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95 Cランク冒険者の義務とルディーンの癇癪



 僕のランクがCに上がったと聞いたお父さんは、また怒り出した。いくらなんでも8歳のこどもにCランクは無いだろうってね。


 でもルルモアさんからの返答はさっきと同じで、一度上がってしまったものはもう取り消せないの一点張り。


「降格があるとすれば実績が取り消されるほどの不祥事を起こした時ですけど、ルディーン君がそんな事をするはず無いって事はカールフェルトさんも解ってますよね?」


 そしてこんな風に言われてしまっては、お父さん黙るしかない。


「解った。Cランクになってしまったのはもう仕方が無い。だがこれはギルドの不手際が原因だろう? ならCランク以上の冒険者に課せられる緊急招集だけは免除させろ。それができないのであれば、ルディーンは冒険者ギルドから脱退させる」


 でも、最後にお父さんはこんな事を言い出したんだ。


 後で知ったんだけど、冒険者ギルドではCランク以上になるとそのギルドがある地域で緊急事態が起こった時に強制的に召集されるって制度があるそうなんだ。


 例えば魔族が街を襲撃した時とか、遠くにあるって言うダンジョンなんかでは魔物が大量発生してあふれ出しちゃう事があるらしいんだけど、そんな時にはギルドマスターが出した召集を断る事ができないんだって。


 だからお父さんはそんな義務を課せられたら危ないからって、僕をギルドから脱退させるって言ってるんだ。


 これには僕もびっくり。でもそれ以上にびっくりしたのがルルモアさんだ。


「それは困ります。ルディーン君に脱退されたら今回の依頼のような場合はともかく、災害などで多くの怪我人が出てこの街の神殿だけでは手が回らないような状況になった時、ルディーン君が冒険者ギルドに所属していなければ救援要請も出せません」


 イーノックカウの神殿でも僕くらいの治癒魔法が使える人はあんまり居ないらしくて、その上一番近い大きな街まではここから馬車で10日くらいかかるんだって。


 だからもし災害が起こってから助けてって言いに行っても絶対間に合わないから、そんな時は村まで僕を迎えに行こうって話になってたそうなんだ。


 でもその話を聞いたお父さんは、そんなの関係ないって言うんだ。


「そんな事は知らんよ。それこそ神殿やギルドの責任だろう。それにルディーンは錬金術ギルドともつながりを持っているんだ。だから身分証明に必要なギルドカードも冒険者ギルドで発行してもらわなければいけないわけではないからな」


 その後ロルフさんたちから聞いた話を持ち出して、ルルモアさんにギルドカードなら錬金術ギルドでも商業ギルドでも発行してもらえるから何の問題も無いって言うお父さん。


「ルディーン。ここで受けられるさまざまな依頼は、冒険者ギルドから脱退してしまえば確かに受けることが出来なくなる。だがそもそもグランリルの者は、余程の事がない限り依頼を受ける事は無いから何の問題も無いんだ。何せグランリルの村には冒険者ギルドの出張所が無いからな。それに素材の買い取りは別に冒険者ギルド所属である必要も無いんだから、村の森への立ち入りを認められた後なら冒険者ギルドに登録し続ける必要は無いんだよ」


