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第二章 働かざる者、食うべからず-9-

-9-

「たっだいまー」

 青嵐は家に入るなり、あらかじめタイマーで電源を入れておいた暖房器具にしがみついた。


「さっむう…」

 コートも着たままである。

「青嵐っ。靴を揃えなさい!!手は洗いましたか!?というかコートを着たままヒーターにへばりつくなとこの前言ったばかりではないですか!!」

 間髪を入れずに厳が青嵐を叱りつける。

「寒いんだよー」

青嵐はふてくされた。秀一はその様子に思わず吹き出してしまった。

「ほら、青嵐、秀一君に笑われているではありませんか」

「それは君も…」

「何です?何か言いましたか」

「い…いや、何も」

 外の空気よりも冷たい厳の視線を浴び、青嵐は黙り込む。


「ああ、そうだ霞ぃ」

 そして、青嵐は厳から逃れるように秀一に声をかけた。

「霞って呼ばないでください。もう一回言ったら無視しますからね」

「君にはバイトをしてもらう」

 青嵐は無視すると宣言した秀一を、さらに無視して本題に入った。


「…はい?」

「だから、バイト。」

「脈略がさっぱりつかめませんが……」

 秀一は助けを求めるように厳を見る。

「この人はかねがねさっぱり分からないタイミングで物事を言い出しますが、…じつは私もお願いしようと思っていたんですよ」「……え?」


 すると厳はずい、と秀一に近寄った。

「…?」

「ここだけの話ですけど、…『霧雨』はあの人が何も考えずに創設してしまった組織なんです。…だから、何の後ろ盾もさっぱり持ち合わせていません」


「ぅわっ……!!」

 厳がさらに近寄ってくるので、秀一は後方にのけぞる体勢となった。

「ですので、資金源は全くありません」

厳は秀一を無視して話を続ける。

「いえあの…」

「いくら青嵐がお坊ちゃまだからといって、家からお金を持ち出すわけにはいかないでしょう…?第一、ばれたら困ります」

ばれなければいいのか!?…と秀一は内心で叫んだ。だが、秀一にだんだん近寄ってくる厳が怖いため、口には出さない。


(というか、青嵐さんって本当にお坊ちゃまだったのか…)

 厳が茶化しているだけだと思っていたが、どうやら本当のことであったらしい。


「そこで『霧雨』の人たちは細々と自分の収入から供出し…特に私と青嵐は稼ぎを全額捧げているのですが……」

 厳は意図的に言葉を切った。

「ぜんぜん足りません」

そう言う厳の目は心なしか鋭い光を放っている。…それは獲物を目前にした猫科の猛獣に似ていた。


「…。」

「そこで、秀一君にお願いしたいのですが…。全額とは言いません。バイトをしてください。そして、『霧雨』の援助をしてください。よろしくお願いします」

 お願いというよりは脅迫に近かった。


 実は秀一の高校ではアルバイトは禁止されていたのだが。

 『バイトして稼げ!!』と下手に喝アゲしようとする金髪の若者などより、『お願いします』と穏やかに微笑する青年の方がよほど怖かったので、秀一は力なく頷いた。


「はい……。」

「そーいうこと。明日には求人誌集めてくるからね」 青嵐は屈託のない笑顔で言った。

「『働かざる者、食うべからず』だよ」

「は、はあ」

「ちなみに私は週四日、中華料理店で働いています」「持ち前の腕を生かして料理人をしているんだよ」

 青嵐が自分のことでもないのに自慢げに言った。


「青嵐さんは?」

 秀一は尋ねる。

「青嵐は…」

 すると、厳がしまったという表情をつくり、そこで今度は意図的にではなく言葉を切る。

「……?」

「彼は、ありとあらゆるギャンブルでお金を稼いでいます」

厳は額を押さえた。

「?法に触れるようなことはしていないよ?パチンコとパチスロと、宝くじと競馬……あと、当たりそうな懸賞にどっかの会社のマスコットキャラの命名……それと、株くらいだよ?」

「『くらいだよ?』って青嵐…あなたという人は…」「?」

「……。」

どこが悪いのかさっぱり分からないという様子の青嵐に、厳が呆れ果てる。 秀一には、何とコメントしたらよいのかさっぱり分かりかねた。


「でもさあ……お金ってすぐになくなるよね」

 青嵐が何か思い出したように呟く。

「『働かざる者食うべからず』って……あれは本当にせこいよ。」

「……?」

「どこがです」


 青嵐は二人の方を向いて言った。

「だって、『働く者は食べることができる』とは言ってないんだ。働かないなら食べられないのは必須だけど、働いたって食べられるかどうか分からないということじゃないか……!!」

「確かに…」

 秀一は納得したように頷く。

「世の中はそういうものなんです、青嵐」

 厳が青嵐をなだめるように言った。

「しかし、働く者には少なくとも食べることのできる確率があるということです。さあ、明日から仕事ですよ」

「日曜日なのにですか!?」

「じゃあ秀一君、なぜ日曜日にお店が開いているんですか?」

「うっ……!!」

 秀一は、言い返すことができなかった。


 だが。ともかくも、秀一は一人前の『霧雨』の一員として認められたのであった。


 第二章はこれでラストです。…今回は更新が遅れまくりでご迷惑をおかけしましたっ!!<(_ _)> 第三章もよろしくお願いしま〜す(`_´)ゞ♪

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