79 そう言えばそっか
「えっと、つまりルディーンは、これから何時でもこの場所に魔法で一瞬にこれるようになったって事か?」
「うん、そうだよ」
一通り喜んだ後、お父さんに何がどうなってるのか説明しろって言われたから僕はジャンプって言う魔法を使って転移したんだって教えてあげたんだ。
「なるほど、それは凄いな。じゃあ村にも一瞬で帰れるのか?」
「ううん、それはまだ無理。だってジャンプで転移するにはさっき放り投げた魔法陣を刻んだ魔石がいるもん。あれはまだ一個しかないから、ここにしか飛べないんだ」
「そうか。もし村にも一瞬で行けるのなら、これから急に欲しいものができた時にルディーンに買ってきてもらえるのになぁって思ったんだが」
そうだよね。
もし魔法陣を刻める魔石がもう一つあったら当然村にも魔法陣を設置してだろうし、もしやってたらここでそっちにもちゃんと飛べるかの実験をして見せて、僕もお父さんにこれからはいつでも簡単に買い物に来れるねって言ってたと思うんだ。
「うん、僕もそのつもりでここに魔法陣を置いたんだよ。でね、今度手に入ったらうちの庭にも設置するつもりなんだ。そしたら行って帰って来られるようになるからね」
「なるほど。でも特殊な魔石なんだろ? 簡単に手に入るのか?」
「そうだなぁ、今度お兄ちゃんとお姉ちゃんが森に連れて行ってくれるって約束してくれてるから、その時にいたら狩って来ようって思ってるんだけど」
僕の言葉を聞いて、ちょっと不思議そうな顔をするお父さん。
ん? 何で不思議そうなんだろう。僕、なんかおかしな事言ったかなぁ?
「ルディーン、その魔石ってグランリル近くの森でも取れるものなのか?」
「さっきの魔法陣が刻まれた魔石の事? ううん、あれは錬金術とか魔法とかを使って作る物だから、森では取れないよ。取れるのはあれに加工する前の魔石」
「……それは、その魔石を落とすのは、そんなに簡単に狩れる魔物なのか?」
「う~ん、僕1人だとまだ無理だろうけど、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいれば多分大丈夫だと思うよ。だってブラックボアは、お兄ちゃんたちのパーティーが森で偶然出会った時に、なんとかやっつける事ができたって前に言ってたもん。僕の魔法で弱らせれば多分大丈夫」
この間より僕のレベルがかなり上がってるからちゃんと不意打ちで頭を狙い打つ事ができれば多分大丈夫だとは思うんだけど、もし最初のマジックミサイルでやっつけられなかった時はお兄ちゃんやお姉ちゃんに魔力を循環させて次のマジックミサイルが撃てるようになるまでの足止めしてもらわないといけないんだよね。
だからお兄ちゃんたちと一緒なら大丈夫だとは思うけど、もし狩るとしたらちゃんとお兄ちゃんたちと話し合ってからじゃないとダメだよねって思ってるんだってお父さんに話すと、
「ブラックボアの魔石? その程度の物でいいのか? なら何故早く言わなかったんだ」
なんて言われちゃった。
お父さん曰く、その程度の魔石ならお父さんたちのパーティーが安全に狩れるレベルの魔物から取れるんだから、うちにもいっぱいあったんだって。
「まぁ前回イーノックカウで売ってしまったから何十個もあるわけじゃないけど、3つ4つなら倉庫に転がってると思うぞ」
そう言えばそっか! お父さんたちはブラウンボアさえ狩るんだから、ブラックボアの魔石くらいなら持っていてもおかしくないよね。
と言う訳で、僕は家に帰ったらその魔石を一つ、貰えることになったんだ。
よし、これでいつでもイーノックカウに来る事ができるぞ! お父さんからの提案に、僕はホクホク顔で馬車に揺られながらイーノックカウへと向かったんだ。
イーノックカウの西門でギルドカードを見せたり入街税を払ったりしてから中へ。
時間はまだ1時過ぎと言う事で、いつもグランリルの人たちが利用している宿である『若葉の風亭』に宿を取ってからちょっと遅めの昼食。
そしてその後、宿の馬車置き場で魔道具を起動してロルフさんにあげるための雲のお菓子を作ると、それが潰れちゃわないように中に皮が張られた箱に入れた。こうしておけば、潰れて硬くなっちゃう事、無いからね。
「お父さん、準備できたよ」
「そうか、じゃあ錬金術ギルドへ行くとするか。ルディーン、案内頼む」
「うん!」
それを抱えると、僕たちは宿を出て市場通りへ。そこにある小さな濃いオレンジ色に塗られた、三角屋根のお店へと向かったんだ。
「えっと……ルディーン。ここが本当に錬金術ギルドなのか?」
「うん、そうだよ。ほら、あそこにそう書いてあるでしょ」
