83 我慢のご褒美は甘いお菓子
鑑定解析の習得方法を教える教えないの大騒ぎは、意外と結構長く続いた。
「秘匿スキルじゃぞ、絶対に教えられぬ。そんな事は当たり前じゃろう」
ロルフさんはこう言うけど、バーリマンさんはやっぱり不満みたいだね。
でも、教えちゃいけないって規則になってるのならそれは守らなきゃいけない。
「偉い人に怒られちゃうから、規則は守らないといけないんだよ!」
「ほれ、ルディーン君もこう言っておるじゃろう。ギルマスも、おとなしくあきらめるがよい」
「ぐぬぬっ」
だけど最終的にはやっぱり秘匿スキルの習得方法を洩らすわけにはいかないからって意見が通って、バーリマンさんがあきらめる事になった。
そうだよね、教えちゃいけないから秘匿って付いてるんだもん、大人なら我慢しないと。
でもそれだけだと可哀想だから、ちゃんと我慢したバーリマンさんに僕はご褒美をあげる事にしたんだ。
「ちゃんと我慢したから、これあげる。ロルフさんにあげる分が減っちゃうけど、いいよね?」
「ん? ああ、先ほどの飴菓子か。後でそれを作る道具を見せてくれるのじゃろう? それならばその時作ればよいから、今は気落ちしておるギルドマスターに振舞ってやってくれ」
「うん! バーリマンさん、これ、僕が作ったお菓子なんだ。とっても甘くて美味しいんだよ」
ロルフさんのお許しが出たから、僕は持ってきた箱の蓋を開けてバーリマンさんに見せてあげる。
するとバーリマンさんは一瞬だけ不思議そうな顔をして、そしてその後ロルフさんに質問したんだ。
「あの、ロルフさん。私にはコットンにしか見えないのですが、これは本当に飴菓子なのですか?」
「うむ。わしも最初にルディーン君から振舞われた時は面を喰らったが、口にしてみると確かに飴菓子じゃった。ほれ、ギルマスも食べてみるがよい。今までに経験した事が無い美味じゃぞ」
そんなロルフさんの言葉にバーリマンさんは物凄くびっくりしたみたいで、大きく目を見開いて目の前にある雲のお菓子を見つめた。
そして、
「あのお孫さんをお持ちのロルフさんをして、そうまで言わせる菓子ですか。では失礼して」
そう言うと、バーリマンさんは箱の中から一口分だけ雲のお菓子をちぎって、それを口に運ぶ。
「っ!?」
するとさっきよりももっとびっくりした顔になって、その後すぐに笑顔になったんだ。
食べた時になんでびっくりしたのかちょっと気になるけど、笑顔になったって事は美味しいって思ってもらえたんだよね? 良かった、折角ご褒美にあげたのに、美味しくないって言われたら困っちゃったもんね。
「口に入れた瞬間に文字通り溶けてなくなり、と同時に強い甘さが口に広がる。うん、これはかなり美味しいです。けど、一体どのようにして作られているのでしょう? この飴菓子からは何の魔力も感じませんからルディーン君が魔法で作ったってわけじゃないですよね?」
「うむ。解析してみれば解るが、形は特殊でもこれは確かにただの飴菓子じゃ。別に魔法で作られた特別な菓子ではない」
「ならば普通の飴細工と同じような作り方なのでしょうか。しかし、それにしても恐ろしく繊細なお菓子です。これ程の飴菓子をこの街の有名なお菓子屋ではなく、グランリルの村から来た子から頂く事になるとは。いや、先ほど作る道具を見せてもらうって言ってましたよね? ならもしかして、このお菓子を作る道具はルディーン君が開発したのですか?」
「うむ。驚く事に、どうやらそうらしいのじゃよ」
と、ここまで聞いていて僕は一つ気になる事があった。
ロルフさんはこの雲のお菓子の事をさっきから飴細工って言ってるし、バーリマンさんも普通の飴菓子と同じ作り方なのかって言ってる。
と言う事は、こんなお菓子を作ってる職人さんが他にもいるって事だよね? でも僕にはその職人さんたちがどうやって作ってるのかがさっぱり解らないんだ。
だって、僕が作った魔道具と同じやり方なら食べた感じは同じようになるはずだもん。なのにそうじゃないって言うのなら、その人たちは違う作り方をしてるはずなんだ。
「ねぇねぇ、この雲のお菓子と同じような飴細工ってどうやって作ってるの? 職人さんが作るって事は手で作るんだろうけど、こんなに細く作るのなんて魔道具でも無いと無理だって思うんだけど」
