第一章 悪夢《ナイトメア》の序幕-9-
第一章、最終話でーす
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長話を終えると、いつの間にか午後四時になっていた。
窓から外を覗くと、小学生の子供たちが空き地で『ドッジボール』をして遊んでいるのが見える。
そのような遊び場が減少している今は、さほど田舎でもないここでは結構珍しい光景であった。
「さてと」
厳が言った。
「そろそろ夕食の準備をしなくてはなりませんね。買い物に行かなければ」
「そうだねぇ。冷蔵庫の中には何もないし。」
青嵐が相槌を打つ。
言われてみて秀一はさっき部屋の中を見て回ったとき、冷蔵庫の中に、卵一個すら入っていないのを思い出した。
どうしたらそんなに綺麗に使い切ってしまうのかは理解できない。だが、食糧が必要なのは明らかな事実であった。
「それじゃ、私と厳は買い物に出掛けてくるよ。霞は留守番をしていてくれたまえ」
「今夜は私の十八番である中華料理を作りましょう。秀一君はお父さんに連絡を…。もう一日、泊まっていって欲しいのです。『霧雨』の話などをしなければなりませんしね。…明日は土曜日なので、学校は休みでしょう?」 その上、冬季のため、部活動もなかった。
「一時間強で帰ってくるよ。その辺のテレビを見ていてもかまわない」
「行ってきます」
青嵐と厳が外出すると、秀一は父親に連絡するため携帯を開く。すると、父からのメールが入っていた。
『2、3日出張に出る。
塾の先生のところに泊 まったのか。感心だな。
戸締まりには気を付け てくれ』
メールにはそう記されていた。
(そうか…出張か。なら、いいか)
秀一は『了解』とだけ入力すると、父親に返信して携帯をパタリと閉じた。
一方、青嵐と厳は滞在先から最寄りのスーパーマーケットに足を運んでいた。
「よいのですか」
「何がだい?」
「とぼけないで下さい。秀一君を『霧雨』に入れたことです。……よかったのですか」
「いいも悪いも、ないじゃないか」
青嵐は少年がするように、小石を蹴った。
「今朝、目玉焼きの話をしたよね」
彼は、秀一が目覚め際に聞いた、あの意味不明な発言を言っているのである。「私は」
「……」
「目玉焼きは塩がいいと思うんだ」
「……」
「胡椒を若干効かせて食べるのが。……それと同じように、物事がきれいに善・悪に分けられるとは思わないんだよ」
彼らしい例えであった。
青嵐は遠い目をする。彼が善・悪を決めつけたために失った物は人一倍多かった。
「霞が必要だと思ったから、仲間に誘った。いいか悪いかなんて、物事を一面からしか見ていない証拠だよ。そんなのは、私はいやだ」
でも、と青嵐は続ける。
「でも、霞は悪い子じゃない。私たちに必要なヒトだ」
空はすでに薄墨色に染まっていた。
「そうですね。それじゃ、秀一君にそれを言ってあげたらどうです?」
厳は悪戯っぽく言う。青嵐は珍しく、赤面した。
「無理だろ、そんな事!!君は私にどれだけ恥ずかしい事をさせようとしているんだ……!!…あ…あと、私がこんなことを言っていたと言うのもナシだからね!!」
「はいはい、分かってますよ。それじゃ、さっさと用事を済ませて帰りましょうか」
目的地は、目の前に見えていた。
第二章はもうちょっと乗りが良くなるはず……(笑)。