第三章 三度あることは四度ある-1-
(やっと)第三章いきます!!
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「さあ、今日から就職活動ですね」
「ええ……」
「と、言いたいところですが」
「はい……」
「あれですからねえ…」
『あれ』というのは秀一が就職活動できなくなった原因である。
「はっくしょん……!」
「大丈夫ですか……まったく」
厳が呆れた顔をして布団の塊を一瞥する。
「こんな時に寝込まないでくださいよ!今日は求人情報を収集するだけとはいえ、するのとしないのでは全く違うんですからね」
布団の塊の一角には、憔悴しきった青嵐の顔があった。
苦手な寒さの中で、長時間外に出ていたためであろう。風邪を引いてしまったのであった。
「うーん……引きたくて引いたんじゃないんだからね」
青嵐は苦しげに呟いて布団に潜り込んだ。
「……はっくしょん!!ゴホっ」
しかしすぐに咳やくしゃみのために布団から顔を出してしまう。
このような様子が、すでに何時間も続いていた。
「ねむっ……」
昨夜は止むことを知らない咳に悩まされ、寝付くことができなかったのだ。「…ええ、私たちもです」
咳に悩まされたのは青嵐自身だけではなかった。 厳や秀一もさほど眠れず、厳はこの上なく不機嫌そうな表情を見せている。
「あれほど薬を買ってきますと言ったのに……」
青嵐は薬を飲みたくないと言って拒否し続け、秀一と厳がコンビニエンスストアへ行こうとするのを幾度も引き留めたのである。
薬を服用しても症状が収まらないならいざ知らず、服用しようとしない青嵐に、厳は半ば呆れていた。
「ほんとうに、もう……」
「だって……薬のせいで頭がぼーっとするのがいやなんだもん」
「……それは寝てしまえば全然関係ないのでは…?」「秀一君、青嵐は副作用のことなんて、本当は考えていません。実は苦くて飲みにくい薬が嫌なだけなんですよ」
「うっ……」
図星を突かれた青嵐は鼻声でうめいた。そのあと、何か反論しようとして代わりにくしゃみをする。
「はっくしょん!!」
「鼻ぐらいかみなさい、青嵐」
「寒いから、やだ」
要するに青嵐は布団から出られなくなってしまっているのだ。
そのような青嵐に、厳はため息混じりにティッシュペーパーの箱を放る。
「ありがとう……」
「それにしても、困りましたねぇ…」
厳はもう一度ため息をついた。
「どうしても、薬が飲めないんですか?」
秀一は尋ねた。
「いやっ……粉なら何とかいけるっ!」
「自慢にはなりませんよ……」
「それなら売ってるかもしれません。探して、買ってきましょうか?」
秀一は、先週自分が風邪を引いたとき、父が買ってきた総合感冒薬を思い出した。
その薬は使い切ってしまったが、薬局に行けば見つかる確率は高い。
厳は秀一の提案に賛同する。
「そうですね。お願いします。…ついでにティッシュペーパーも買ってきていただけませんか?この人が使いきってしまいそうなので」
「一晩で三箱使ったからねぇ」
「威張らないでください。………では秀一君」
厳は秀一に財布を渡した。
「これがここでの生活資金です。後で細かい報告書を作成して組織員に提出しますので、領収書は受け取っておいてくださいね」
「はい」
秀一は財布を鞄にしまう。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「頼んだよ………」
秀一は、玄関の扉をあとにした。