第一章 悪夢《ナイトメア》の序幕-3-
-3-
どちゃり。
我に返ると、秀一は、背後で巨体が崩れ落ちる不快な音を耳にした。
(…?)
確か、自分は気色悪い触手に殺されるところではなかったか。なぜ自分はこの世に踏みとどまることが出来たのだろう…?秀一はおそるおそる後ろを振り返った。
すると、地面にべたりと広がる巨体の他に、二人分の人影があった。人影の一方はこちらに向かって手を振っている。
「おーい、そこの君、無事?」
「無事なわけないでしょうが!!怪物に襲われて無事な人なんか居ません。つーか居たら困るでしょう。」 その二人はなにやら漫才じみた会話を交わしながらこちらへ向かってきた。彼らが怪物を見ても平気なのを見ると、どうやらこの二人が怪物を倒したらしかった。かなり怪しい二人組ではあったが、少なくとも先ほどのような化け物ではなさそうである。 二人のシルエットが鮮明になってくるにつれ、秀一には、二人が二十代前半くらいの青年であることが分かった。
「大丈夫してる?ケガしてない?」
先ほど手を振ってきた方が話しかけてきた。この男は身長が180?前後で、秀一より数センチ高いくらいであった。
「触手、刺さってませんよね」
もう一人の男の身長はさらに10?ほども高く、190?近くあるようだ。
二人とも東洋人らしく、黒髪で、さほど彫りの深くない顔立ちをしていた。どちらも整った顔立ちをしていて、昼間街中を歩けば人目を引くのではないかと思われた。
二人は秀一の顔をのぞき込む。返事を催促しているのかもしれなかった。
「だいじょう……」
大丈夫、と言おうとして秀一は失敗した。精神力の限界が来ていたのか、気を失ってしまったのであった。「あれれ」
「仕方がない。運んでいきましょう。放っておくわけにも行きませんし」
長身の男は常識的なことを口にすると、高校二年生の秀一の身体を軽々と持ち上げるという非常識なことをやってのけた。
「連れて行くのかい?」
「ええ」
二人は歩き始めた。
かくして秀一は半ば誘拐されるように、二人の家を訪問する事になったのである。
街は未だ眠りの最中にあった。