第一章 悪夢《ナイトメア》の序幕-6-
更新遅れました…すいませんです(^-^;
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「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」…もう一度場面が変わり、見知らぬ部屋の天井が現れた。─現実である。
丁度いいといえなくもない場面で、秀一は目を覚ましたのだった。
「…?」
昨夜、忘れ物を取りに戻ったところまでははっきりと覚えている。その後、気味の悪い怪物に襲われ、怪しい二人組に助けられたような気が…。
考えているうちに、隣の部屋からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「だから私はいやだって言ったんだ!!」
「何がですか!!」
「目玉焼きにソースか醤油かっていう質問が!!」
例の二人組だ。
(今、なんか変なことを言ってたような……気のせいか?)
何を言っているのかよく聞こえないので、秀一はとりあえず隣室のドアを開ける。
ガチャ、というありきたりな音を、がっしゃーんばらばら、という個性的な音がかき消した。
─ティーカップが芸術的な弧を描き、その辺に衝突してきらびやかな破片をまき散らした。
「……」
「……」
「……。」
三人は一斉に沈黙する。しばし、気まずい雰囲気が流れた。
「秀一君、でしたっけ。起きたばかりで騒がしいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
沈黙を破ったのは長身の男である。
「どうして僕の名を…?」秀一の疑問に答えたのは不可解な言動(?)を連発する男の方であった。
「君の携帯でお父さんに連絡させてもらったんだよ」携帯電話のプロフィールデータを見たというのである。
「無断で泊まり込み、というのはいけないでしょう?」
二人は父にメールで塾講師の家に泊まると連絡してくれたらしい。ありがたいことに、秀一の学習塾には今時ながら女性講師がいなかった。
しかし問題は、もう翌日になってしまっているということだ。
「…ありがとうございます。でも、もう朝なんですか?」
そうだとしたら、ぐずぐずしてはいられない。
今日はレポートを提出しなければならないのである。急いで塾長の家に行き、教室を開けてもらい、サブバッグを手にしなければ、秀一の未来はなかった。
「いや、もう昼だよ?」
「ええ、十二時半です。おなかが空きましたか?何か持ってきますが。」
秀一はそれを聞いて絶望した。レポートの提出期限は『午前中まで』だったのだ。
(…終わった…)
長身の男は秀一が肩を落としたのを見て、付け加える。
「大丈夫、学校には連絡しておきました。あなたの携帯電話に入っていた『響鈴高校』にかけたんですけど、いいですよね」
それは大して問題ではない、と言いたかったが、絶望した秀一に説明する元気はなかった。すると、もう一人の男がくすりと笑う。彼の美貌にふさわしい動作であった。
「心配してることなら、さっき君の携帯に連絡がきたよ。塾から。忘れ物があったけど、誰のだか分からないから中を見たって。そしたら『例のレポート』とやらが入っていたから学校に届けたらしい。…もう大丈夫だろ?」
「はい…ありがとうございます」
秀一は安堵した。これで何とかなる。塾長には後で礼を言っておかねばなるまい。
事が落ち着くと、今度は先ほどの疑問がよみがえってきた。
(そういえば…ここはどこなんだ?)
そして、二人は誰であるのか。しかし、秀一が考え始めると二人はうるさくなるようで、思考は中断されてしまった。
また喧噪が始まった。
「君は人の気持ちを考えなきゃだめじゃないかぁ」
「うるさい人ですねぇ。私は落ち込んだ秀一君を安心させようとして言ったんですから、ちゃんと考えていますよ。あなたに文句を言われる筋合いはありません」
「でも彼の心配事は君が言った事じゃなかったんだよ!?私はそれを考えろって言ってるのさ」
「普段人のことを考えないで訳が分からない事ばっかり言っているあなたよりはマシというものですよ」
「くっ…どこでそんな言いかたを覚えてくるんだい…私は部下をそんな風に育成した記憶はないよ」
永遠に続くのではないかと思われた舌戦で、若干長身の男が有利になった。
「そうですか?私はしっかり覚えてますよ。あなたと一緒にしないでください」「…。」
「それはそうと、あなたはこれを片付けてください」長身の男は粉々に砕けたティーカップを指して言う。
「えー」
「あなたが割ったのです。論争するときに振りを付けるのは勝手ですが、気を付けろとあれほど言ったでしょう」
…勝負がついた。ティーカップを割った男は仕方なく箒を持ってくる。長身の男はどこかへ行ってしまった。そこで秀一は、一生懸命破片を始末する彼に思い切って尋ねてみる事にした。