87 氷の魔法と他人のステータス
「それでねぇ、これとこれを組み合わせれば」
「おお、なるほど。確かに制御が可能になるのぉ。いやはや、制御用に新しい回路記号を作り出したのかと思えば、すでにある記号を組み合わせて事を成しておったとは恐れ入るわい」
「当たり前だよ。だって僕、回路記号の作り方なんて知らないもん」
隣で伯爵がルディーン君から制御回路図の詳しい説明を聞いている。
簡単な魔道具作成ならともかく、回路記号を組み合わせての作業なんて難しい話は私が聞いても殆ど理解できないだろうから、伯爵に丸投げしたってわけだ。
何せ錬金術や魔道具に関しては伯爵ほど造詣が深い人物は帝国内でもほんの数人くらいしかいないと言われてるんだから、彼に任せておけば何の問題も無いでしょうからね。
と言う訳で、私はカールフェルトさんとの話し合いを続けていた。
「ところで今日持ってきた二つのポーションに関してはどうなっているのですか?」
「それに関してはまだ何とも言えないのです。なにせ今までに無い新種のポーションですからいくらの値が付くのかも解りませんし、現状ルディーン君しか作れないものなので、ポーション全集に載せるわけにもいきません。何せ他の人が本当に作れるか確認できないのですから」
調べた所で現物を作るのはどう考えても無理だろうけど劣化版のようなものなら作る事ができるかもしれないし、もしその目処が立つようなら鑑定解析が使えるルディーン君に少しだけ長くイーノックカウに滞在してもらってその薬を完成させればいい。
でもそうなるとルディーン君はまだ小さいし、親御さんも一人での滞在は許してはくれないでしょうから、その際の宿代を予めギルドの予算に計上しておかないといけないわね。
そんな事を考えていた、まさにその時。
「なんじゃと!? 今、今なんと申した!」
伯爵の叫び声が錬金ギルド内に響き渡った。
■
ロルフさんに魔道回路図の制御をする方法を話してると、かなりびっくりされたんだ。
でもなんでだろう? これってみんな本にちゃんと書いてある事ばっかりなのに。
「ふむ、昔から温度を調べるとか時間を計る記号はよく使われておった。じゃが、それはそこに到達したら魔力を切るという方法にしか使われておらなんだのに、まさか新たな魔力回路図のスイッチを入れるのに使うとはのぉ」
ってああそうか、今までは一つの回路図しか使えないって思ってたから初めからそう使おうって考えもしなかったんだね。それじゃあ仕方ないか。
ちゃんとした使い方さえ理解できたら応用だってできると言うのは、今のロルフさんを見れば解る。
だって僕が考えたのとは別の制御の仕方まで考え付いたみたいで、なにやらぶつぶつと小声で言ってるもん。
「後ね、温度を設定する記号はつけたり消したりする時にだけ使うわけじゃないんだよ」
「ほう、それはどんな時に使うのかのぉ」
「そうだなぁ。僕が作った魔道具で言うと、こないだ冷蔵庫を作ったんだけど、それにも温度を感知する記号が使ってあって扉を開けっ放しにして中の温度が上がっちゃったら冷やす力を強くするようにしてあるんだ」
冷蔵庫って扉を開けちゃうとすぐに温度が上がっちゃうんだもん。最初に作ったやつはお母さんがドアを開けっぱなしにするもんだから、上に入ってる氷が解けだしちゃったんだよね。
だからその場で温度が上がったら魔力を制御してる抵抗が減るように回路図を書き直したんだ。
「冷蔵庫をな? しかし氷の魔石なんぞよく手に入ったのぉ。村に帰る時にこの街で買っていったのかい?」
「ううん、違うよ。雲のお菓子製造機に使った火の魔石と同じで僕が作ったんだ。でも大きな魔石が使えなかったから冷蔵庫全体を冷やせなくて、一番上に氷が出来るくらい冷える場所を作ってそこの氷と冷気で冷蔵庫の中を冷や……」
「なんじゃと!? 今、今なんと申した!」
わぁ!
