眠気を我慢する意味はあるのか?
「なんで俺はこんなに金に悩まなくちゃいけないんだ? なあ、教えてくれよ、ボンボン」
「自分が無駄遣いばかりしてるからだろう? 辰人はバイトだってしてるじゃないか。普通に生活していれば、それほどまえ深刻な金欠にはならないだろうに…………少しは我慢してお金を貯めようとか思わないのかい?」
偉そうに説教してくるこいつは友人のボンボン。もちろん本名ではない、いわゆるあだ名だ。ただ親が金持ちだというだけでこのあだ名なのだから、少し同情してしまうが、当の本人は全く気にした様子もないのでクラスのやつらはみんなそう呼ぶ。
「いやな、俺だって金をためようとしてるんだよ。でも俺が決意した日には確実に欲しいものを見つけてしまうんだ。これはもはや俺じゃなくて社会のほうが悪いといっても過言じゃないだろ?」
そうだ、俺は悪くないんだ。バイト代が入り、今月こそは貯金するぞと意気込んだとたん、かっこいいスニーカーや、腕時計、はたまた面白そうなゲームまで…………ふっ、誘惑には勝てないもんだな。
「はいはい、そんなことを言ってるようだと一生お金なんてたまらないだろうね。せいぜい頑張って給料のいい会社に就職することだ」
「確かにそれは名案だな。使ってもなくならないほどの金を稼げばすべて解決だ…………でも俺、自分で言うのもなんだが頭悪いぞ? 大丈夫なのか?」
「そこは辰人の頑張り次第でどうとでもなる…………と言いたいところだけど、難しいかもね。プロ野球選手にでもなれば?」
頑張ってもどうにもならないほど俺の頭は悪いのかよ。いやいや、まさかな。まだ本気で勉強したことがないだけに違いない。俺だって、本気を出せばテストの一つや二つ楽勝で満点だ。
「さらっとプロ野球選手なんて進めやがって、俺は今までスポーツした経験すらないんだぞ。どちらかと言えばそっちの方が可能性薄いだろ」
「どうだろう? 僕は案外大差ないんじゃないかと思うんだけどな。辰人、勉強ができないとか以前に馬鹿だし」
「お、お前言ったな!! 見てろよ、次のテストで学年一位になってやるからな」
なんだよ、馬鹿って。確かに今は勉強はできないかもしれないけど、それ以前の問題とは失礼な。ちょっと頭がいいからって調子に乗るんじゃないぞ。
「その発言がすでに頭が悪いと思うんだけど、僕の勘違いかな?」
「実際に達成するんだから問題ないだろ? 俺をただのほら吹きだと思うなよ。俺の頭の良さに気が付いてからじゃ遅いんだからな。後で勉強教えてって泣きついてくるなよ?」
「そっくりそのままお返しするよ。でもちょっと楽しみにしてるから、えーと、確か一発目は物理だったかな。それじゃ、お互い頑張ろうね」
そういうと、ボンボンは自分の席へと戻っていった。
何を隠そう次のテストと言うのは今日この日なのだ。
はっはっは、見てろよ。いつもは考える前から適当にフレミングの法則って書いてるところをちゃんと考えてやるからな。
キーンコーンカーンコーン。
終わった。マジで終わった。なんだよ、物理ってこんなに難しかったのか? 一切わからなかったんだが…………どうしよう、さっきボンボンにタンカ切ったのが恥ずかしくなってきた。
「どうだったかな? 満点は取れそうかい?」
馬鹿にしたような笑みを浮かべながら俺のほうへと歩いてきた。
くそっ、むかつくが何も言い返せない。
「どうしたんだ? 黙ってちゃわからないなぁ?」
「うるせぇーーーー!!!!! 勉強なんてできたってプロ野球選手にはなれねぇだろうがーーーーー!!!!」
ぶちぎれた俺は叫び、カバンをもって教室から飛び出した。
「やっちまった。テストまだ三科目も残ってたのにな。親になんて言おう…………」
受けていたところで大した点数は取れていなかったのだろうが、それでもテストをさぼるよりは格段にマシだ。はあ、なんて言い訳しようか…………。
テンションも駄々下がりで俯きながら家への道を歩く。せめて昨日くらいは勉強しておくんだったな。どうしても眠気には勝てないんだよ。眠たいのに我慢するのって嫌だろ? まず、そこまでして勉強をする価値はあるのかと言う問題についても考えなきゃいけなくなるしな。無駄なことは考えずに寝るのが一番だって思うのは当然だろ?
ブーーーッ!!! キィーーーーー!!!!
音に反応し、右を向くと、俺に向かって突っ込んでくるトラックが視界に入った。
「え?…………」
ドンッ!!!
突然のことに何も反応できずそのままトラックと衝突した。
「起きてください…………これはあまりにも普通過ぎるわ。お起きになられなさい…………これもだめね。どうやって起こすのが正解なのかしら? 初めてだとここで詰まるものなのね。先輩に聞いておくべきだったわ。定番だと起きるのじゃーーとかも、でもこれは私には合わないわよね」
うん、一瞬前に目が覚めたせいでこの女の子の謎の独り言がすべて聞こえちゃったんだが…………俺でもわかるぞ、この子は確実に馬鹿だ。それになんか起きずらい。
「よし、決めたわ。stand upで行きましょう」
「なんで急に英語!?」
あ、やば、あまりの衝撃についツッコんじまった。
「ひゃうっ」
目を開けると、俺の声でびっくりしている銀髪の女の子が立っていた。