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第13話 遺跡の奥に眠りしは

 

「ハア、ハア、」


 バーナットが倒れたと同時に、フロアを覆ていた劫火と死の眠りの拮抗は崩れた。

 

 熱の消えた床にナオは着地する。

 

 水晶の鎌と闇の羽衣が消え、ナオはその場に崩れ落ちた。

 

「ガハッ。ハアハア」


 ナオの口から血が零れる。

 左手は動かず、右手だけで床を突き、震えながら立ち上がる。

 

「みんな……」


 顔を知っている誰かが死ぬのを経験するのは初めてじゃない。

 しかし人の死とは、慣れるものでは、そうなるべきものではない。

 

「……せめて依頼だけは」


 A級私部隊『嵐の誓い』は、依頼の失敗によって死んだのではない。

 依頼を成し遂げ、その戦いの為に死んだとするために。

 

 皆の死の名誉を守り、弔う為に、ナオは身体を引きずるようにして進む。

 

「……」


 ナオの視界の端に、黒焦げたローブの姿が映った。

 それは、死闘を繰り広げた【白炎獣のバーナット】の遺骸。

 

 仲間達を殺した敵であった。

 しかし、ナオの心にあった憎しみは、不思議と大きなものではなかった。

 

 追放され、封印され、孤独の果てに死んだ魔法使い。

 ナオと戦ったときのバーナットの声は、思い返せば、はしゃぎ回る子供ように嬉しそうだった。

 

「……終わったら、また来ます」


 せめて自分だけは、バーナットを弔うべきだとナオは思った。

 

「ここかな」

 

 ナオはフロアの一角へと辿り着いた。

 その壁の部分に、不自然な魔力の流れを見つけたのだ。

 

「眠りの力よ 偽る力を鎮めよ」


 偽装の為に施された魔法の機能が止まり、ナオの目の前の壁がボロボロと崩れ落ちた。

 

「風の流れがある?」


 崩れ落ちた壁の先に現れた通路から、新鮮な空気を含んだ風が流れて来た。

 

 通路を進んだ先に現れたのは、魔力の灯に照らされた、大きな研究室だった。

 

「ここが本当の、【白炎獣のバーナット】の工房」

 

 これを見れば、先程のフロアに在った本や実験器具等が、ただのイミテーションだったと分かる。

 

 見上げる程の書架に納められた本は、その全てが魔力を持った魔導書だった。

 

 天井に張り巡らされた幾つもの管の中を、魔力を多く含んだ液体が流れており、それは部屋の中央に設えられた巨大なガラスのポッドへと繋がっている。

 

 

(これは一体……)


 外から人が来ることが稀な、辺境の山奥の村で育ったナオだが、勇者ラルフとの旅で多くのものに触れて来た。

 人跡未踏の秘境から、魔法の最先端に在ると言われる都市も訪れた事があった。

 

 一般人では踏み込めない場所にも、勇者の仲間という事で立ち入れた場所は多く在った。

 

 だから理解できた。

 

(この場所は、異常)


 百年前に封じられたはずの場所なのに、今の時代よりも進んだ技術がこの中には在る。

 

 ゴポッ。

 

(あれは)


 ガラスポッドの中から聞こえた音。

 その先を目で追い、ナオは気付いた。

 

「子供?」


 ナオよりも幼い一人の裸の子供が、ポッドの中に満たされた液体の中に浮かぶようにして、静かに眠っていた。

 

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