第三章 三度あることは四度ある-9-
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「早くぅ」
…いってみると、空いた席は二人用の席であった。人数に対し、席が足りないことを確認すると、秀一は自分が立つことを提案する。
「じゃ、俺は立ってるから」
「そんなわけにいかないでしょ」
沙夜花はどこからか使用されていない椅子を持ってきた。
「どうも」
多少窮屈ではあるが、とりあえず秀一は沙夜花が運んできた椅子に座る。
(立ち話位で終わんないのかな……)
秀一はいささか不安に思いもしたが、二人とも乗り気なので雰囲気を崩すような発言ははばかられ、観念して椅子の上で話を聞ける体勢を整える。
「さて」
秀一がは腹をくくったところで、沙夜花は本題に入った。
「ナオが、家で不審な人を目撃したらしいの。……だけど誰も話を聞いてくれなくて…。今日会って霞持君なら聞いてくれると思ったんだ」
(俺を何だと思ってるんだ……)
秀一は『霞持君なら』という部分が若干気になったが、話の続きを促す。
「ナオ、話してみなよ」
「……わかった。あんた、話聞いてくれるみたいだから。」
ナオは話し始めた。
「うちは三条奈穂。沙夜花と一緒に桃雲高校に通ってる」
桃雲高校は秀一の通う響鈴高校からさほど離れていないところにある私立の女子校である。普通科の高校だが、特進科から年に二、三人国公立大学へ合格者を輩出する以外は、これといってぱっとした所もない平凡な学校であった。
「俺は霞持秀一。高校は響鈴」
秀一もナオ(、改め奈穂)にあわせて簡単に自己紹介をする。
「……悪かったね…さっか、コート汚して」
「いや、さっき言ったとおり気にしてないから。」
「貸して。うち、クリーニングに出してくる」
奈穂は秀一が椅子の背もたれに掛けておいたコートを素早く丸め込み、スーパーの紙袋入れる。
案外、律儀なところもあるようだ。
「いいって。」
「いいから。ちょっと寒いけどコートはうちが持ってくよ?」
秀一が止めようとすると、奈穂は手を振ってコートの入ったショッピングバッグを、自分の鞄と一緒に足下に置いた。
「あ…霞持君、顔に何か付いてる」
奈穂が袋を片付けている間に、何気なく秀一の顔を見た沙夜花が言った。
「はい?」
「だってほら……」
沙夜花が鏡を渡す。
「……ああ」
赤いソースがこめかみに付着していた。
(…これでケチャップ付けられた時…)
熱いと感じたのだろう。
「ごめん……」
奈穂がウェットティッシュを差し出した。
「…ありがとう」
秀一は受け取り、飛沫をふき取る。
「落ちたっぽいよ」
沙夜花がもう一度鏡を見せる。
「……ああ。どうも……。…それで、話というのは?」一通り汚れが落ちたところで、秀一は奈穂の方へ向き直る。
「そうだ…。聞いて……」
奈穂は話を始めた……。