80 綿、無いのかと思ってたけど、あったんだ
「ところでルディーン君、今日は何故このギルドに来たのじゃ? ついこの間来たばかりじゃから、溶解液が切れたという訳ではないのじゃろう?」
「あっ、そうだった! あのねぇ、僕、お肌つるつるポーションってのと髪の毛つやつやポーションってのを作ったんだ。そしたらね、村の司祭様が特許申請? ってのを錬金術ギルドでやって来なさいって言ったから来たんだよ」
「おいおいルディーン、それじゃいくらなんでも解らないだろう」
ロルフさんから今日はなんで来たの? って聞かれたから僕はちゃんと答えたのに、お父さんはそれじゃ解んないって言うんだ。
でもこれ以外、何って言えばいいのさ。
「まぁルディーンに任せていると何時まで経っても話が進まないかもしれないから、ここはお父さんに任せておけ」
そう思ってたら、お父さんが説明を引き受けてくれるって言い出したんだ。
そうだね。どこが悪かったのか解んない僕より、大人のお父さんが話した方がロルフさんによく解ってもらえるかもしれない。
「うん、いいよ」
だから僕はお父さんに任せることにしたんだ。
「実は先日、ルディーンがこんなものを作り出しまして」
お父さんはそう言うと二つの小さな壷を取り出して、ロルフさんが座っているカウンターの上に置いた。この壷の中にはそれぞれ、僕が作ったお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションが入っているんだ。
と言うのも、司祭様から特許申請をするのなら現物があった方がいいだろうから持っていくようにって言われたからなんだよね。
「シーラが、妻が言うには此方のポーションを風呂上りに肌に塗るとしわやシミが取れて、張りやつやも戻るそうです。そして此方は髪の毛に使うものだそうで、これも使うと傷んだり腰がなくなった髪も綺麗に治るそうなんですよ」
「なるほど、これは傷ではなく肌や髪の毛の傷みを修復するポーションなのね」
それを見せられて反応したのはロルフさんではなく、ギルドマスターのバーリマンさん。
お母さんやお姉ちゃんたち、それに近所のおばさんたちもそうだったけど、やっぱりそういう事に関しては男の人より女の人の方が興味があるんだろうね。
「それで効果はどれくらいなの?」
「さぁ? 俺、いや私から見ても確かにかなり綺麗にはなっていると思うのですが自分で使っているわけでもないですし、なにより妻や娘ほど肌のきめや張りとか髪の毛の艶や腰にそれ程興味があるわけではないのでよく解らないのです。ただ妻や近所の奥さんたちには、かなり好評のようですよ」
「そうなのですか。ただ肌や髪の毛が綺麗になると言うポーションの存在は、私も聞いた事が無いんですよねぇ」
バーリマンさんはそう言うと、少しだけなにやら考えた後、
「解りました。もしこのポーションを使う事により肌や髪の状態が本当に多少なりとも改善すると言うのであれば、それに悩む多くの女性たちからは喉から手が出るほど欲しいと思われる事でしょう。そのようなものを特許に登録せずにおけば、金目当てによからぬ者が寄ってくるかもしれません。ですから、その申請を受け付けたいと思います」
そう言って二つの壷を手に取ったんだ。
「ただ、実際に調べてみない事には効果があるかどうか解りません。製造方法をお聞きしたり特許申請のための書類作成は、この二つを私が調べた後でも宜しいですか?」
「はい、お願いします」
話が難しくてよく解んなかったけど、とにかく特許申請とか言うのをギルドはやってくれるみたいだね。
でも調べてみないと効果が出るかどうか解んないって言われたのはちょっとショック。みんな順番待ちするくらい欲しがってるんだから、効果はあるに決まってるのに。
まぁ、僕もよく解ってないからいいんだけど……。
そんな訳で、バーリマンさんは二つの壷を持ってカウンター後ろの扉をあけて、奥へ引っ込んでしまった。
多分あそこに工房があるんだろうね。で、そこであの二つのポーションを調べるつもりなんだと思うんだ。
「ルディーン、ところであれは渡さなくてもいいのか?」
「あれ?」
何のことだろう? そう一瞬考えたんだけど、
「ああそうだ! ロルフさん」
「ん、なんじゃ?」
僕は今日、この錬金術ギルドに来る前に作ったものの事を思い出したんだ。
「この間は色々教えてくれてありがとうございました。だからそのお礼にって、これを持ってきたんだ」
そう言って僕は持ってきた箱をカウンターの上に置いて蓋を開ける。そう、雲のお菓子がつまったあの箱の蓋を。