 そして僕にもこう説明して、なんなら今から冒険者ギルド脱退の手続きをしてもいいとまで言い出したんだ。


 それを聞いてもどうしていいのか解んなかったから、僕はお父さんとルルモアさんの顔を交互に見比べる。


 そしたらお父さんは怒ってるよって顔をしてるし、ルルモアさんはあまりの展開に顔がちょっと青かったんだよね。


 う~ん、困ってるルルモアさんをなんとか助けてあげたいけど、お父さんが怒ってる理由が僕を心配しての事だからルルモアさんの味方をするわけにもいかないんだよなぁ。


 と、そんな僕たちのやり取りを見ていた誰かが呼んだのか、ギルドマスターのお爺さんがまた上の階からのっしのっしと降りてきた。


「おい、一体何事だ? ルディーン君を冒険者ギルドから脱退させるとカールフェルトさんが息巻いてると聞いたが」


「ああ。最悪の場合、ルディーンは今日を以て冒険者ギルドを脱退させる」


 聞いては見たものの、本当にそんな状況だったからか凄くびっくりするギルドマスターのお爺さん。


 そしてどうしてそんな事になったのかを聞くと、腕を組みながら大きなため息をつく。


「なるほど、確かにCランクになると緊急招集の義務が課せられるか」


 その事が頭に無かったのか、ギルドマスターはちょっと困った顔になったんだ。


 それはそうだよね。だって、これはギルドの規則で決まっている事なんだからそう簡単に免除なんて出来ないけど、免除を約束しないのならその場で脱退させるなんて言われちゃったんだもん。


「カールフェルトさん。考え直してはもらえんか? こんな辺境では魔族の襲撃も無いだろうし、森から魔物があふれるような事態もわしの知る限りでは起こった事が一度も無いのだから、緊急招集が行われるなんて事はまず無い。それにだ、一度冒険者ギルドを脱退してしまったら折角溜まった実績も全てなくなり、その上再登録する時は特例が使えないからFランクになってしまう。そうなったらルディーン君にとってもあまりいい事ではないだろう?」


「そうでもないぞ」


 ギルドマスターの説得にこう返したお父さんは、周りに聞かせたくない話があるのか、ギルドマスターに近づいて耳打ちをする。


『実を言うとルディーンは錬金術ギルドでも冒険者ギルドでの事に匹敵するほどの実績を残しているし、向こうでの特許によって商業ギルドとのつながりもできるそうだ。ならば危険な冒険者ギルドの登録を破棄して、錬金術か商業、そのどちらか二つのギルドに所属する方がはるかに有意義だろう?』


 そしたらそれを聞いたギルドマスターがびっくりした顔でお父さんの顔を見つめて、その後僕の顔を見てからもう一度お父さんの顔を見つめたんだ。


「と言うわけだ、ギルドマスター。これでルディーンが冒険者ギルドに所属しなければいけない理由は何も無いと解っただろう」


「むう。確かにその通りなんだが……」


 お父さんは一体何を話したんだろう? よく解んないけど、さっきの耳打ちを聞いたギルドマスターは本当に困り果ててしまった。


 そしてそんなギルドマスターの様子を見て一体何があったのかと聞くルルモアさんに、今度はギルドマスターが耳打ちをする。


「そんな……本当なんですか、カールフェルトさん?」


 そしたらルルモアさんもびっくりした顔になってそんな事を言うと、お父さんはそうだと言わんばかりに頷いたんだ。




 この間、僕はすっかり仲間はずれだ。


 これ、僕が冒険者ギルドをやめるかどうかって話だよね? なのに、なんで僕だけ仲間はずれなの!


 そう思ったら、なんか凄く腹が立ってきたんだ。だから僕は、


「もう! 僕の話のはずなのに、何でみんな僕を仲間はずれにしてこそこそ話してるのさ! いいもん! 冒険者ギルドにいなくていいなら、僕やめる! ロルフさんとバーリマンさんが待ってるし、錬金術ギルドに行くからもうここに居なくていいよね!」


 そう言って冒険者ギルドから出て行こうとしたんだ。


 それを見て、大慌ての大人たち。


「待て、ルディーン。やめるにしても手続きが要るんだ。今のままだと、何かがあった時に困るから、ちゃんと脱退手続きを」


「もう! 何を言ってるんですか、カールフェルトさん。ルディーン君、待って。とにかく話を聞いて。ほらギルドマスターもなんとか言ってください!」


「おっ? おお。えっと、ルディーン君。別に君を仲間はずれにしていたわけじゃないんだ。だから機嫌を直してくれないか? そうだ! おい誰か。ルディーン君にジュースとお菓子を持ってきてくれ。ルディーン君もそれを食べている間だけでいいから、もう少し、もう少しだけ我慢してもらえないだろうか?」


