89 困ったギルドマスターと指名依頼
「明日は馬車で来るから、雲のお菓子製造機はそれまで預かっててもらっていい?」
「ええ、いいわよ」
取り合えず錬金術ギルドにある無属性の魔石を何個か氷の魔石にしてから、雲のお菓子製造機をバーリマンさんに預けて僕たちはギルドを出た。
因みに氷の魔石を作った報酬は魔石の大きさによって値段が変わるから、できた魔石をちゃんと調べてからじゃないと解んないんだって。
だから渡したお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションの事があるから明日もまた錬金術ギルドには来るけど、その時じゃなくって後で僕の冒険者ギルド預金に振り込まれるそうなんだ。
掛かった時間に比べたら結構もらえるらしいんだけど、でも僕はお父さんから一日に使えるお金が決められてるからあんまり関係ないんだよね。
さて、次にやってきたのは冒険者ギルド。
なんか僕が前にやった事で手続きとか言うのをしないといけないから来て欲しいって、お父さんが錬金術ギルドで言われたそうだからね。
と言う訳でギルドの扉を開けてお父さんと二人、中に入ったんだけど、
「あっ、こんにちわ! ルルモアさん」
「ルディーン君っ!? 丁度よかったわ、こっちへ来て!」
入り口近くにいたエルフの受付嬢であるルルモアさんを見つけて挨拶したとたん、捕まって受付の方に引っ張ってかれちゃったんだ。
「こんにちは、ルルモアさん。ルディーンの発見に対する登録の話ですね。錬金術ギルドで聞いてきましたよ」
「えっ? ああ、そう言えばその手続きもしなくてはいけませんね」
あれ、そのお話じゃないの? じゃあ何で僕は手を引っ張られてここに連れて来られたんだろう? そう思って僕はルルモアさんの方を見てたんだけど、彼女はそれどころじゃないみたい。
「ルディーン君が来てくれたわ。依頼掲示板に貼ってあるあれ、すぐに引っぺがして持ってきて頂戴!」
「解りました」
近くにいるギルドの制服を着た若い男の人にこう頼んで一枚の羊皮紙を持ってきてもらうと、それを僕たちの前に広げたんだ。
そして、
「ルディーン君、指名依頼よ。この依頼を受けて頂戴」
僕に向かってこんな事を言い出したんだ。
「えっ? えっと……」
と言う訳で僕はその羊皮紙に書いてある依頼を見てみたんだけど……あれ? これって。
「ルルモアさん。これ、僕受けられないよ」
「ええっ!? どうして? ルディーン君ならそれ程難しく無い依頼でしょ?」
「あっ、そう言えばまだ依頼の中身、読んでなかった」
「読んでない? なら何故受けられないの?」
だってさぁ、この依頼、Bランクだもん。
「僕Eランクだもん。冒険者登録した時に聞いたよ。依頼は2ランク上までしか受けられないって」
「ええっ!?」
僕がそう言うと慌てて羊皮紙の内容を確かめるルルモアさん。
そして一通り目を通すと、また近くにいた若いギルドの制服を着た男の人を呼んでこう言ったんだ。
「すぐにこの依頼書をギルドマスターの所に持って行って、特例事項を追加してもらってきて。内容はこの依頼に限りランクの上限規制を撤廃するよ」
それを聞いてびっくりするお兄さん。
「えっ、それはギルド規約に……」
「大丈夫、魔物のランクはそれ程高くないから特例指定の条件はクリアしてるもの。あとギルドマスターには、ちゃんとルディーン君が来たからだって伝えてね。そうすればすぐに承認が降りるから」
「解りました」
でもルルモアさんが説明すると、お兄さんはその依頼書を持ってカウンター奥の階段をあがっていったんだ。
「ごめんなさいね。入手難易度が高いから報酬が多いBランク依頼になってたのよ。でもこの手の依頼は偶然低ランクの誰かが手に入れても報酬がもらえるから、承認はすぐに降りると思うわ」
そして待つ事数分、さっき慌てて階段を上がって行った若い職員さんが羊皮紙を片手に帰って来た。
「ギルドマスターの承認、貰ってきました」
「ご苦労様」
