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魂だけになった彼女は、鬼に励まされる

 ____一時間後には起こしに伺いますので


 朱紅の言葉に、思わず紗英王は振り向く。


 (いや)、いい。と断ろうとしたが、朱紅の顔を見たら云えなくなり再び前を向き、私部屋に向かう。


 朱紅の顔は有無を云わせない雰囲気。否、起こしたいと顔に書いてあるような笑みで心なしかキラキラして眩しかった。


 そんな顔をされたら断れない。さっきの暗羅程眩しくはないがそれでも断ろうと云うする気を削ぐには十分あって聞かなかったことにするか一瞬悩むも


「嗚呼、頼む」


 そんなことしなくても起きているとは思うが、朱紅が起こしたい。と云うなら寝たふりでも二度寝でもしてやろうと思う。と内心で思いながらも紗英王は朱紅に改めて云い、その場を後にする。


 一方(いっぽう)。紗英王との会話をした暗羅は、紗英王の云う仕えるべき相手を探す旅支度を始めていた。


「似たような種族、俺は鬼。鬼族の誰かに仕えれば良くなる!」


 自分より強い鬼か仕えたいと思う似たような種族の誰かに仕えれば良い。と助言してくれただが、この広い常世で何処をどうやって探せば良いか分からない。


 しかし、宛が全くない訳でもない。有名な鬼族と会って仕えたいか仕えたくないかを確かめれば良い。似たような種族とは行き先や道中で出会えれば良いだけだ。

 

 どうすれば良いか。紗英様から答えを頂いたからか晴れやかな顔で今にも歌いそうな弾んだ声で云う暗羅。


 それが今から何百年も前の紗英様と暗羅の会話、暗羅が千衿を探していた理由で千衿に会うまでは常世で自分が仕えるべき相手を探して旅をしていた。


 だが、幾ら探しても仕えるべき相手が見付からずつい三年前現世で探し始めてやっと見つけたのだ。


 常世で探していた時よりも時間が掛からなかったのは、三つ理由がある。


 一番は移動手段だ。


 常世は付喪神や火車・朧車、幽霊電車を使うか徒歩や翼のあるものは飛んでいき、妖術が込められている通路。(現世で云う水平型エスカレーター)しか移動手段がなく広さは日本より遥かに広い為に時間が掛かる。


 一方現世で探す場合は、狭間を利用する。まず、常世から出るには基本三つの門を通る。


 常世に近い門には黒鬼、【黒門(ごくもん)】。二番目に近い門には青鬼、【青門(じょうもん)】現世に近く鬼族が住む通りにある門には赤鬼、【灯門(とうもん)】を通ると現世と常世の境【鬼灯(ほうずき)小道】に出る。

 

 後は現世に出ることが出来る狭間を通る。狭間は不定期にバラバラに出来る隙間。黒く三日月を地に下ろしたような形や丸等、様々な形、大きさがある何処に現れるか分からない狭間を利用して行く


 現世に行くのには狭間。狭間は不規則に不定期に複数出来るため、その場所を見て探したらまた狭間に入りまた違う狭間から出れば違う場所になる。現世から狭間に入れば鬼灯の小道、知っている通りに出るので行き来、探すのに便利なため時間があまり掛からない。


 二番目は鬼族は日本に居ることが多い。常世だとアジアは全て一つになっているために化蛇(かだ)玃猿(かくえん)、キョンシー等の日本の妖ではない妖が居て、(みな)好きに自由に暮らしているからか自然と探す範囲が広くなる。


 青門と灯門の間にある鬼族が住むという【迂羅(うら)怪道(かいどう)】はあるものの住んでいる鬼族ははっきり云って羅刹の暗羅より遥かに弱い餓鬼(がき)小鬼(こおに)が多く仕えるべき相手ではない。会いに行くとしたら門番の黒鬼や青鬼、赤鬼だ。