僕が一生懸命家で作った冷蔵庫の話をしてたら、ロルフさんが急に物凄く大きな声を出すもんだからびっくりしちゃった。
でも急にどうしたんだろう? えっと、ロルフさんは今僕が言った事にびっくりして大きな声を出したんだよね。
「えっと、冷蔵庫全体が冷やせないから上に」
「そうではない、その前じゃ」
「大きな魔石が使えなかった?」
「いやもっと前、氷の魔石のことじゃ」
「えっと、僕が作ったって事?」
「なん……じゃと」
あれ? ロルフさん、なんか固まっちゃった。もう! あんだけ僕に聞いておいて、仕方ないなぁ!
そう思った僕はロルフさんの肩に手を置いてゆすってみる。
「ロルフさん、どうしたの? ねぇ、ロルフさんってば」
ゆすってはみたものの、ロルフさんは固まったままなんかぶつぶつ言ってるんだよね。
だからそれを聞いてみたんだけど、
「まさかそんな。この様な子供にできるはずが……じゃがしかし、ルディーン君なら」
なんて言ってるんだ。
え~。て事はロルフさん、僕が氷の魔石を作ったことを信じてないんだ。僕、ちゃんと自分で作ったのに。
「どうしたの? ルディーン君。いきなり伯しゃ、こほん。ロルフさんが叫んでたみたいだけど」
「えっとねぇ、僕が氷の魔石を作ったんだって言ったら大きな声を出して固まっちゃったんだ。それにロルフさん、僕が作った事を信じてないみたいなんだよ。僕、ちゃんと作ったのに」
冷蔵庫に使ったらちゃんと氷ができたんだから、あれは間違いなく氷の魔石だよね。
僕が作れるかどうか確かめずにできるはず無いって言うなんて、大人なのにホント困っちゃうなぁ。
そう思って氷の魔石を作ったって事をバーリマンさんに褒めて貰おうと思ったんだけど……あれ、なんか固まってない? そう思って顔を覗き込もうとした瞬間、僕は物凄い顔をしたバーリマンさんに両肩をつかまれたんだ。
「ルディーン君、それホント? 本当に氷の魔石が作れるようになったの?」
「ホントだよ! だってちゃんとその魔石で氷作れたもん。ロルフさんもバーリマンさんも何で信じないの!」
「あっ、ごめんなさい。別に信じてないわけじゃないのよ。ただびっくりしちゃって」
僕が怒ると、バーリマンさんはあわてて謝ってくれた。
そしてそんな事をやってる間に固まっていたロルフさんも再起動。
「すまん、すまん。まさかこんな小さな子が氷の魔法を習得するとは思わなんだので驚いてしまってのぉ。面目ない」
「そうなのよ。本来氷の魔法が使えるようになるのはもっとずっと後、魔法使いでもかなり修行を積んだ人しか使えないから私もびっくりしたわ」
ああそっか、そう言えば氷系統の魔法は一番最初に覚えるアイス・スクリーンでも8レベルだっけ。
それなら確かに僕みたいな小さな子がつかえたら変だって思うよね。だって冒険者ギルドに行ったら大人の人たちでもまだジョブを持ってない人がいっぱいいたんだから。
「うむ。氷の攻撃魔法、アイス・ストームは確か10レベル後半にならねば習得できぬはずじゃからのぉ。と言う事はルディーン君はすでにそれ程の……」
「待って、待って! 何で最初がアイス・ストームなの? 8レベルになればアイス・スクリーンが使えるようになるじゃないか!」
「アイス・スクリーン? それはなんじゃ? 聞いた事も無い魔法なんじゃが」
えっ、この世界にはアイス・スクリーンの魔法、無いの?
そう思って詳しく聞いてみたら、ロルフさんからびっくりする話を聞かされたんだ。
「ほう、炎の攻撃から身を守る魔法とな? プロテクション以外にそのような防御魔法があるとは初耳じゃ。してルディーン君はその魔法をどのようにして知ったのかのぉ」
「えっ? 普通にステータス画面からだよ。使えるようになったらみんな、魔法欄に浮かんでくるんじゃないの?」
「ステータス? と言うとあれか、鑑定士が見ることができると言う」
「うん、そうだよ。そのステータス画面」
僕がそこまで言うと、ロルフさんはまた難しい顔になった。
そしてそんなロルフさんを見てたバーリマンさんが、彼に換わって僕にこう教えてくれたんだ。
「ルディーン君、普通の人はね、自分のステータスでも見ることができないの。できるのは鑑定士の修行をした人だけなのよ」
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