ルルモアさんはそんな職員さんににっこりと笑いかけてから受け取り、僕たちのほうに向き直ってその依頼書を広げたんだ。
「じゃあ再度指名依頼するわよ。ルディーン君、この依頼を受けて頂戴」
ルルモアさんが見せてくれた依頼書には大きなハンコで承認って赤い文字が押されていて、その下には依頼書を書いた人とは別の文字でランク上限撤廃を許可するって書かれてた。
で、その内容はと言うと、
「えっと……なんだ、ブレードスワローを獲ってきてほしいのか」
そこにはブレードスワローを3匹、獲ってきて欲しいって書いてあったんだ。
「そうなのよ。こんな依頼が入ってもブレードスワローなんてそんなに簡単に手に入るものじゃないでしょ? 正直、ギルドマスターも私たちもみんな困ってたのよね」
「えっ、でも無理な依頼なら普通はギルドでは受け付けないのではないですか?」
ルルモアさんの話を聞いてお父さんがそんな質問をしたんだけど、それに対して彼女は無言で依頼者の欄を指差した。
だから僕とお父さんはその依頼者の所を読んでみたんだけど、そしたらそこにはこんな文字が書かれてたんだ。
アトルナジア帝国 帝国府
そう、なんとブレードスワローを獲ってきてってのは国からの依頼だったみたい。
それじゃあ断れないだろうから、みんなが困るのも無理は無いよね。
でもなんでこんな依頼が来たんだろう? ブレードスワローって本当なら滅多に獲れない鳥だって言ってたし、1匹ならともかく3匹なんて普通は無理だって解ってると思うのに。
だから僕はルルモアさんになんで? って聞いたんだ。そしたら大きなため息をついて、
「この間ルディーン君が一度に6匹も獲って来たでしょ。普通はブレードスワローなんて滅多に入荷しないから羽根を取って素材に回すんだけど、こんなにいるんだからって一番状態のいい1匹を剥製にしたのよ。そしてそれを皇帝陛下へと献上したの」
「ああ、それでもっと欲しいってなったのか」
「いいえ。陛下も流石にブレードスワローが捕獲困難な魔物だって知っているから、普通ならこんな無茶な依頼はしてこないわ。でもね、一人の馬鹿のせいでこんな事になったのよ」
「馬鹿?」
「うちのギルドマスターよ」
ルルモアさんが言うには献上はギルドマスターが行ったらしいんだけど、そんな珍しいものを献上したと言う事でご褒美の晩餐会が催されたらしいんだ。
で、そこでよく高値の付くブレードスワローを売らずに剥製にした物だって言われたギルドマスターがつい、あの剥製は一度に6匹も持ち込まれたから、折角の機会だからと剥製にして献上したんだって話しちゃったんだって。
そしたら、そんなにブレードスワローを獲るのがうまい狩人がいるのならって、この依頼を押し付けられちゃったらしいんだよね。
でも獲った僕はイーノックカウに住んでないし、グランリルの村の子供はギルド登録の時以外は滅多にこの街に来る事は無いから本当に困っちゃったんだって。
「相手が帝国府だから報酬は破格だし、張り出せば狩人がなんとか捕まえてくれるんじゃないかって一縷の望みをかけては見たんだけど、何せ数が数だし、何より狙って獲れる物でも無いでしょ。だから最終手段として、グランリルまでルディーン君を迎えに行こうって話まで出てたのよ。だからさっきルディーン君が顔を出してくれた時は、本当に神の助けかって思ったわ」
神様の助けって、流石にそれは言いすぎだよね。
でも困ってるのは解ったし、ブレードスワローは探し出しさえすればそんなに狩るのも難しくない。
だから僕はお父さんに森まで狩りに行っていい? って聞いたんだ。そしたら、
「この依頼は確かにルディーンにしかできなさそうだしなぁ。今回は森に行く予定はなかったけど、前回の調子で狩れるのなら3匹程度ならそれ程かからないんだろ? なら明日の朝、森まで行ってくるか」
「うん!」
「ありがとう、カールフェルトさん」
こうして僕たちは明日の朝、森までブレードスワローを狩りに行く事になったんだ。
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