そう言って僕が指差す先には錬金術ギルドと書かれた木の看板がかかっていた。
でもその看板も建物の雰囲気に合うようにと白く塗られた丸看板にオレンジの文字で錬金術ギルドって書かれた物が使われていたから、パッと見ただけだと小物屋さんにしか見えないんだけどね。
「ああ、確かに錬金術ギルドとは書かれているが」
とは言っても赤い扉や入り口前の花壇に咲き乱れている花たちを見ているお父さんは、やっぱり何か納得がいないような顔をしてた。
うんうん、解るよ。僕も初めて来た時は同じように思ったもん。
それに字が読めない人もいっぱいいるんだから、こんな風な見た目だと間違えて入ってきちゃう人がいっぱいいるのも仕方ないと思うんだ。
僕でもそう思っちゃうくらいこの建物はギルドっぽくないんだけど、でもここが錬金術ギルドで間違いないんだよね。
カランカラン。
「こんにちわ」
だから僕は躊躇無く扉を開けて、中に入っていったんだ。
「おや? 君はこの間の坊やじゃないか。またこの街に来たのかい」
「うん! 今日はね、お父さんと一緒なんだよ」
カウンターにいて入ってきた僕にそう声をかけてきてくれたのは、白くて長いお髭の前回と同じく薄紫色のローブに丸いメガネをかけたロルフさん。
そしてその隣には、濃い紫色の大きなつばの付いた三角帽子を被り、同じ色のローブを着た女の人が居たんだ。
「あら、は……ロルフさん。もしかしてこの子が先日話してくれたルディーン君?」
「うむ。そうの通りじゃよ、ギルマス。この子が”あの”ルディーン君じゃよ」
えっ、ギルマス? って事はこの人が錬金術ギルドのギルドマスター?
歳はお母さんと同じか、ちょっと上くらいかな? 銀色のストレートヘアーにダークグレーの瞳。それにあまり外に出ないのか色白でちょっとやせすぎな印象のその人は、僕が前にここにきた時の話をロルフさんから聞いていたのか、こっちの方を見ながら手を合わせて笑顔になっていた。
「ねぇ、ロルフさん。この人が錬金術ギルドのギルドマスターさんなの?」
「おお、そう言えばルディーン君とは初対面じゃったのぉ。ほれギルマス、わしが言うより自己紹介をした方が早いじゃろ」
「ええそうね。こんにちは、ルディーン君。私がイーノックカウの錬金術ギルドのマスターをしているぺトラ・バーリマンよ。よろしくね」
「こんにちわ。ルディーン・カールフェルトです」
そっか、やっぱりこの人がギルドマスターなんだね。
前にロルフさんがギルド入り口近くのテーブルにあるアミュレットはギルドマスターが趣味で作って売っている物だって言ってたけど、確かにこの人なら可愛い小物のアミュレットを作りそう。なんとなく部屋でレース編みとかしてそうな人だもん。
僕がギルドマスターの姿を見てそんな感想を持ってると、その隣にいたロルフさんが僕の後ろに目を向ける。
「ところでその後ろの方が、ルディーン君のお父さんかい?」
「あっ、申し遅れました。ハンス・カールフェルトです。先日はルディーンがお世話になったそうで、ありがとうございました」
そこにいたのは僕に続いて錬金術ギルドに入ってきたお父さん。
緊張してるのか、いつもと違ってこんな風にちょっと硬い挨拶をしたお父さんだったけど、
「いやいや、何もしとらんよ。むしろルディーン君のおかげで助かったくらいじゃわい」
ロルフさんは笑いながらそう答えたんだ。
そしてロルフさんも自己紹介。
「わしはよくこの錬金術ギルドで店番をしているロルフという年寄りじゃ。ギルマスと違ってこのギルドでは何の権力も持っとらんから緊張せんでもよい。ところでルディーン君、ちょっと見ない間に流暢に話すようになったのう。前に会ったのはつい先日だったような気がするが、その時はまだ少々舌っ足らずじゃったのと思うのじゃが」
「そう? 自分では解んないなぁ。お父さんもそう思う?」
「ん? ああ。この間、森に入ったろ。その次の日くらいからそんな感じだな」
そっか、お父さんがそう言うのならそうなんだろうね。
そう言えば前にイーノックカウ近くの森でレベルアップした時もそんな事言われたし、多分あの時と同じようにレベルが上がった事で呪文が言いやすいよう、舌がうまく動くようになったのかもしれないね。
「まぁ、そのせいでシーラやヒルダが残念がっていたがな。折角可愛いしゃべり方だったのにって」
可愛いしゃべり方って……僕、男の子なんだから可愛いって言われても全然うれしくないのに。
でもよかった。ちゃんとしゃべれるようになって。
これでもう誰からも可愛いだなんて思われないよね。
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