第二章 働かざる者、食うべからず-3-
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「…その機械は何なんですか?」
今はその機械は完全に沈黙している。
「ああ…これねぇ、『震介』っていうんだけど。受信機のような物なんだよ」
彼の話によると、毎朝各地に散らばっている『霧雨』の組織員たちから報告が届くのだそうだ。
それは振動を核として光、気温を複合した特殊なエネルギー波を介し、この機械に受信される。
電波を使わない分、暗号化したデータが解読されにくいというのだが…。
「最近、妨害が激しいようなのです」
厳が眉をひそめて言った。
「それって『霧雨』が気付かれてるって事ですか?」「本当にそうかどうかは分かりませんよ?でも、可能性は否定できませんね」
「一応暗号化方式を複雑化したんだけど…そしたら『震介』の解析装置がついてこなくてね…。別な解析装置を入れたらうまく同調しなくなっちっゃった」
それからというもの、理由は不明だが妙な音が出始めたらしい。
「というか、そんな変な音が出てて大丈夫なんですか?」
秀一は疑問に思った。あんなに破壊的な(?)音が出ているのに、機械は無事なのであろうか。
「それなら大丈夫ですよ。青嵐は見た目、さわやかな青年ですが、中身はメカニックですから。なんとか直すのではないですか?」
青嵐に代わって厳が答えた。
「……?」
秀一は首を傾げる。
「そうなんですか、青嵐さん」
秀一が青嵐に尋ねると青嵐は必死で否定した。
「いや、違うから!!私は設計書通りに部品を組み立ててるだけさ。それに厳、『メカニック』に 『機械オタク』という意味を持たせるのはやめてくれないか!?機械工に失礼だろう!!」
「そうですね…これは失言でした。それではメカニックの方々に、ごめんなさい」
「私への謝罪はないのか…」
「いちいち文句の多い。私はあなたをさわやかな青年に見えると認めてあげたではありませんか」
「見えるだけ?」
どうやら話が脱線していくようであった。
そのような中、再び舌戦で敗北を喫し、青嵐は頭を抱え込む。─その直後、青嵐のワイシャツの胸ポケットから、手のひら大に折り畳まれた紙が盛大に落下した。
「……!!」
青嵐は急いで拾い集めにかかった。
「大丈夫ですか?」
秀一と厳も青嵐を手伝って拾い始める。その紙は何かの設計図のようであった。
薄いパピルスのような紙は、広げると新聞紙の数倍はありそうだ。
そして、複雑な線や記号が所々透けて見える。
「これが『設計書』なんですか?」
厳が尋ねた。青嵐が頷く。
「昔、友人が設計してくれたんだよ。当時は何に使うかいまいち分からなかったけど、今はすごく役に立つね」
革のケースに入れて保管していたのだが、機械の騒音問題が始まって、設計図をチェックしたときに留め具を付け忘れたらしい。そのため、紙が落下してきたと思われる。
青嵐は紙を拾い終えると、もう一度ワイシャツのポケットに収納した。
「ふう…二人ともありがとう」
「いえいえ」
厳が微笑した。だが、すぐに表情を変える。
「それよりも、先ほどの件ですが」
「あの赤い点があったスライドですか?」
「そうです。……青嵐」
「ああ」
青嵐は赤い地図をコピーした紙を出した。方眼の入った紙に、等高線のような物が記されている。
「これは、送られてきた地点の地表付近の温度図だよ。これも、例のエネルギー波で測定されてる」
青嵐は秀一に方眼紙を手渡した。
小さく円状になっている部分に印が付けられていた。
見てみると、内側の温度が円形の外側と同じくらいで、そのすぐ外の線の温度が『50』と示されている。地図の右上には『℃』と書いてあるので『50℃』という意味であろう。
「確かに変ですが、これがどうかしたんですか?」
「ええ、大変なことになっています」
秀一ののんびりとした質問に、厳が緊張した表情を見せた。