 お父さんとルルモアさんたちとでは理由が違うけど、どっちも必死に僕を引きとめようとしたんだ。


 でも僕は怒ってるんだ。だって今までずっと仲間はずれにされてたんだもん。だから聞いてあげない。


「やだ! ロルフさんたちのとこに行くって約束してるし、遅くなるとお母さんが心配するからもう出てく。みんな勝手にやってればいいんだ!」


 そう言い残して僕は冒険者ギルドを飛び出したんだ。引き止める大人たちの声を無視して。



 ■



 あまりの急展開に唖然とする、俺を含む大人たち3人。


「とっとにかく、ルディーンは冒険者ギルドを辞めると言い残して出て行ったんだから、脱退手続きを」


「何を言ってるんですか! あれは癇癪を起しただけでしょ。それなのに勝手に脱退させてしまったら、後でやっぱり残りたいってルディーン君が言い出した時に大変な事になってしまいますよ」


「うむ。ルルモアの言う通りだ。それに、本人不在での脱退など認められんし、脱退するにしてもどこか他のギルドのカードを取得してからでなければ預金の引き出しができなくなってしまうだろうが。ルディーン君のギルド預金は、すでに結構な額になっているのだろう?」


 確かに前回のブレードスワロー売却代金に加え、ギルドと帝国から齎された報奨金にBランク相当の指名依頼達成の報酬まで入っているのだから、ちょっとしたひと財産と言っていいほどのお金がルディーンの預金には入っているんだよなぁ。


 それを指摘された事によって、俺の頭も少し冷える。確かに今この場で冒険者ギルドの脱退など、できない事に気付いたからだ。


「それにだ。冒険者ギルドとしてもルディーン君の脱退は避けたい所なんだ。何せ帝国から褒賞金が出るほどの実績を残しておるからな。それを脱退させたとなればかなりの問題になるし、無いだろうとは思うが他の国で冒険者ギルドに再加入なんぞされたら帝国の面子は丸つぶれだ」


「そうですよね。ねぇ、ギルドマスター。Cランクの緊急招集義務、なんとか免除できないんですか? それができれば全て丸く収まるのですが」


 それができれば全て丸く収まるとばかりに、ルルモアさんはギルドマスターに詰め寄る。そして当のギルドマスターも、それは考えていたようで、


「うむ。即答はできぬが、場合が場合だからな、特例が認められないか帝都のギルド本部に問い合わせてみるべきだろう。カールフェルトさんも、その結果が出るまではルディーン君の脱退は待ってもらえんか?」


「仕方ないですね。ルディーンをあのまま一人にする訳にもいきませんから、今日の所は引くとしましょう」


 こうして結局ルディーンの居ない所で、一応ではあるが冒険者ギルドに残留する事が決まった。



 そして後日、イーノックカウの冒険者ギルドから出されたルディーンの緊急召集義務免除は、拍子抜けするほどあっさり承認される事になる。


 表向きの理由としては本来はDランクの試験しか行っていないにもかかわらず魔道具の不具合によってCランクに上がってしまったからとなっているらしいが、実際はルディーンによって魔道具の新技術が齎された為に錬金術ギルドと商業ギルドが獲得に動いたかららしい。


 まぁ、なんにしても緊急招集が免除されるのならわざわざ得たCランクと言う地位を捨てる必要はない。


 と言う訳で、結局はここでも帝国内での各ギルド同士の力関係という大人の事情によって、ルディーンの冒険者ギルド残留が決まったって訳だ。


 読んで頂いてありがとうございます。

 

 子供って、いきなり癇癪起こしますよね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「それを指摘された事によって、俺の頭も少し冷える。確かに今この場で冒険者ギルドの脱退など、できない事に気付いたからだ。」 預金しているお金が取り出せなくなるというのなら、脱退する前に預金を…
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