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第二章 働かざる者、食うべからず-7-

-7-

 「おかえり」

 触手の林の外では、青嵐が周囲に目を配らせながら二人を待っていた。


「帰りました」

「お待たせしましたね」

 二人が口々に返事をする。しかし、青嵐は依然として玄狗に目を向けたままだ。

 それにつられるように、秀一が恐る恐る玄狗の方を振り返ると、玄狗の全身は次第にぼやけ始めてきた。


「……?」

 気のせいかと思い、秀一は目をこする。だが、玄狗の死骸が『薄れてきている』のは確かであった。


「気のせいじゃないよ」

 玄狗を見ている青嵐は、肩の力を緩めた。

「厳、もう大丈夫だ」

「ええ」

厳が頷く。秀一には何のことか理解できなかった。

「どういうことですか……?」

「君が撃った弾丸の中には、玄狗の体細胞を分解する酵素が入っていたのさ」

困惑した表情の秀一に、青嵐がくすりと笑って答えた。

「分解…?」

「ああ。私たちの銃にはそれぞれ違う薬品が詰め込まれた弾丸が入っていた」

 青嵐の銃には、神経細胞を破壊し、中枢神経の活動を混乱させる薬品が使われていた。

 これは玄狗の、一つの標的を追い続けるという習性による犠牲者を出さないことが目的だ。玄狗が無秩序に暴走し始めたのもこの弾丸のためだ。


 厳が撃ったものには、全身の筋肉を萎縮させる物質が組み込まれていて、撃った数分後には全身の活動を止める。


 そして最後に秀一が撃った弾丸には、体細胞を分解する酵素が入っていたわけだ。

 三人がそれぞれ違う作用の弾丸を用いたのは、誤用を避けるため、ということである。


「最後の弾丸を口に向かって撃ったわけがわかりますか?」

「いいえ…」

「それは酵素を体内の隅々まで届けるためです。」

「……?」

「玄狗は体外に毒を排出する機能を持ちません。ですから、経口摂取してしまった毒素は、消化しようとします」

「あの毒素はそれを利用して開発されたわけだよ。無害な物質に組み替えた酵素に、微毒を仕組む。すると玄狗は毒を消化しようとするから、その微毒と一緒に組み替えられた無害な物質の一部も溶ける…」 そして、無害な物質の構成いが崩れる。それが血液に吸収される頃には、体細胞を尽く破壊するまでの猛毒へと変化しているのだ。

 分子レベル、あるいは原子レベルまで発達した、ナノテクノロジーであった。


「でも、…動きを止めた時点で死んでいたはずじゃないんですか…?」

「いいえ、生きていました」「……」

 ということは、秀一が玄狗にとどめを刺したということになる。いくら気色の悪い生物とはいえ、あまりいい気分ではなかった。


「それどころか…新陳代謝の激しい玄狗ですから、あのまま二、三日放っておいたら、元に戻っていましたよ」

「いいえ、…そういうことではなく…」

 秀一には、その心情がうまく説明できなかった。


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