第1話 プロローグ
新しく投稿させていただきます。
連続更新を朝の四時、八月十三日までさせていただきます。
よろしくお願い致します。
無数の笛の音が戦場に満ち、その調べを流している。
夜の闇に閉ざされた遺跡の最奥のフロアで、少女は死した魔法使いと向き合っていた。
ローブを纏う人骨たる姿で、魔法使いが笑う。
エプロンの上に軽装鎧を纏った、黒髪黒目の少女が、その目の前に右腕を突き出した。
「水晶の戦鎌よ、私の手に」
少女が虚空より現したのは、水晶で作られた漆黒の戦鎌。
『おお、それは神器か!? まさかこの時代に使い手が現れ、それが我が敵となろうとは! 何たる僥倖!』
魔法使いが哄笑を上げ、少女が戦鎌を構える。
二人の莫大な魔力がぶつかり合い、その余波を受けた遺跡が鳴動する。
そして……。
* * *
「ナオとはここまでだ」
「……え?」
村人の少女であるナオが、勇者ラルフの仲間になってから二年が経っていた。
一人で旅をしていたラフル、その最初の仲間になり、幾度もの冒険を繰り返してきた。
仲間達も増えた。
槍使いの女騎士。
聖印協会の女司祭。
そして、王女である女魔法使い。
誰もが美しく、華があった。
「ナオ、君ではもうこの先の戦いについて来れないんだ。解かってくれ」
女騎士が戒めるように言った。
「あなたの献身は偉大でした。これからは、勇者様は私達でお助けします」
女司祭が諭すように言った。
「……冒険者ギルトの口座には、これまでの働きに対しての褒賞金を振り込んどいたから。ご苦労だったわね」
女魔法使いが吐き捨てるように言った。
「ラルフ……」
ナオはラルフの方を向いた。
しかし、彼は彼女の視線を振り払うようにして身を翻し、その背を向けて歩き出した。
「行くぞ」
「何で……」
歩み去る勇者に、その仲間達が続いた。
立ち尽くすナオを、誰も振り返ることはなかった。