いきなり詰み?
しばらく休憩した俺たちは、再び歩き出し、ほどなくして街へ着いた。
しかし、ここで問題が発生したのだ。何と門番が立っている。要するに、あそこを通るには通行証又は、身分証を見せないといけないらしい。さっきフーリが言ってた。
「どうする? 俺の学生証は、たぶん、トラックにはねられたときにどっかに飛んでいったぞ。だから今持ってないんだが…………」
「学生証なんて何の効力も持たないわよ。ここはタツトがいた世界じゃないの。普通に考えてわかるでしょ」
言われてみればその通りだ。学生証でこの街に入れるはずないよな。くそっ、冷静に考えてればわかったことなんだ。断じて、俺が馬鹿だからわからなかったとかじゃない。
「余計無理じゃねぇか。フーリはもってるんだよな? だって女神だもんな?」
「も、持ってないわよ!! 女神なんだから身分証なんていらないでしょ。それに私はこの世界に来るの初めてなの。てか、地上の世界に降りてくるのすら初めてなんだから」
「はぁ、それじゃ俺と一緒だな。いきなり俺の輝かしい人生が詰みそうだ。何とかしてくれよぉ」
まさかの街に入れないので冒険者になれませんとか想像もしてなかったわ。シュミレーション不可能だわこれは。
草むらの陰からどっかに言ってくれないかという祈りの眼差しで門番を見ているが、当然のごとくじっと立っている。もう強行突破しか残されていないのか?
「ちょっとタツト、私に作戦があるわ」
「ほんとか? 馬鹿みたいな作戦じゃないだろうな?」
「違うわよ。いい、よく聞きなさいよ。盗賊に襲われたことにするの。金目の物すべて持っていかれたことにすれば身分証も通行証も持ってないことは理解してもらえるはずよ。ほら、行ってきなさい」
ふむふむ、作戦自体はなんだか行けそうな気がする。が、なぜ俺?
「自分で考えた作戦なんだから、フーリが行けよ。万が一嘘だってばれたらどうするつもりなんだ。俺は嫌だぞ」
「私みたいな美少女が盗賊から襲われて無事なわけがないでしょ。連れ去られてひどい目に合うか、売られるかどちらかしかないわ。それが全くの無傷で生還してるなんて不自然じゃない」
自分で美少女と言っているところに腹が立つが、これも言ってることの意味はなんとなく分かった。それなら俺にも考えがある。
「要するに無事じゃなかったらいいんだな?」
「待ちなさいよ、私に何かする気? 返り討ちにするわよ」
「待てよ、違うから。フーリが盗賊に襲われた感じになればいいんだ。ちょっと服を破いたりしてさ。それなら不自然さは消えるだろ?」
「え? 普通に嫌なんだけど。なんで私の服を破かないといけないの。それこそタツトがやりなさいよ」
「俺も嫌だって言ってるだろ。自分だけ何もしないとかなしだろ」
フーリと一緒に行動することを容認した過去の自分をぶん殴ってやりたい気分になった。
いくら何でもわがまますぎる。危機感が足りてない。
「もういい。俺が言ってくればいいんだろ。見てろよ。俺の神がかった演技を」
「失敗するんじゃないわよ。この街に入れるか入れないかはタツトしだいなんだから」
どういうプランで行こうかと脳内シュミレーションをしようとしてやめた。うん、考えるだけ無駄だ。きっと何も思いつかない。出たとこ勝負しかないんだ。
まずは、全力で門番のところまで走ることにした。命からがら逃げてきたという演出は必要だよな?
草むらの陰から勢いよく、クラウチングスタートを決める。運動神経だけには自信がある。クラスの五十メートル走では負け知らずだ。
「助けてくださーーい!!」
叫びながら、門番のほうへと走る。
俺に気が付いた門番の二人が、怪訝そうに俺を見た。
「止まれ!! どうしたんだ一体」
「森でいきなり盗賊に襲われて…………何とか逃げてきたんです」
俺の発言に二人は顔を見合わせる。
なにかまずいことでも言ったのだろうか? 急激に不安になる。
「それは本当か? ここらを荒らしていた盗賊はつい昨日捕まえられたばかりだが…………」
へ? 何そのくそみたいなタイミングは。それはおかしいと思うだろ。いや、まだだ。ここであきらめたら、最悪俺は盗賊の残党と疑われる可能性も…………盗賊の残党? あ、そうか。
「残党がいたみたいで、そいつらに襲われたんです」
「おい、ただ事じゃないぞ。まさか残党がいたのか。よく無事に帰ってこれたな君。あいつらは女子供でも容赦ないと有名なんだぞ」
おい、もうちょっと慎みを覚えろよ。また不自然じゃねぇか。
「ほんとに危なかったです。あいつらが、虫に気を取られた一瞬のスキを突かなかったら今頃どうなっていたころやら…………」
「虫? まあ、無事でよかった。それで盗賊はどこら辺にいたんだ?」
「えーと、俺もパニックになってて、記憶が曖昧で」
「それもそうか。何か思い出したら詰め所まで来てくれ。ひとまず、盗賊の件は上に報告しておく」
お? これはもしかして行けたか? 我ながら天才だったな。実は俺は馬鹿じゃなかったのかも。
「ありがとうございます。盗賊のことよろしくお願いします」
「また困ったころがあったら何でも言って来いよ」
ふう、これで街に入ることができたな。あれ? 俺は入れたけどフーリはどうやってはいるんだ?
ふと振り返って、さっきまでいた草むらを見つめる。
そこには相も変わらずフーリの姿があった。表情までは見えないが、俺は勝ち誇った表情をし、何事もなかったように目的地を目指した。