第14話 邂逅
ガラスポッドの中に満たされた液体、その中に浮かぶ少年の目の瞼が上がる。
『ようこそ。我を倒した小娘よ』
ナオの頭の中に直接響いた声は、間違いなく【白炎獣のバーナット】のものだった。
「眠りのっ」
『落ち着きたまえ』
床から現れた蔓がナオの身体に巻き突く。
「魔力が……」
蔓がナオの身体から魔力を吸い出し、それによって使おうとした魔法が不発に終わる。
体力も、そして魔力も尽きたナオは、蔓の拘束に抗う力を無くした。
『戦う意志は我には無い』
ガラスポッドが開き、その中から出て来た少年が、ナオの前へと進み出る。
「我との戦いはお前の勝ちだ。ここで危害を加えて、あの楽しき戦いの記憶を汚すようなことはせん」
「あなたは、何者……」
力を振絞り、掠れた声で問い掛けたナオに、幼い少年の声が答えた。。
「我の名はバーナット・ゲンベスタ。白炎獣と呼ばれし、魔法協会最強の魔法使いである」
ナオの小柄な体を見上げる碧い瞳が笑う。
「まあ、それも全て『元』が付く代物だがな。今の我はホムンクルスの肉体に、バーナットの魂の欠片と記憶を持つ者にすぎん」
少年がパチンと指を鳴らすと、その姿が、古い時代の子供服を纏った姿へと変わった。
長い銀色の髪を頭の後ろで縛り、ナオへと向き直る。
「ここの封印は我の魂に紐付けされていたのでな。その部分を元の肉体と共に切り離したのが、お前と戦った我ということだ」
「……、彼がした事を……」
「うむ、覚えておるぞ」
炎に包まれて死んでいった、嵐の誓いの仲間達の顔が、ナオの脳裏を過ぎる。
「あなたはっ!」
少年へ掴みかかろうとするも、拘束を振りほどく事はできず。
蔓の中でもがき続けるナオの姿を見た少年は、不思議そうな顔をして、その光景を眺めていた。
「まるで猿だな。なまじ見目が整っているだけに、余計に醜態の酷さが際立つ」
少年がまたパチンと指を鳴らした。
そして、石畳の上に魔力の洸が弾ける。
「!? みんな!」
気絶してはいるが、五体満足の状態で、嵐の誓いのメンバーの姿が現れた。
「言ったであろう、退場させてやる、と。邪魔であったから、この部屋の横にある牢獄に転移魔法で放り込んだだけだ。ま、多少の演出は付けたがな」
クックックと笑う少年。
「君、性格悪いよ」
「肯定だ。外にいたときも、周囲がよくそう囀っておった」
そう言った少年は虚空から短杖を取り出し、その先端をナオに向けた。
「さて、いつまでもお前を吊るしておく訳にはいかんな」
赤い炎が灯る杖の先を見ながら、ナオはゲンナリした様子で口を開く。
「『助けて! 殺さないで!』って言った方がいい?」
「解かっていながらやられるのは、白けるだけだ」
炎が弾け、赤い魔力洸がナオの身体を包む。
身体中が訴えていた傷の痛みと倦怠感が、あっと言う間に消え去っていった。
「……。ありがとう」
「礼はいい。必要な事だからな」
腑に落ちない顔をするナオ。
「何を狙っているの?」
「簡単な事だ。我をお前の仲間に加えて欲しい」
……。
「え?」