妖事情、あーちゃんと妖王。
千衿が必要な理由。暗羅の可愛らしい容姿、姿が関係していた。そうこの姿は本来の姿ではなく仮初めの姿で暗羅は此処何百年もの間このような姿で過ごしている。
暗羅は、羅刹と云う種族で括りは鬼だ。しかし、常世は現世と表裏一体。現世に居る人々の噂や書物等に云われ書かれているのが少なからず影響していてもっとも影響するのは人の想像だ。流石にゲームやアニメに居たキャラ、妖等はそのまま闇から生まれはしないが、自分の存命に関わってくるのがある。
噂を云う人や妖を信じない人が多いと、存在が消えてしまう場合がある。妖力が少なく書物に書かれていない雑鬼、魑魅魍魎括りされて単体では弱い妖から消えてしまう。
妖力と知名度があれば存在が安定して悠久とも呼べる時間を得て、自分が死にたい時に死ぬことが出来る。そして、また生まれ変わることが出来る。いつ消えてしまうか分からない不安から怯えなくて済む。
その為には、どうすれば良いか。を暗羅は、自分の存在が書物だけに近いと知って、噂、絵巻に書かれなくなってから本来の姿とはかけ離れた姿を現世の悪影響を受けない為に妖力が失われない為に自分で考えた末に本来の姿を捨て今の姿になった。
勿論。それだけではただ数年延びただけでいつ消えてしまう不安は変わらなかった。ただ進行が遅くなっただけだと暗羅は、充分理解している。
人々を襲ったりして知名度を上げ妖力を増やせるのは、数千年前にやっているからどうしたら良いかは分かっていた。ただ、暗羅はもうしたいとは思わない。否、それしかないと思っていてもしたくないのだった。
それに現世に居る人々は、もう多くは妖を見えていない。見えない人にも見せるようには出来るが妖術を使うため妖力を温存したい暗羅にとっては妖術を使うだけでプラマイゼロになってしまう。しかも、今の姿ではとても羅刹だとは思えないだろう。やったとしても確実に違う妖に間違えられるか、最悪夢だと思われて終いになる。
千年前ならまだそのような事態にはならず、人を襲って(脅かして)プラスになっていたかもしれないが、過ぎてしまったのは仕方ない。
なら、どうすれば良い。と二度目の言葉が頭の中に浮かび悩み、途方に暮れていた暗羅に手を差し伸べたのは、常世を統治する妖王・紗英様だった。
「困っているようだな、羅刹」
しゃらん。と透き通った神楽鈴に似た音が聞こえて俯いていた顔を上げると、同時に上から声が降ってきた。
「しゃら様!」
顔を見なくても分かる紗英王の声に、驚いたように見張るがすぐにぱああっ。と眩しいほどの笑みで呼ぶ。
しかし、紗英王の姿に少し違和感を抱いて、うむむっ。と小さく唸って小首を傾げ、まじまじと紗英様を見てしまう。暗羅の様子を見て紗英王は「嗚呼」と思い出したように呟く。
「私の思念を、(と)ばした姿だから違和感があるだろうが気にするな」
そう。紗英王が云った通り、今暗羅の目の前に居るのは思念を飛ばして出来た残像。幽霊とは違って鮮明で立体映像に映っていると云った方が良い。そのぐらい暗羅から見たら紗英王の姿は幻影のようだった。
「あーちゃん、理解した! しゃら様の云う通り、すっごく困ってる」
理解と云うより違和感の正体に納得したようで、紗英様は凄い。とキラキラした尊敬の眼差しを向けるも束の間、分かりやすく項垂れながら云う暗羅は申し訳なさそうに頭を下げているようにも見える。
「羅刹の悩みは常世に住む皆が苦悩していることだ。いつ消えてしまうのか、どうしたら良いのか困ってるんじゃないか?」
数秒二人の間に静寂が訪れる。項垂れている暗羅は見て、困ったように。否、どう切り返したら良いか。悩んだような仕草と表情を浮かべた後、徐に口を開いてそう切り返す紗英王。
