第三章 三度あることは四度ある-10-
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「あれは三日前…といっても午前一時頃だったから四日前って言ってもおかしくないんだけど」
「………」
秀一が玄狗に襲われたのは三日前の深夜なので、それはさらにその一日弱前ということになる。
「家のすぐ外で知らない人の話し声を聞いたの」
彼女は廊下の窓を閉め忘れていたことに気付き、窓を閉めようとしたそうだ。
しかし、何かのはずみで窓際に置いてあった観葉植物の鉢を窓の外に落としてしまったらしい。
そのままにしておけないので、寒いのを我慢して鉢を拾いに庭にでたところ、塀越しに話し声を聞いたという。
「二人の男の声だったんだけど…」
日本語で話してはいたが、聞き慣れない単語が頻出するので、半分も理解できなかった。
不信感を抱き、そこで、しばらく立ち聞きをした。「そしたら、一人がもう一人に何かを渡した…。」
庭木の陰からのぞくと、それは紙袋のようなものだった。
「それで…見てたら……」
「……」
「袋が、何か動いてて。気持ち悪い、太い蜘蛛の脚みたいなのが袋の隙間から何本か出てたの……。そしたら、袋を受け取った方が『こんなものに入れてくるな』って渡した方を怒鳴りつけた感じになった」
すると袋を渡した方は『大丈夫ですよ』と言って分厚い本を見せたらしい。その後、袋を受け取った方は落ち着いて、渡した方に言った。
『案ずるな。これだけ餌をまいておけば、一匹でも網に掛かろう。センカイはもうすぐ我々の物となる』
そして二人はその場から立ち去った…。
明らかな陰謀の雰囲気と、『センカイ』という異様な言葉が耳に残り、気になって周囲に話してみたのだが、何せ非現実的な内容である。
ほとんどの人が取り合おうとしなかった。
「始めに話したのは同じクラスの隣の席の子だった…けど、夢なんじゃないかってありきたりな反応して終わり」
しかし、現に観葉植物を落としたとき、鉢に入った亀裂はしっかりと残っている。
「しかもうちは夢と現実を混同するような人じゃないしね」
「……」
「…そして、」
奈穂は話の内容に戻る。「…そいつら、最後に気になること言ったんだって」
『死体は明日の早朝、処理させる。…お前はもう帰れ』
『では四日後、同時刻に』
彼らはそう言っていたというのである。
「ということは…」
「つまり、今夜また来るかもしれないの。」
奈穂が言った。