 他の強き鬼は迂羅怪道ではなく常世の何処かに居る。その多くは人間に"一旦(いったん)"退治された鬼族達だ。


 鬼族の多くは人間を好んでいる。鬼族は鬼族になる前は人間だったからもあるが、鬼は人間に甘くなる。


 だから、倒されてしまう。だから、気を許す。殺したい(殺す)ほど人間が好きで甘い。


 それと人間には言霊があり守護霊や守護神が(まれ)についている時がある。だから、余計倒されてしまう。


 だが、鬼族に限らず(あやかし)はまた(よみがえ)ったり生まれ変わったり復活することが出来る。


 現世に行かなければ、倒されることはなく死にもしない。あるのは消滅だけだ。


 強き鬼は常世で気ままに生きているので、探すとなると妖気を辿るか聞き込みが必要になる。


 三番目はそう妖気を辿るかまたは人間の魂を見れば良いだけ。


 だから、暗羅は常世で探していたよりも早く仕えるべき相手を見つけることが出来たのだ。


 ただ、そう見つけた時は危うく完全にその魂が消滅しそうになっていたから喜ぶ暇もなかった。


「ほんっとに! びっくりしたぞ! あーちゃんが狭間から出た瞬間、魂のまま車を追い掛けている姿を見た時も! お前が轢かれそうになるのも! 声掛けたんだぞ!」


 ぱたぱたと短い両腕を左右に振りながら、千衿に会うまでの経緯を話していた暗羅は、千衿と出会った時のことを思い出したのかビシッと横に居る千衿を指して云い放つ


「わ、悪かったって! その、目の前の車にしか意識が行かなかったし......まさか探していた人が居たなんて思ってもみかったから」


 暗羅の話で大体常世がどんな所か分かった。暗羅がどんな理由で探していたのかも分かった千衿だが、まさか車を追い掛けていた姿を目撃されて仕舞いには声を掛けられていたなんて、これっぽっちも思ってなかった。


 だからだろうか、気まずいやら恥ずかしいやら悪いことをしたな。と云う気持ちが一気に込み上げて最早笑うしかないのか何とも云えない笑みをして云う。


「......あのさ、あーちゃん?」

「む、何だ?」

「本当に、俺があーちゃんの仕えるべき相手なのか?」


 話を変えたいのもあるが、自分は大それた人間でもなかったし皆より(おと)っていると感じている。実際才能なんてなかったし学力はいつも五教科とも赤点になるかならないかのぎりぎりで運動も足が悪いのもあって良くない。


 文才もなくば力もなく人付き合いも良くはない。そんな自分が誰かを従わせたり強い妖になる。転生出来るとは思えない。強いて言えば素質がない。と千衿は感じているのだ。


 まあ、足が悪い云々は今は霊魂だからか全くと云って良いほど支障はない。


 死んで霊体、魂のままがこんなに楽だとは。幸いにも生きたかったと云う未練はないからもあるのだろうが、肉体があるのとないとでは違う。


 足はもう問題はない。ただ、千衿はあーちゃんに会うまでまともな人生を歩めなかったから。


 学生時代は虐めを受け、社会に出たらセクハラ等を受け男嫌い、男恐怖症、人間不信になりパシられたり体よく扱われ自分は皆より劣っている。


 自分は皆のはけ口で嫌われる運命で。と自己暗示紛いなことをしていた。


 どうせ嫌われるなら最初っから嫌われていると思えば楽で自分なんか居ても居なくても良いと。


 少しでも他の人より上だと思えるものがあればこんなこと考えなくてもこんな思いをしなくても良かった。


 あーちゃんに会うまでずっと孤立していた。否、孤立しなきゃいけなかった自分は皆と異質で異端で何処までも分かり合えない。


 不意にぱしんと乾いた音が耳に届いて、千衿は暗い深淵より深い心層から意識をあーちゃんに戻す。

 

「あーちゃんの目に狂いはないぞ! 千衿も千衿の魂も強い!」


 乾いた音はあーちゃんが両頬を叩いたからだった。目の前にはあーちゃんの顔、両頬にはあーちゃんの手のひらが当たっている。


 目が合えば、にかっと千衿に笑いかけるあーちゃんは言葉を更に紡ぐ。


「今の今までずっと生きるのを生きていくのを千衿、頑張った! あーちゃんは他の人間なら自殺してしまうような人生を生きてきた千衿は、充分素質があるなり!」

あとがき


長らく更新出来ず申し訳ありません。  

にしても、やっぱりサブタイトル思い浮かびません。良いサブタイトル思い付いたら変更しますのでこれからも宜しくお願い致します!

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