どうやら神々しさで察していなければいけなかったらしい
「ほんとに、辰人のせいで話が進まないわ。いい加減本題に入っていい?」
俺のせいにしてくるのが、微妙に腹立たしいがここで反論するとまた長引くのでやめておく。
実際、この状況についても考えてみればおかしいことだらけだ。むしろなんで自分がこんなに冷静なのかわけがわからん。
「別にいいけど…………なんか話をそらして悪かったな」
「本題に入るとするわ。まず、私は見ての通り女神よ」
うん、わかってるぞ。ここでツッコんだらまたさっきみたいになるって。一旦、置いておこう。
「ああそうか、なんかそうかと思ってたんだよな。まさか、本当に女神だったとはびっくりだ」
リアクションをしたほうがいいかと思ったのだが、不自然なほど棒読みになってしまった。思ってもないことを言うのって難しいな。
「急にロボットみたいなしゃべり方ね。私の神々しさの前では緊張してしまうのも無理ないわ。今まで普通にしゃべれてたほうが異常なのよ」
いや、ほんとに馬鹿でよかった。
まさか今のが自分の神々しさが生み出したものだよ判断するとは…………。
「辰人は、自分がトラックにひかれたことは覚えてる?」
「ああ、確かに俺はトラックにひかれたはずだ。全く気が付かなかったしな」
「それなら話は早いわ。辰人、あなたは死んだの。だから、ここに来たってわけよ」
ここは信じるしかないよな。自分自身が覚えてることだ。フーリが助けてくれたわけじゃないって否定されたし。
「死んだ奴はみんなここに来るのか? いちいち面倒なことしてるな」
「もちろん、全員なわけないわ。ここに来ることができるのは特別に選ばれた人のみよ。だから、辰人は選ばれたわけ。誇ってもいいわ」
何を誇れと? そんな身に覚えのないことで褒められたところで喜べるほど能天気なつもりはない。送ってたのを忘れてた懸賞が当たってたとは嬉しいけど、これは違うだろ。
「やったーー、マジでうれしい」
「嬉しいわよね、わかるわその気持ち。私も女神という選ばれた特別な存在だもの」
大分意味わからんな。フーリは何に共感してるんだ?
「それで、俺は何に選ばれたんだ? もしかして俺も神になれるのか?」
「なわけないでしょ。辰人みたいな阿保が神になんてなったときには、世界が秒で崩壊するわ。辰人は、異世界で第二の人生を送る権利を手に入れたの。宝くじを当てるくらいの確率よ」
フーリに女神が務まるなら俺にでも行けそうなもんだが、まさか世界が崩壊とまで言われるとは。心外だ。
それはいいとして、第二の人生ってなんだ?
「どういうことだよ。異世界って」
「言葉通りの意味よ。元居た世界じゃない別の世界。そこで新たな人生を歩んでもらうことになるわ」
「なんで異世界なんだよ。俺は今の世界がいい。知らない世界なんて行きたくない」
俺の反論に、フーリは呆れた顔で指を振った。
「まさかそんな勝手が通ると思ってるの? あきらめなさい、普通なら前世での記憶は残らないところを残してあげるだけ寛大な心遣いでしょ? それに一つだけスキルももらえるのよ」
「え? 記憶が残るってどういうことだ?」
「まあ、辰人のまま転生できるってことよ。本当なら、前世は辰人でも次は違うでしょ? 記憶がないから別人になるわよね」
自分は理解してるからってどや顔で説明してくるのがイラつくが、なんとなくわかった気がする。俺は来世でも俺として生きていけるってことだな。
「辰人が転生することになる世界には魔法が存在するわ。どう? 興味が湧いてこない?」
「魔法ってマジか、俺でも使えるのか?」
「そうね、使うことはできるはずよ。あっちの世界では誰もが普通に魔法が使えるから。それにスキルも魔法関係でもオッケーよ」
魔法が使えるようになるのか俺。こればっかりはテンションが上がっちまうな。
俺にもそういうことにあこがれた時期があったもんだ。現実には存在しないと気が付くのに二年はかかったな。
「魔法を使うには詠唱って言うのが必要で、それさえ覚えていれば後はイメージするだけよ。まあ、自分の身の丈に合わない魔法は使えないけど」
「それじゃあ、俺のスキルは魔法を詠唱なしで使えるようになるスキルにしてくれ。せっかく魔法が使えるのに詠唱するなんて面倒だ。俺なら、それが面倒で魔法を使わなくなる可能性すらある」
即答した。俺に詠唱なんてじれったいものができるはずがない。ゲームのカセットをわざわざ差し替えてまでやる気が起きないのと一緒だ。この手間さえなければ確実にやっていたゲームが何本も存在する。
「そんなにあっさり決めるのね。わかったわ、辰人のスキルはそれで決まりね。それじゃあ、早速転生を始めるわ。そこの魔法陣に乗って頂戴」
フーリが指さした方向にいつの間にやら魔法陣が展開されていた。
これに乗れとかいきなり言われても怖いんだが、暴発したりしないのか?
「人に乗ってもらう前に自分も乗るべきだろ。安全性をちゃんと証明しろよ」
「それもそうね、いいわよ。ほら、この通り」
フーリは何の躊躇もなく魔法陣へと飛び乗り、俺のほうへ手を振っている。
この様子なら大丈夫そうだな。
俺もゆっくりと魔法陣の上へ乗った。
「それじゃあ、行くわよ。来世は死なないように生きるのよ。あ、忘れてたわ。赤ちゃんからやり直したりはないから、そのままの状態で転生されるからね」
俺の横で説明するフーリとは別に魔法陣が輝きを強めた。
次の瞬間、謎の浮遊感とともに意識が遠のいた。