「なんと、ルディーン君は飴菓子を知らぬのか。それなのにこの様な菓子を作る魔道具を生み出すとは驚きじゃ」
「あら、ルディーン君が作ったのはお菓子を作る為のただの道具ではなく、魔道具なの? ならば多分君が作った魔道具と基本原理は同じものだと思うわよ。お砂糖に少量の水を入れてそれを火にかける。するとドロドロに解けて液体になるから、それを小さな穴が幾つか開いている柄杓のような道具にいれて等間隔に張った糸の上にかけて行くのよ。すると冷やされたお砂糖がこんな風に細い糸状になるからそれを繰り返す事でできたものが、私やロルフさんが言っている飴菓子よ」
そっか、ケーキやなんかの上に乗っかってるあれの事か。
でもあれってちょっと硬いし、この雲のお菓子とはかなり違うと思うんだけど……。
でもまぁ材料は同じだし、大人の人が同じって言うのなら多分同じなんだろうね。
「しかし実際に口に出してみると、この菓子がどうやって作られるのか気になるわね。私が知ってる飴菓子はこんなふわっとしてなくて、どちらかと言うとぱりぱりとした食感だし、口どけもよくないもの」
「そうじゃのぉ。かなり腕のいい職人が作ったものを口にしても、ここまでのやわらかさはない」
僕が心の中で納得しかけてたら二人が急にこんな事言い出したんだ。
って事はやっぱり違うものなんだね。あ~よかった、僕だけがおかしいのかって思っちゃったもん。
「となるとルディーン君が言うこのお菓子を作る道具と言うのがどんなものか、ますます気になるわね」
「ああ、それなら今から持ってきましょうか?」
バーリマンさんが雲のお菓子を食べながら言った一言に、お父さんが反応してこんな事を言い出した。
「えっ? そんな簡単に持ってこられるものなんですか?」
「ええ。ルディーンが1人で持ち運べるくらいですし、俺なら宿まで行って持ってくるくらいわけないですよ」
「「それならば、是非に!」」
お父さんの返答に二人ともすっかり乗り気だ。
どうやら本当にこの雲のお菓子をどうやって作るのかが気になっていたみたいだね。
この返事を受けて、お父さんは、
「ではすぐに取ってきますよ」
と言って錬金術ギルドから出て行っちゃった。
そして待つ事10分ちょっと。お父さんは寸胴鍋のような雲のお菓子製造機を抱えて帰って来たんだ。
それを見て僕が思ったのは、ああそう言えば本当の寸胴鍋みたいに取っ手をつければ持ち運びが簡単になるかもって事。
次、誰かに頼まれて作る時はそうした方が絶対いいよね。ああやって持つの、大変そうだもん。
そんな僕の考えをよそに、ロルフさんとバーリマンさんは雲のお菓子製造機に興味津々。
見た事も無い形のその魔道具を見て、どうやって作るのか早く見せてって言って来たんだ。だから僕は、
「お父さん、お砂糖」
雲のお菓子の材料である、お砂糖をお父さんに出してって行ったんだよ。
そしたら。
「あっ、忘れた」
「もう! お砂糖が無かったら雲のお菓子、作れないじゃないか!」
どうやらお父さんはこの魔道具を持ってくることに夢中で、材料のお砂糖を持ってくるのを忘れちゃったみたい。
ホント困っちゃうよね。
でも作る道具だけあっても材料が無ければ雲のお菓子は作れないから、僕はお父さんにもう一度宿まで行って取ってくるようにって言おうとしたんだ。
そしたら、そんな僕たちの様子を見ていたロルフさんが、
「ふむ。確かに材料が無ければこの菓子は作れんか。のぉ、ルディーン君。この菓子の材料は砂糖だけか?」
「えっ? うん。ほかのものを一緒に入れたら違う味のができるけど、お土産で持ってきたのはお砂糖しか使って無いよ」
「ならば問題は無い。ギルマスよ、調理場に砂糖くらいあるじゃろ? 持ってきてはくれぬか」
「ふふふっ、そうですね。折角調理道具を持ってきてくださったのに、また宿までとりに行かせるのは少々かわいそうですから」
よかったね、お父さん。もう一度取りに行かなくても大丈夫そうだよ。
読んで頂いてありがとうございます。
ブックマークが目標の100を超えました! 次の目標は日間ファンタジーの100位以内です。
流石に100ポイント近くは難しいかもしれませんが、もし応援していただけるのでしたら、下にある評価を入れて頂けると本当にありがたいです。




