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第三章 三度あることは四度ある-2-

-2-

 泉界では、とある十数人が一所に集結し、会合を開いていた。

「君のうちの玄狗がまだ帰ってこないんだって?」

「そうなんだよー」

 この集会には泉界各国の首脳が集まていた。

 世界が一つに統治されている仙界と違って、泉界には人界同様に国が存在する。

 首脳の人数が少ないのは泉界自体にさほど多くの人口がないことや、各国の区分が人界より大きいことに由来していた。


 すると、ここに集結した面々はそれなりに多くの人民の代表を務めているわけだが、どの表情にもあまり緊張感が見られなかった。

 それどころか、ほとんどの者が菓子類や茶を持ち込んでいて、端から見ればとうてい首脳会議とは思えない。


 酒を持ち込んでいてもおかしくないような雰囲気なのにだれ一人飲酒している者がいないのは、さすがに首脳としての自覚があるから……ではなく、泉界に酒という物が存在しないためであった。


「これは俺の国でとれたのさ」

 一人の男が隣の者に木の実のようなものを渡す。これは泉界の嗜好品の一種である。

「どうも」

 泉界の人は概して陽気であった。この陽気さは、日光がほとんど当たらず、年中薄暗い泉界で生きるために、長い年月をかけて培われたものだった。


 しかし、それでも話している内容は泉界世界の興亡に直結していることである。

「玄狗が帰ってこないなんてねぇ、珍しいよ」

「確かに……。うちの国で捜査しようかぁ?」

 間延びした声で会議は進んでゆく。

「いや、それなら私の国にお任せくだされ」

老人が発言した。

「そうですね、よろしくおねがいします」

「異議なし」

「賛成」

全員が賛同する。

 一見して、くつろいでいるように見えるが、人界の会議より遥かに速いスピードで決議されていった。


「そういえば仙界の侵攻が進んできているねぇ」

「そうですよ。我が国は作物の半分以上が焼き払われてしまった」

若い女がしみじみと言う。「国庫はあと半年で尽きるし、どうすればいいかねぇ」

彼女は苦笑する。

「どのくらい必要なんですかな?」

 コの字型に設置された議席の、『議長席』と(泉界語で)かかれている場所に座っている人物が尋ねた。

「今から耕作を始めて穀物が出来るのが、少なくともあと八ヶ月後…ということは二億人分が二ヶ月、ですかねぇ」

「協力できる方は?」

全員が手を挙げた。

「十五国で二億人が二ヶ月……一ヶ月三十日として全部で三百六十億食…」


 『食』とは、泉界で使われている単位で、一回の食事で泉界人一人が必要とする穀物が『一食』である。人界のグラム法に直せば、一食約百グラムだ。

「ならして一国二十四億……。国庫が三ヶ月以下の方は?」

 今度は誰も挙手しなかった。

「少なくとも、みんな四ヶ月以上はあるよ」

一人の発言に、議長は頷いた。

「それでは、八ヶ月以上の方」

 すると五分の一程度が手を挙げた。

「ということは、五ヶ月までの方は二十億食、六ヶ月までの方は二十二億、七ヶ月までの方は二十四億、八ヶ月までの方は二十六億、それより多い方は二十八億の負担、が妥当でしょうな」

「よろしいでしょう」

再び満場一致であった。


「一定量運べばいいのでしょう?」

「一度に運ぶ量や時期は任せていただけますかぁ?」「その方がいいと思います」

「そうだね」

各国代表は口々に意見を出した。

「それではそういうことで。予備として、ここ首脳連盟で以前から集めていた食糧も十億食出しましょう」

「ご迷惑をおかけする……」

「いやいや、お互い様だよ」それに…、と女に答えた少年は続ける。

「…それに、人界を制圧すればすぐに楽になるよ」


「その通りですな」

多くの者が、同じ内容を呟いた。


 そして、泉界の方針は、そういうことになった。


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