に、ガラスの箱の中に封じられた、一つの杯があった。
大きさはナオの掌ほどであり、黄金の輝きを放っている。
「我が封印されるきっかけになった、聖杯のレプリカたる『模造神器』だ。人の持つ魔力と世界に満ちる魔力、この性質の異なる二つの魔力を用い、理論上あらゆる魔法の行使を可能とする。これを用いれば、例えば『欠損した両目』を再生させることも容易かろう」
他の床も迫り上がってくる。
その中にも同じようなガラスの箱があり、様々な物が納められていた。
「故に『聖霊の奇跡』と称した、できそこないの『模造神器』を使う教会より疎まれた。それを使って政治的影響力を拡大し、信者共から財物を巻き上げる奴等にしてみれば、より強力な『模造神器』を作れる我は、邪魔以外の何者でもなかっただろう。当時の魔法教会の上層部を嗾けて、王国と一緒になって襲い掛かってきおったわ」