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第二章 働かざる者、食うべからず-1-

やっと、二章です。ですが……。 昨日、更新がままなりませんでした…………。ほんとにごめんなさい!!<(_ _)>!!   …………と、いうわけであと10時間後(?)位にもう1シーン投稿します。お楽しみにっヾ(^▽^)ノ (汗)

-1-

 その朝は土砂降りであった。何も考えないで突っ立っていたら、容易に上と下がどちらだか分からなくなりそうである。


 そのような雨の中にも関わらず、レインコートも傘も無しで歩いている青年がいた。

 青年が纏っている服装は、現代日本のそれではない。人間界に存在しそうにないデザインだったが、強いて表現すると、東洋の民族衣装のように見えた。


 だが、異様な姿の青年が周囲から浮き立って見えることはない。


 …それは、彼だけでなく、彼の周りの空間すべてが異様であったからだ。



「どうしてこんな所をこんな格好で歩いておられるのですか」

 青年は不意に、15、6歳と思われる少女に声をかけられた。

 青年は軽く瞠目して振り返る。少女がここへ来ることを予測していなかったのであろう。


「見つかったか…」

青年は屈託のない笑いで応じた。

「どうしてここが分かった」

「……」

少女が無言で青年が身につけている房飾りを見る。 白い房が微かに赤く光っていた。どうやら発信器のようなものであるらしい。

 青年は流麗な仕草で飾りを外すと、何気ない動作でそれを泥濘の彼方へ投げ捨てた。


「人界の物を仙界ここに持ち込むなと何度言ったら分かるんだ…?」

 ─青年は、そしてこの少女は仙界の住人であった。つまるところ、仙人である。 見かけ上、二人は青年と少女であったが、実際の年齢は知れたものではない。

 少女の方は名前を柳荻りゅうてきといい、十代の見かけを裏切って仙界の政府の敏腕な施政官をつとめていた。

 一方青年は名を魁漂英かいひょうえいという。正確に言えば魁というのは首領、根本というような意味の文字であり、名前ではない。号であった。

 ただし、ただの号ではなく、選挙で選ばれた『皇帝』言うなれば総理大臣、(あるいは大統領)に付けられる号である。

 ─早い話が、この青年は『皇帝』であるのだった。

 しかし、漂英はそのような素振りを見せずに、のんびりと言う。

「なぜ私がここにいるかって?当ててみればいい」

反対に柳荻はいかにも敏腕らしい口調でぴしゃりと言い放った。

「人界で動きがあったのでしょう」

漂英はもう一度瞠目した。「どうしてわかった?読心術でも使ったのか?」

「読心術でそんな細かい部分まで分からないでしょう。─大方の予想はついていたのですよ」

 読心術は相手の表情を観察して、感情を読みとる技術である。柳荻が人界で拾得したその技を、得意としていることを漂英は知っていた。


「あーあ、君には全面的に降伏しなければならないよようだな」

 漂英は足を跳ね上げた。ばしゃりという音を立て、泥水が空中に飛散する。綺麗とも、汚れているとも判じがたい光景だった。


「それよりも、選挙の件はどうなさいますか?」

「そうだな…」

 『皇帝』の選挙は不定期に行われる。基本的に選挙(めんどうなこと)はやらない、というのが仙人のモットーなのだが、民主政治を保持するため、民衆から一人でも選挙をして欲しいという要求があれば、選挙は行われた。

 これは、人界の日本国で言うなら不信任案の決議のようなものだ。

 その後に、立候補や国民の投票による指名などを経て、候補を一つに絞る選挙が行われるのだった。


 ただし、人間と違うところは、寿命も気も長い仙人たちは、よほどのことがない限り意見を出さない。


 そのため、善政が行われている時代には、何十年─時には何百年も選挙が行われないこともあった。

 百年を越えた例は意外と多く、記録に残っているだけでも八例あり、漂英はその中に入っている。

 あと四年で最長の記録を抜くというところであったのだが。

「残念なことでございましたね…」

 今回、一名だけ、意見書を出した者がいたのだ。


「いいや、残念なことではない。…私には三界の分裂の進行をくい止められなかったというだけではない。他に幾度も取り返しのつかない失敗を重ねてきた。交替は自然の摂理の一部。とやかく言うものでもあるまい。…私が云いたいのは…霧雨だ」

「…構いません。あれは大丈夫でしょう」

「なら、いいだろう」


 漂英は目的を果たしたとばかりに、濡れた衣の袖を返した。

「お待ち下さい!」

柳荻も後を追う。


 やがて二人の姿は扉の中へ消えた。


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