「む? これは……コットンか?」
「えっ、コットン?」
「その反応からすると違うようじゃな。そう言えばこの辺りでは、どこも綿花を栽培しておらんかったのぉ。では、これはなんじゃ?」
雲のお菓子を目にしたロルフさんの反応は僕の予想していないものだったんだ。
なんとこのお菓子を見て勘違いしたみたい。
でも、コットンって綿の事だよね? って事はそっか、この世界にも綿があったんだね。
「えっと、コットンって」
「ああ、ルディーン君はコットンを知らんか。コットンと言うのは綿花という作物から作られるものでな、見た目がこれとよく似ておるのじゃよ。それは糸にして布を作ったり椅子のクッションや寝具に詰めて使われるものなんじゃが、数多くの綿花を集めなければ加工が出来ないために中々高価なものでのぉ。それだけにルディーン君が知らぬのも無理は無いかもしれんのう」
なるほど、綿って結構貴重なんだね。だから今までいろんな人がこのお菓子を見ても綿と勘違いしなかったのか。
この世界にあったとしても、見た事がなかったら勘違いしようが無いもんね。
「しかしコットンでないとすると……ん? なにやら甘い香りが」
「そりゃそうだよ。だってこれ、砂糖で作ったお菓子だもん」
「なんと、砂糖から作った菓子とな!? ではこれは飴細工じゃと言うのか」
僕の話を聞いてびっくりするロルフさん。
そう言えば綿菓子って綿飴とも言うんだっけ。
「えっと、うん。その飴細工って奴であってると思うよ」
「なんと……これ程細い飴細工をこれ程の量、作り出すとは。これを作った者は、よほど腕の立つ料理人なのじゃろうな」
ロルフさんはそう言うと、そっと雲のお菓子に手を伸ばす。
そして少しだけちぎると、それを口に運んだんだ。
「むぅ。あっと言う間に溶けおるわい。して、まるで口の中に残らぬと言う事は、見た目以上に細い飴を作っておると言う事じゃな。しかしこれ程の技術を持った職人ならばエーヴァウトが見つけてこの街に店を出させていそうなものじゃが……。いや、それ程世界は広いと言う事なのじゃろう」
「えっと、ロルフさん、何言ってるの?」
「ん? おお、これはすまんかった。あまりに素晴らしい技を見せられて感動しておったのじゃよ。しかし、これほどまでの技術を持つ料理人が作った菓子ならば、かなりの値がしたとしても不思議ではない。そんなものをわしが貰っても、本当によいのか?」
「だから何言ってるのさ。これ、作ったの僕だよ」
「なに!? ルディーン君は魔法の才や錬金術の才だけでなく、これ程の飴細工を作る技術まで持っているというのか!?」
僕の言葉に目を見開いてびっくりしてるロルフさん。
その様子を見て、僕は大慌てしたんだ。だってそんな技術は持ってないもん。
「違うよ! 確かに作ったのは僕だけど、飴細工とか言う技術で作ったわけじゃないよ。それにこれ、誰でも簡単に作れるんだ。だって魔道具を使って作ったお菓子なんだから」
「なんと!」
僕は勘違いしてるロルフさんに、前回作り方を教えてもらった火の魔石と今までも何度か作った事がある回転する魔道具を組み合わせてこの雲のお菓子を作る魔道具を作った事、そしてこのお菓子は次の日になるとしぼんじゃって美味しくなくなるから、その魔道具を馬車に乗っけてイーノックカウまで持ってきて、ここに来る前に作ったんだよって教えてあげたんだ。
「それでは本当にこの菓子は魔道具で作ったというのじゃな?」
「うん。宿に預かってもらっている馬車の中においてあるから、作るとこ見たいなら後で持ってくるよ」
そんなに大きなものじゃないし、重さも僕が抱えて運べるくらい軽い物だから見たいって言うのなら馬車から降ろして持ってくればいいだけだもん。
お砂糖をあんまり持ってきてないからいっぱいは作れないけど、ちょっとだけなら魔道具をここに持って来て作る事はできると思うんだ。
「ふむ。それが本当なら作っている所をこの目で見たいのう。何せ魔道具で作っていると言われても、今もって何がどうやったら出来上がるのか、さっぱり解らんのじゃから」
「うん、解ったよ。特許? とか言うのが済んだら持ってきてあげるね」
そう僕がロルフさんに約束した、まさにその時。
バン!
「これ、一体なんなの!? どうしてこんな物が作れるのよ!」
カウンター後ろの扉が勢いよく開けられ、中から凄い顔をしたバーリマンさんが飛び出して来て僕に向かってそう叫んだんだ。
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