暗羅の目の前に居る紗英王は思念だけの存在。実際は、常世の中心部にある一番大きな城。現世で云う大阪城のような建物で金閣寺のような見た目をしている神々しくも美しい逢魔城の謁見の間に紗英王は居る。
内装は和中よりなのか。謁見の間には玉座があり、紗英様の目の前には紫鏡が宙に浮いて目線の高さで止まり暗羅を映し出していた。
その紫鏡の後ろでは、腰に二本の刀を差している黒の和装を着こなし長い漆黒の髪を後ろ下で紐で縛っている10代後半くらいに見える青年が周囲を警戒している。
青年の名は、朱紅。彼もまた妖でその証拠に彼の背には黒い翼が生えていて今は、翼を小さく畳んでいるが、この翼で飛ぶことが出来るほど大きい。朱紅は、鴉天狗と呼ばれる種族で紗英様に仕えている側近の一人。
紗英様の隣には、白に近い淡い水色の艶やかな肩まで長い髪、琥珀の瞳をした白の和装を着ている20代前半くらいの女性が居る。彼女の名は雪刃。氷柱女という種族で朱紅と同じく紗英王に仕えている側近だ。
雪刃の手には両手一杯の書類を包み込むように抱えて、うっとりと恍惚の眼差しで紗英王を見ている。
「雪刃、重いだろ?書類、置いていったらどうだ?」
暗羅に向けて思念を送っているからか。右目は思念を送るために閉じ、左目は紫鏡に映っている暗羅を依然として見ているが、雪刃の熱い視線が気になるのか。視界の端に捉えた雪刃が重そうに抱えているものを、理由にそう声を掛けて熱い視線から逃れたいのもあるが、一番は集中が出来ないからだ。
「そ、そんな事ない! でも、紗英様が云うのなら置いてくるっ」
不意に声を掛けられて驚いたらしく言葉に詰まるも、慌てて云う雪刃。驚きはしたものの紗英王に声を掛けられて嬉しいのか、上機嫌で書類を仕事場に置いていく為に謁見の間から出て行った。
『しゃら様の云う通り、その件で困っている。もう、俺。襲いたくはない....から何か別の方法が見付からなくて、困っている』
鏡面が、暗羅が喋る度に振動が伝わっているかのように波紋となって揺れている。
___もう、襲いたくはないか。......羅刹らしからぬ言葉だな。
紗英王は、暗羅の言葉に苦笑をする。羅刹があのような姿になってから何百年は軽く過ぎていて見慣れているが、本来とはかけ離れた姿で最初は羅刹だ。と分からなかった見ただけでは。
だが、直接会えば確かに妖気は羅刹特有のもので、羅刹だと分かったが何分姿も違えば声の高さや口調がやや異なっていて、別の種族、別の鬼だと思ってしまう時がたまにある。
鬼とは、何かと縁があり常世に繋がる最初の門は勿論第三門まで門番を任せている。守護させているからか、門番ではない鬼達の交流も他の妖よりしているからか、暗羅のような鬼も例外ではなかった。
本来。羅刹は、人を襲うのが生き甲斐。と云っては語弊があるがそれくらい人を襲っている。羅刹は人を殺める。と記述にも書いてあるくらいだ。実際、気性が荒く喧嘩早い所があって人を殺めるとこも襲っている姿も見たことがある。そんな羅刹の言葉だとは俄に信じがたい。と紗英王は思う。
「襲いたくないか、羅刹から思わぬ言葉をもらったものだ。 良いだろう、羅刹。否、暗羅......別の方法を教えてやる」
何故だろう、笑みが零れてしまうのは。と声にならぬ声で笑う紗英王は、元々教える気。つもりで思念を飛ばしたのだが余程暗羅の言葉がツボだったのか声にならぬ声で笑っていたのが、くつくつ。笑い声を抑えるような声で云えば、一拍置いてから再び口を開いて
「その方法は、自分と近しい強き妖に仕えることで自分の存在が安定する。自分が心から仕えたいと思う相手を探して仕えれば良い、それだけだ」